24日の日経平均は前日比108円安の16,892円でした。日経平均はしばらく17,000円近辺で、推移すると見ています。

今日は、昨日のレポート(建設・土木株の投資判断)の続編をお届けします。私は先週、東北復興の工事現場を見るために、宮城県気仙沼市と岩手県陸前高田市を訪問しました。そこで感じたことを、お伝えします。

(1)東北復興を完結するまで、まだ長い年月を要する見込みです

阪神淡路大震災(1995年1月)の後の、神戸の復興は、迅速だったと言えると思います。土地の再配分など難しい問題はありましたが、多くの問題を乗り越え、地震に強い新市街地を再生することができました。

それと比べると、東日本大震災(2011年3月11日)からの復興には、長い時間がかかっていますが、まだゴールが見えません。既に5年が経過しましたが、いまだに、仮設住宅での生活を余儀なくさせられている方々がたくさんいらっしゃいます。地元には「10年たっても復興は完結しないだろう」と悲観的な声もあります。

阪神淡路大震災の被害は、ほとんど地震と火災によるものだったので、地震に強い市街地を再生するという基本方針がすぐ決まりました。日本の耐震建築技術は高い水準にあり、基本方針に沿って粛々と復興が進められました。

一方、東日本大震災は、被害の大部分が津波によるもので、復興の基本方針をなかなか決められないことに問題があります。防潮堤・カサ上げ(山を削って取った土で低地の地盤を高くする)・住宅の高台移転などの対策が検討されて実行されていますが、住民の意向に合わないものが多く、進捗が遅れています。

気仙沼市と陸前高田市で、聞いたことを、以下に記載します。

(2)国主導の防潮堤整備計画に、住民の間では賛否が分かれる

東北電力の女川原発では、大型津波を想定して海抜14.8メートルまで敷地の位置を高めていました。そのため東日本大震災の直後に13メートルの津波【注1】に襲われても、臨界事故を防ぐことができました。

【注1】女川では地震の直後に約1メートルの地盤沈下が起こりました。そこに最高13メートルの津波が来ました。14メートルの津波が来たのと同じ結果となりました。

一方、東京電力の福島原発では、10メートルの防潮堤しか築いていませんでしたので、津波による原発事故を防げませんでした。

こうした事態を踏まえ、国主導の復興では、まず、岩手・宮城・福島県の海岸に、総延長370キロメートルの防潮堤を築く計画が作られました。ただし、それだけ長い距離に、高さ15メートルの巨大な防潮堤を築くのには、コストがかかり過ぎる上に、海岸の環境や利用に及ぼる影響が大きくなることから、高さは10メートル内外とし、危険度に応じて高さを調整することになりました【注2】。

【注2】国は、数百年に1度と言われる東日本大震災規模の津波をレベル2と定義し、それより大きさの小さい津波で、数十年から百数十年に1度発生すると考えられるものをレベル1と定義しました。レベル2の津波を防潮堤だけで防ぐのは現実的ではないとして、レベル1の津波を防げる高さに設定したわけです。ちなみに女川原発は、高さ14メートルの敷地に15メートルの防潮堤を築き、防潮堤を海抜29メートルの高さまで引き上げる計画としています。

ところが、地元住民の間では、この防潮堤計画が不評です。震災直後は反対が少なかったが、時間がたつにつれて反対意見が増えてきました。景観が損なわれる・観光業や漁業にダメージがある・海を基盤とした生活が成り立たなくなるなど、さまざまな意見が寄せられています。地域ごとに住民の意見を聞きながら防潮堤の整備を進めているので、整備は遅れが目立ち、2020年までに総延長370キロメートルを整備する予定ですが、現時点でまだ2割程度しか完成していません。

気仙沼市は、漁業および観光業が重要な産業となっているので、防潮堤への反対が根強く、地域別に住民に説明会を開いて承認を得るのに時間がかかっています。気仙沼市唐桑町に建設中の防潮堤は、当初10メートル程度の高さにする予定でしたが、住民の反対により7.7メートルに高さが変更されています。防潮堤に一定間隔で、海岸が見えるように強化ガラス窓をつけるなど、地元の声に配慮しています。

陸前高田市には、鹿島(1812)を中心とするJVが、高さ3メートルの防潮堤(第一線堤)と、高さ12.5メートルの防潮堤(第二線堤)を約2キロメートルにわたって建設しています。ここはもともと7万本もの松林と美しい砂浜が広がる海水浴場でした。第一線堤と第二線堤の間に、かつて存在した松原を再生する計画としています。ここでも住民の反対はありますが、工事は進められています。

陸前高田市には、7万本の松原が壊滅する中で、たった1本だけ奇跡的に残った「奇跡の一本松」があり、全国的に有名になりました。奇跡の一本松は、その後、遺憾ながら枯死が確認されましたが、人工的な保存作業が施され、今も現地に残っています。保存技術は精緻で、今でも下から見上げると、青々とした松葉をつけた松の巨木に見えます。観光資源として、高い価値を持つようになっています。

(3)住宅の高台移転も計画通りには進んでいない

仮設住宅での生活が続く人が今でも多いのは、経済的な問題に加え、元住んでいた場所に住居を再建する許可がおりないことも一因です。津波の被害が大きかった地域では、防潮堤が完成するまで、本格的な街作りは開始できなくなっています。防潮堤の建築の遅れが、街の再生の遅れにつながっています。

