「アベノミクスの3本の矢で成功したのは1番目の矢(金融緩和)だけ」という厳しめの評価が最近増えています。「2番目の矢(公共投資拡大)は一時的効果しかなく、3番目の矢(構造改革・成長戦略)はほとんど成果が出ていない」という見方につながっています。

私は、3番目の矢で、長年の懸案が実行段階に入ったことを評価しています。具体的には、①TPP、②マイナンバー、③郵政上場が実現に向けて動いていることに注目しています。この3つは、年末に向けての株式市場のテーマとしても重要と考えています。

(1)6日の日経平均は180円高の18,186円と5連騰

アメリカの年内利上げ観測が後退し、欧米株式が上昇した流れを受け、日経平均も上昇しました。日経平均は底打ちしつつあるものの、このまま一本調子の上昇を続けるのはむずかしいと思います。

日経平均週足:2014年1月4日―2015年10月6日

日経平均は18,000円台の前半を中心とした保ち合いを作りつつあるように見えます(グラフ参照)。これから7-9月の景気指標・企業業績の発表が始まります。景気・業績動向を見極めるまで、上下とも大きくは動きにくいムードが広がる可能性もあります。

(2)TPP大筋合意・マイナンバー・郵政上場の実現は、株式市場にとってポジティブ

自民党総裁選で、無投票再選を果たした安倍首相が9月25日に打ち出した「新3本の矢」では、GDP600兆円を目指すことが宣言されました。今年は安保法制の成立に執心し、経済政策がおろそかになっているとの批判があることに対応し、「経済政策を重視する」メッセージをこめたものと考えられます。ただし、600兆円に向けての具体策が乏しく評価できないとの声もあります。

アベノミクスでは、構造改革・成長戦略のメニューは、既にたくさん出されています。ここから新しいメニューをさらに増やすより、既に出ているメニューを着実に実行することの方が大切です。

その意味で、長年実現できなかった構造改革・成長戦略が今、次々と実現に向けて動いていることに注目しています。日本中を二分して賛否が争われた、TPP・マイナンバー・郵政上場が、今実現しつつあることには、深い感慨があります。

  • TPP実現へ
    実現すれば、貿易立国の日本に大きなメリットがあります。TPPは、日米主導の経済圏作りの核となります。中国主導の経済圏作りに対抗する狙いもあります。日本と米国は、中国主導で設立されたAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加を見送りました。資本主義の基本的ルールが守られていない中国が主導する経済圏作りとは一線を画し、TPPを通じて日米主導の経済圏を作っていく方針です。
  • マイナンバーの通知が始まる
    マイナンバーは行政分野の効率化を進める切り札となります。何十年も前から導入が検討されながら、保有資産などがガラス張りになることを嫌う富裕層などの反対で、実現しませんでした。ところが、「消えた年金」などの問題発生を受け、マイナンバー実施への機運が高まり、今回、実現する運びとなりました。
    これで、行政分野の効率化が大きく前に進むでしょう。「電子政府」の実現に向けて、重要な一歩となると思います。先を見ると、行政分野だけでなく、民間分野での利用も視野に入っています。ただし、マイナンバー情報のセキュリティ管理などのインフラが整うことが、利用拡大の鍵となります。
  • 郵政3社の上場
    郵政民営化の仕上げとしてのグループ3社が上場します。親子上場という不透明さがあるものの、巨大な官業ビジネスを民営化し、効率化していく方向に向けて、重要な一歩となります。
    JR・JT・NTTドコモなど、過去の大型民営化株は、10年20年かけて経営を効率し、成長産業になってきた実績があります。その成果として、当初IPO(新規上場)の時の、公募・売り出し価格対比では、株価が大きく上昇しています。郵政事業の効率化は、5年くらいかけても、大きくは進まないでしょうが、10年20年の時間をかけて、効率化や、業務範囲の拡大が進むと考えています。