25日の日経平均は前日比402円安の16,708円でした。24日の米国市場で、WTI原油先物が1バレル30.34ドルと前日比1.85ドル下がったことを嫌気し、欧米株式が売られた流れが続きました。25日の上海総合株価指数が前日比6.4%安と急落したことも嫌気されました。

なお、25日はWTI原油先物の反発を好感し、NYダウが282ドル上昇し、CME日経平均先物は17,055円となりました。これを受けて、今日の日経平均は上昇が予想されます。

読者の皆様より、「鉄鋼株の足元の状況をレビューしてほしい」と要望がありましたので、今日は鉄鋼株の業績レビューを行います。

(1)原油先物に敏感な世界の金融市場

足の速い海外ファンドの動きにより、世界的にリスク資産(株・商品先物・高金利通貨・ハイイールド債など)が一斉に売られたり、買われたりする日々が続いています。その中心にあって世界の投機マネーが一番注視しているのが、原油先物です。

原油先物が下がった日には、①世界景気悪化、②一部資源国の信用不安、③産油国による金融資産の換金売り増加などの懸念が広がり、リスク資産が全面安になります。原油先物が大きく反発した日には、①世界景気へのマイナス影響緩和、②信用不安の緩和、③産油国の換金売り減少などの連想が働き、世界的にリスク資産が買い戻されています。

しばらく、原油先物の動きに世界の金融資産が振り回される日が続きそうです。

(2)鉄鋼業は、高炉と電炉で業績が二極化

2016年3月期の鉄鋼業の業績(会社予想)は、完全に二極化しています。電炉は、業績見通しを複数回にわたり上方修正しています。これに対し、高炉は、複数回にわたり業績見通しを引き下げてきています。

鉄鋼石と石炭(原料炭)から鉄鋼製品を一貫生産するメーカーを高炉メーカーといいます。新日鐵住金(5401)・JFE HLDG(5411)・神戸製鋼所(5406)などです。一方、鉄スクラップを原料として、電気炉で主に建設資材を作る企業を電炉メーカーといいます。東京製鉄(5423)・共英製鋼(5440)が、代表的な電炉メーカーです。

 

電炉メーカーの2016年3月期経常利益(会社予想)の推移

(金額単位:億円)

コード 銘柄名 2015年4月21日 10月20日 2016年1月8日 前年比
5423 東京製鐵 120 130 170 +29%
コード 銘柄名 2015年4月30日 7月31日 10月30日 前年比
5440 共英製鋼 85 110 125 +0.1%

(出所:各社決算短信、東京製鐵は単体、共英製鋼は連結データ)

 

高炉メーカーの2016年3月期経常利益(会社予想)の推移

(金額単位:億円)

コード 銘柄名 2015年4月28日 7月29日 10月29日 前年比
5401 新日鐵住金 未定 3,700 2,500 ▲45%
コード 銘柄名 2015年4月23日 7月30日 10月29日 前年比
5411 JFE HLDG 2,300 2,000 1,000 ▲57%
コード 銘柄名 2015年4月28日 9月28日 10月30日 前年比
5406 神戸製鋼所 950 650 550 ▲46%

(出所:各社決算短信、3社とも連結データ)

(3)原料安効果の出るタイミングの違いが、業績動向を分けている

同じ鉄鋼業なのに、高炉と電炉でなぜ、業績の出方が違うのでしょうか?答えは、原料安効果の出るタイミングの違いにあります。高炉も電炉も、今期は、製品価格と原料価格が両方とも大きく下がっています。

高炉は、高値の原料在庫(鉄鉱石・石炭)を抱えているために、原料安効果が出るのが遅れます。製品価格が下がる中で、原料安効果が出るのが遅れるため、高炉の業績は大きく悪化します。これに対し、電炉は鉄スクラップと電気を使って製品を作りますが、原料在庫はほとんどありません。製品価格が下がる中で、それを上回る原料安効果がすぐに得られているために、今期業績の改善幅が拡大しています。

(4)今鉄鋼株を保有するならば電炉メーカーを優先すべきと考える

東京製鐵(5423)は、1月8日に今期業績予想を上方修正し、1月22日の第3四半期(2015年10-12月期)決算発表時に自社株買いを発表したことが好感され、1月25日に株価は9%上昇しました。26日も日経平均が大きく下がる中で、株価は前日比0.3%高となっています。

共英製鋼(5440)はまだ第3四半期(10-12月)決算を発表していませんが、良好な決算が見込まれ、株価は足元堅調です。

一方、高炉3社は、今期業績がさらに悪化する可能性があり、注意を要します。3社ともまだ第3四半期決算を発表していないので、まずは決算内容を確認する必要があります。

(5)高炉は原料安効果が得られる来期に期待

高炉が使用する鉄鋼石や石炭など原料価格は2年連続で大きく下がりました。1月に入って円高が進んだことも、円建てで見た輸入価格を引き下げます。ところが、今期は原料安メリットが出ません。メリットが出るのは来期になります。

原料価格の低下は、長期的には高炉の業績を押し上げる要因ですが、今期は逆に業績を悪化させる要因となります。今期は価格下落前の高値で仕入れた原料在庫が残っており、計算上、在庫評価損(キャリーオーバー:注)が発生するからです。

(注)在庫評価損(キャリーオーバー)

高値原料を持ち越しているために総平均法を使った時に発生する利益の圧縮効果を、キャリーオーバーといっています。社内管理会計で計算するもので、正式な会計勘定ではありません。

新日鐵住金(5401)で、在庫評価損(キャリーオーバー)は上半期に300億円以上発生していたと推定されます。通期では、さらに拡大していると考えられます。

ただし、来期になると、高値在庫が減少しキャリーオーバーがなくなる分、増益率が高くなることが予想されます。今期の業績悪化の織り込みが終われば、来期の増益を期待して投資していくタイミングに入ると思います。ただし、現時点で今期の業績悪化が完全に織り込みが済んでいるかわかりません。とりあえず、第3四半期の決算発表を待ち、その内容を確認したいと思います。