鉄鋼業の今期(2016年3月期)業績見通しが悪化してきています。これから始まる9月中間決算で、鉄鋼業では業績見通しを下方修正する企業が増えると考えられます。ただし、株価は、業績悪化を織り込んで、先に下落しており、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの指標から見て割安になっています。こうした環境下、鉄鋼株の投資をどう考えるべきか、私の考えをお伝えします。

(1)中国発の鉄鋼不況が、世界に広がる

世界的な鉄鋼不況の震源地は、中国です。中国は、鉄鋼製品の巨大な需要国であり生産国です。中国で需要が伸び悩む中で、生産拡大が止まらないことが世界的な供給過剰を招いています。

中国の国営企業は、鉄鋼市況が下落しても、なかなか鉄鋼増産をやめません。資本主義国の民間の鉄鋼企業ならば、鉄鋼市況が悪化する局面では、減産します。ところが、社会主義国の国営企業は、そうした経済原理を無視して動く傾向があります。無謀な増産を続ける国営企業に金を貸しているのがまた国営銀行のため、融資を絞るなどの方法で、増産に歯止めをかけることが、あまりありません。

中国は、中国国内で余った鉄鋼製品を減らすため、安値で輸出攻勢をかけてきています。それが、世界の鉄鋼市況を下落させています。

(2)中国発の鉄鋼不況の影響を受けにくい新日鐵住金(5401)とJFE HLDG(5411)

過去の世界的な鉄鋼不況の時の収益変動を見ると、日本の高炉(鉄鉱石から一貫生産する鉄鋼メーカー)の中で、新日鐵住金(5401)と、JFE HLDG(5411)の2社は、海外の鉄鋼不況の影響を、相対的に受けにくいといえます。

この2社は、技術力で差別化ができています。中国メーカーが作ることができないハイエンド・スチール(自動車・家電製品向け)の生産比率が7~8割と高いため、中国が安値品で輸出攻勢をかけてきても、直接の影響は受けにくくなっています。中国製品と競合する汎用品(建設資材)についても、近年は、円安(人民元高)が大幅に進んだことで、日本国内では、中国からの安値品流入は少なくなってきています。

ただし、日本の高炉メーカーにとって重要な輸出先である東南アジアでは、中国の安値輸出の影響を受けます。東南アジアでの市況下落の影響で、日本の高炉メーカーの輸出採算は悪化しています。

日本の高炉メーカーは、中国増産のあおりを受け、上半期は5~10%程度の減産を余儀なくされました。その影響で、新日鐵住金(5401)とJFE HLDG(5411)の今期経常利益は、経常減益となる可能性が高くなっています。問題は、下期です。下期に、日本の自動車向けの鋼材出荷が増加すれば、生産を通常レベルに戻す可能性もあり得ます。下期の生産について会社はどう考えているか、9月中間決算発表時に、会社の考え方を聴取することが大切です。

 
 

新日鐵住金とJFE HLDG連結経常利益(市場予想)

(金額単位:億円)

  新日鐵住金 前年比 JFE HLDG 前年比
2015年3月期(実績) 4,517 25.1% 2,310 33.0%
2016年3月期(市場予想) 3,536 -21.7% 1,806 -21.8%
2017年3月期(市場予想) 4,470 26.4% 2,415 33.7%

(出所:市場予想は10月15日時点のIFISコンセンサス予想)

(3)神戸製鋼所(5406)は既に今期業績予想を下方修正、中国景気悪化の影響が大きい

9月26日に神戸製鋼所(5406)は、今期(2016年3月期)の連結経常利益の見通しを、前年比▲7%の950億円から、▲36%の650億円に下方修正しました。同社発表によると、下方修正の要因は、主に以下の3点です。

  • 景気減速の影響が大きい中国で、油圧ショベルの需要が想定を下回ること
  • 加古川製鉄所における一過性の生産トラブルによる生産量の減少、及びそれに伴う保全費などのコスト増加が見込まれること
  • アルミ・銅事業部門において地金価格の下落に伴い在庫評価影響が悪化することが見込まれること

まとめると、神戸製鋼所(5406)は、中国景気悪化の影響を受けて、建設機械や銅・アルミ事業の収益が悪化した影響を大きく受けました。高炉(鉄鋼)事業の収益見通しも悪化していますが、それは一過性の生産トラブルによるもので、今のところ、中国景気悪化の影響が損益を直撃しているわけではないようです。

新日鐵住金(5401)・JFE HLDG(5411)は、建設機械や銅・アルミ事業を持たないので、神戸製鋼所(5406)ほどの大きな下方修正はないと、予想しています。まずは9月中間決算発表の内容を見極めることが必要ですが、下方修正幅が小さく、下期にかけて生産が持ち直す見通しが発表されれば、株価は反発すると思います。

あくまでも、9月中間決算発表前の判断ですが、中国景気悪化の影響が大きい神戸製鋼所(5406)への投資は避け、今は新日鐵住金(5401)・JFE HLDG(5411)の2社に投資を絞ったほうが良いと思います。

(4)原料安効果は来期にかけて顕在化する

鉄鋼石・石炭などの鉄鋼原料の市況が大きく下がっていることは、高炉メーカーにとってメリットです。ただし、それが業績にプラスに寄与するには、時間がかかります。原料価格が大きく下がった直後は、高値で仕入れた在庫が残っているため、在庫評価損が業績を悪化させます。原料安効果が、高炉の業績を押し上げるのは、来期以降となるでしょう。

(5)鉄鋼関連、投資の参考銘柄

 
コード 銘柄名 株価
(円)
連結PER
(倍)
連結経常利益(前年比)
前期実績 今期予想 来期予想
5401 新日鐵住金 2,393.5 9.1 25.1% -21.7% 26.4%
5411 JFEホールディングス 1,830.5 9.7 33.0% -21.8% 33.7%
8031 三井物産 1,486.5 11.1 -21.6% -8.0% 7.6%
8058 三菱商事 2,179.5 10.0 8.0% -12.4% 9.8%
9101 日本郵船 313.0 10.1 43.8% 3.0% 10.6%

(出所:今・来期の予想増益率は10月15日時点のIFISコンセンサス予想による。楽天証券経済研究所が作成)

も、長期投資の視点から、投資を開始してよいと考えています。まだ、中国景気悪化の問題や世界的な鉄鋼の供給過剰が解消したわけではないので、時間分散しながら、投資していくことが望ましいと考えます。日本郵船(9101)が候補となります。また、鉄鋼石や石炭を運ぶバラ積み船の収益悪化を、定期船の収益改善である程度補っている三菱商事(8058)や三井物産(8031)鉄鋼業の株を買い増しするのは、現時点では、高炉大手2社に絞ったほうが良いと考えています。鉄鋼関連では、大手総合商社にも投資して良いと考えます。資源事業(鉄鋼石・原料炭)の利益が縮小しても、非資源事業の利益の伸びで高水準の利益を保っている