13日の日経平均は、309円高の20,089円でした。日経平均は、ギリシャショックと中国ショックから先週急落しました。今週は、①EU首脳会談で13日午前(日本時間13日の夕方)、ギリシャへの金融支援延長について大筋合意されたこと、②上海株が反発に転じたことを好感し、日経平均は本日も上昇が続くと予想されます。日本の景気・企業業績の回復が続き、日経平均は年末に22,000円まで上昇すると予想していますので、この水準は引き続き買い場と考えています。

最近、上海株の急騰急落が話題になっています。今日は、上海株が急落した意味と、日本株に与える影響について考えます。

(1)中国政府の過剰な介入が、上海株を急騰させ急落させた

上海総合株価指数:2013年12月末~2015年7月13日

上海株は、中国政府によって人為的に操作された文字通りの「官製相場」で、急騰急落は中国政府の演出で引き起こされたと考えています。したがって、急騰急落が中国経済の実態を表しているとは考えていません。つまり、2014年10月からの急騰が中国経済の好調を表しているとも、6月からの急落が中国経済の悪化を反映しているとも考えていません。中国国内で大儲けした人と大損した人が出ただけで、日本への影響は限定的と考えています。

上海総合株価指数は、「なぜ1年で2,000から5,000まで急騰したか?」「なぜ1ヶ月で5,000から3,500まで暴落したのか?」「なぜ7月9日から3営業日で3,500から4,000(13日ザラ場)まで急反発したか?」この3つの「なぜ」すべてに、国家による市場介入が絡んでいます。中国は、力ずくで株式市場を思い通りに動かそうとして、うまく行かなかったのです。

2,000→5,000に上昇する過程では、中国政府はあらゆる株価引き上げ策をとりました。

  • 金融緩和
    2014年11月21日に中国人民銀行(中央銀行)がサプライズとなる2年4ヶ月ぶりの利下げ(銀行の貸し出しおよび預金の基準金利引き下げ)を実施して、株式市場に資金流入を促しました。これで上海総合の上昇に弾みがつきました。中国人民銀行はその後利下げを繰り返して、金融面から株式市場にてこ入れしました。
  • 上海市場と香港市場の相互乗り入れ実現
    中国の個人投資家ばかりだった上海市場に、香港市場経由で海外の投資マネーを流入させて、株高につなげました。
  • 信用取引の規制を緩和
    信用買いの規制を緩めて、上昇をさらに加速させました。

中国政府が株高を演出したかったのは、株高効果による消費増加で、7%の経済成長目標を維持しようとしたからです。中国の個人投資家は、「国策に売りなし」という日本の相場格言に近い感覚で、中国政府の株高政策を信じて、上海株を積極的に買いまくりました。

ところが、人為的に吊り上げられて相場は、いずれ自律的に下がるものです。中国政府が信用売りの規制を緩和した辺りから、上海株は下がり始めました。ひとたび下がり始めると、下げに歯止めがなくなりました。あわてた中国政府が、連日のように株価下支え策を発表しても効き目がありませんでした。公的資金による買い支えの発表や、利下げ、信用買いの緩和などの対策を連日でうっても、株価は下がり続けました。ついに、上海市場では、約半数の銘柄に売買停止が導入されました。中国政府の意図を受けて、多数の上場企業が一斉に売買停止を申請したためです。中国政府は、ついに下げ止まらない株価に業を煮やし、売買できないようにする奇策をうったのです。損失をかかえた株を売れなくなった中国の個人投資家から怨嗟の声が聞かれました。

ところが、株価は下がり過ぎると、反発するものです。中国政府の市場介入が効いたのか、自律反発する水準だったのか判然としませんが、株価は7月9日から急反発を始めました。最後に出た株価対策、公安当局による悪意ある空売りの取り締まり発表が一番効果あったとの見方もあります。「悪意ある空売りとみなされると逮捕される」と恐怖をあおり、売り方の買戻しを急がせました。

上海総合株価指数が、いかに人為的に動かされているか、香港に上場する中国本土株(ハンセンH株指数)と比較するとよくわかります。

上海総合株価指数と、ハンセンH株指数の動き比較:2013年12月30日―2015年7月13日

(注:2013年末を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)

同じ中国本土株でも、自由な資本主義市場である香港市場に上場しているハンセンH株は上海株のように激しい乱高下はしていません。ハンセンH株の動きが、より中国経済の実態に近いと、私は考えています。

(2)金利・為替のみならず、GDPや株式市場まで計画通りに動かそうとする中国

中国は、1980年代に社会主義国の体制を維持したまま、資本主義革命を実施しました。その成果で、1980年代以降、高成長国となりました。社会主義に留まった国々(旧ソ連・旧東ドイツ・北朝鮮など)の経済がことごとく困窮する中で、中国は社会主義の中にうまく資本主義を採りいれて、高成長しました。

その結果、中国は、極端な資本主義と、社会主義の旧弊が共存する異形の大国となりました。社会主義の旧弊は、「計画経済」という言葉に集約されています。何でも国の計画によって動かそうとします。

たとえば、これだけ経済規模が大きくなっても、金利や為替は自由化されていません。預金金利上限や貸付金利下限が決まっており、銀行は必ず利ざやが稼げるようになっています。為替も、国家管理下にあり、外国企業は中国で稼いだ利益を、自由に中国国外へ持ち出すことができません。貿易も厳しい管理下にあります。

中国の特異なところは、金利や為替のみならず、GDPや株式市場までも管理下に置こうとすることです。リーマン・ショックの直後、4兆元の公共投資を出して、強引にGDP目標を達成しました。ただし、この時に行った非効率な投資の後処理に、中国は今でも苦しんでいます。

そして、今回、株式市場まで計画通りに動かそうと、強引な市場介入をしました。世界の常識からしてありえない中国政府の株式市場介入によって、上海総合株価指数は一旦反発しました。ただし、上海株は今後も乱高下が見込まれます。政府が簡単に介入してくる市場であることが、世界に知れ渡ってしまいましたので、長期投資マネーは、上海市場を敬遠するようになる可能性もあります。

(3)中国景気が急激に悪化することはないが、2015年は6%台後半の成長に減速しそう

中国経済は、過剰投資の整理途上にあり、ここから成長が加速すると考えるには無理があります。成長率は、年々低下し、2015年は6%台後半の成長に減速すると考えられます。

ただし、中国の消費は高い成長が続いています。富裕層が大衆に広がり、消費加速につながっています。金融緩和や資源価格下落も追い風になっています。上海株の急騰急落だけで消費が失速するとは考えられません。

2015年も中国景気は6%台後半の成長率が維持できると思います。日本では「中国バブルが今にも崩壊する」という論調が多いですが、2015年も6.5~7%の高成長を維持できれば、中国経済の成長率は、世界的には高い方に入ります。

(4)日本株への影響

上海市場の急落は、心理的に日本株が売られる要因となりましたが、日本経済への直接の影響は限定的と考えています。多少、インバウンド需要(訪日中国人観光客の買い物需要)に悪影響が及ぶ程度と考えられます。

上海株は今後とも、乱高下しそうですが、底割れは回避できる見込みなので、これ以上、日本株が売られる要因とはならないと思います。