今、建築許可が出るのは、オフィス・工場・店舗などの商業施設が中心です。住居の建築許可はおりません。気仙沼と陸前高田の被災地域では、3階建ての堅固な造りのビルがポツポツと建ち始めています。ただ、被災して使えなくなったビルで撤去することもできずに残っているものも混在しており、5年たっても復興は緒に付いたばかりの印象です。

復興計画では、住居は高台に移転する方針です。防潮堤が完成しても、レベル2クラスの巨大津波は防げませんので、原則、低地に住居は作らない方針です。津波被害の大きかった地域(沿岸部および川の周辺:川を伝って津波が奥地まで入るため)には、住宅の建築許可は出ない見込みです。

高台に住居用の敷地の整備が進んでいます。ところが、高台へ移転する人も、まだ少ないのが現状です。元住んでいた場所に戻りたいという気持ちが強いこともありますが、それだけではありません。現地で、建設労働者の人手不足が深刻で、建築コストがどんどん上昇していることも、住居建設が進まない理由です。補助金を受けても、住宅を新築するのは困難な状況です。高台移転は、警察署や役所など、公共部門がまず率先して実施している状況でした。

(4)災害公営住宅は入居率が高まりにくい

気仙沼および陸前高田市では、震災で住居を失った人のために、災害公営住宅(市営マンション)の建設が進んでいます。被災者であれば、民間の同等の賃貸マンションよりも低い家賃で入居することができます。

ただ、災害公営住宅が完成して、仮設住宅に住んでいる人に移転を呼びかけても、入居率が高くならない問題があります。賃料の設定方法が原因という声もあります。収入によって家賃が異なり、低所得者は安い賃料で入居できますが、一定の収入がある人には、民間の同等のマンション並みの家賃が課せられます。低所得者の入居は進んでも、一定の収入のある人は災害公営住宅への入居を敬遠する問題が起こっています。

(5)JR大船渡線(気仙沼―陸前高田―大船渡)の復旧は断念

岩手・宮城・福島の海岸線を走るJR線は、津波で被災し、広域にわたって線路が消滅しました。もともと、不採算だった路線が多く、今でも復旧のメドがたっていないところがたくさんあります。

岩手県の三陸鉄道(北リアス線(久慈―宮古)・南リアス線(釜石―盛))は、全線復旧した後、NHKの朝ドラ「あまちゃん」ブームの恩恵で観光客が増えて何とか黒字化し、話題になりました。ブームが一時で終わらず、黒字を定着させられるかが鍵です。

JR大船渡線(気仙沼―大船渡間)は、鉄道復旧を目指して努力してきましたが断念し、JR東日本が運営するBRT【注3】というバス輸送によって代替されることになりました。

【注3】JR東日本が運営するバス高速輸送システム。これまで鉄道が通っていた場所にバス専用線を作り、渋滞などによる遅延なくスムーズな運行を可能にすることを目指す。これまでJR駅として使っていた場所を、そのままBRTの発着駅とするほか、地域住民の利便性を考えて、停留所を増やすことも自在。JR気仙沼駅では、鉄道とBRTが同じホームに乗り入れ。将来、完全なバス専用線を完成させる予定だが、現時点で気仙沼―大船渡間を走るBRTは、専用線だけでなく、一般道も使って運行している。

将来、バス専用線が完成すれば、BRTは鉄道と同様、発着時刻の正確性を確保できる予定です。ただし、現時点では、一般道も使いながらの運行です。地元の声では、今は遅れることがあり、通勤・通学に使う人は苦労しているとのことです。

陸前高田市ではこれまで、鉄道復旧を目指して、土木工事を行ってきました。鉄道が通る予定のルートに盛り土をして準備していましたが、そこに鉄道は通さないことになりました。盛り土の上に鉄道を走らせることで、第二の防潮堤【注4】の役割を果たすことも、当初は期待されていました。

【注4】東日本大震災クラスの大規模津波が来ると、陸前高田に建設中の12.5メートルの防潮堤も超える可能性があります。その際、鉄道の盛り土が第二の防潮堤となって津波を止めることが検討されたこともありました。鉄道を断念してBRTを完成させることになったため、この盛り土をどう活用するかも考えていくことになります。

(6)高速道路の建設は予定通りに進行

鉄道からさらに内陸に入ったところで、三陸自動車道の高速道路建設が進んでいました。三陸自動車道は、宮城県仙台市から岩手県宮古市まで沿岸部を通る224キロメートルの幹線道路です。現在、高速道路となった部分と一般国道のままの部分があります。それを全線高速道路とする工事が進んでいます。高速道路整備の必要性については、議論の余地なく、計画通り進んでいます。

(7)建設・土木セクターへの投資に与える影響

建設・土木セクターには、東北復興・リニア新幹線・東京再開発・国土強靭化など、2020年まで豊富な仕事量があり、業績は好調に推移すると予想されます。リニア新幹線は、ほとんどの区間がトンネルとなるので、大型の土木工事が必要です。東京再開発(東京オリンピック実施を契機に東京の社会インフラの整備を進めること)でも、仕事量は増えそうです。

東北復興は、方針が明確になれば、土木工事に莫大な需要が発生すると感じました。ところが、方針を明確に定めることができない状態が続いているので、ここから急に仕事量が増えると考えにくいところです。2020年まで、一定量の工事量が出続けると予想されます。

なお、現地で、鹿島(1812)、清水建設(1803)、安藤・間(1719)など大手ゼネコンの名前の入った看板をよく見ました。大型の土木工事では大手ゼネコンが強いことを再確認しました。