13日の日経平均は、前日比496円高の17,715円でした。年初から外国人投資家の強引な売りで急落してきた日経平均ですが、テクニカル指標で「短期売られ過ぎ」シグナルが出てきており、13日は自律反発となりました。

今日は、大手総合商社の投資について、考えていることを書きます。

(1)商社株は、資源が全面安となった影響に注意が必要

大手総合商社は、好配当利回り株として注目されています。以下の表でわかる通り、予想配当利回りが高いことに加え、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの値が低く、株価は割安と考えられます。長期的には投資魅力の高い銘柄群であると考えています。

大手総合商社の株価バリュエーション:2016年1月13日時点

コード 銘柄名 13日終値 PER:倍 PBR:倍 配当利回り
8001 伊藤忠商事 1,342.0 6.4 0.8 3.7%
8002 丸紅 580.5 5.5 0.7 3.6%
8031 三井物産 1,359.0 10.1 0.6 4.7%
8053 住友商事 1,192.0 6.4 0.6 4.2%
8058 三菱商事 1,909.5 10.0 0.6 2.6%

(出所:楽天証券経済研究所が作成)

ただし、短期的には警戒すべき状況にあります。大手総合商社は、原油・LNG・鉄鋼石・石炭・銅などの資源権益を積極的に取得してきた「日の丸資源会社」となっています。2年連続で、資源価格が急落したことで、今後どのようなマイナス影響が及ぶか、慎重に見極める必要があります。

前年度(2015年3月期)に、大手総合商社は、高値で取得した資源権益に減損が発生しました。今年度(2016年3月期)、資源価格が一段安となったことから、追加で減損が発生するリスクも出てきたと考えています。

減損額が大きいと、配当予想額を引き下げなければならなくなる可能性もあります。そうなると、上の表に記載した予想配当利回りが実現しなくなります。今の魅力的な配当を維持していけるか、まずはこれから始まる2015年10-12月期(今年度第3四半期)の決算内容を見て考えることが必要です。

(2)原油は構造的な供給過剰に

急落してきた原油価格が急反発すれば、資源関連株である大手総合商社株も、大きく反発すると予想されます。ただし、原油は構造的な供給過剰に陥っており、反発しても上値は重いと考えられます。

WTI原油先物は、12日には1バレル30ドル台まで下がりました。2年前に1バレル100ドルを超えていたのと比べ、3分の1以下です。今回の原油急落を引き起こしているのは「供給過剰」です。従来、原油を生産することができなかった深海やシェール層からも原油が取れるようになったことが、構造的な供給過剰を生じています。

まず、過去2年の原油価格の推移を簡単に振り返ります。

WTI原油先物(期近)の推移:2014年4月1日―2016年1月12日

(出所:シェールオイル生産コストは楽天証券経済研究所の推定)

2014年の原油急落は、アメリカのシェールオイル生産拡大によって引き起こされました。シェールオイル増産で、アメリカの原油輸入が減少したために、原油は世界的に供給過剰となりました。ただし、2015年に入って原油価格は一時反発局面に入りました。原油急落によって、小規模のシェールオイル油井がコスト割れとなり、シェール業者に破綻も増加したことから、シェールオイル生産が先行き大幅に減少するとの思惑が広がりました。

ところが、2015年後半に入って、原油は再び、大幅に下落しました。これには3つの理由があります。

  • 中東の原油生産が予想以上に増加。
  • 米国シェールオイルの生産が予想ほど減少しなかった。
  • 中国の景気減速で需要の伸びが鈍化。

中東産油国は、原油急落を受けて、生産を減らすどころか、逆に生産を増やす国が増えています。価格下落による原油収入の減少を、増産によって補おうとしています。イランは、米国からの経済制裁が解かれる見通しとなったことから、将来の輸出増加をにらんで原油を増産しています。

中東で地政学リスクが高まっていることも、原油価格の上昇につながらなくなっています。紛争が耐えないイラクでも原油生産は増えています。中東以外の地域からの供給圧力もあります。

米国では、コストの高いシェール油井に破綻・撤退するところも出ていますが、コストの低い大型油井では、生産技術を進化させて生産を大幅に増やし、さらに生産コストを下げるところも出ています。

生産技術の革新によって、価格が急落しているのは、原油だけでありません。鉄鋼石・石炭・天然ガス・銅・白金など、あらゆる天然資源が一斉に急落しています。生産技術の革新によって、価格が急落するのは、ハイテク製品の世界では当たり前のことです。ところが、21世紀に入り、天然資源は供給に限りがあったために、世界的に需要が拡大する中で供給不足が顕在化し、価格が急騰していました。ところが、価格高騰が生産技術の革新を生み、それが天然資源の供給過剰を生じるにいたりました。天然資源もようやく、ハイテク製品と同様に、供給過剰によって価格が下がる時代になったといえます。

(3)銅の急落にも警戒が広がる

LME(ロンドン金属取引所)の銅地金価格の推移:1998年1月―2016年1月

銅価格が下げ止まらないことにも、警戒が必要です。日本には、銅価格が高かった時期に南米銅鉱山への大型投資を決断した企業が多いからです。銅鉱山への投資額が大きい企業が多いのは、業種でいうと非鉄と商社です。

銅精錬事業(銅鉱石を仕入れて精錬する事業)はかつて非鉄大手企業の主力事業の1つでした。2000年代に入って、世界で銅鉱山の力が強くなり、精錬マージン(利ざや)の縮小が続いたことから、非鉄大手各社は精錬事業を縮小し、鉱山への開発投資を増加させる決断をしました。一方、大手総合商社は、海外でさまざまな資源権益の取得を行っており、共同で銅鉱山へも積極投資しました。

住友金属鉱山(5713)は住友商事(8053)と共同で、チリのシエラゴルダ鉱山に大型投資を実行しました。JX HLDG(5020)は、子会社のJX日鉱日石金属を通じて、三井金属鉱業(5706)とともに、チリのカセロネス鉱山に大型投資を行っています。また、丸紅(8002)は、チリのエスペランサ鉱山などに大型投資を行っています。