ギリシャの国民投票で、EUが要求する緊縮策受け入れが、大差で否決されるのが、ほぼ確実となりました。日本経済新聞社の報道によると、開票率87%の段階で、反対が61%と賛成の39%を上回っています。国民に否決を呼びかけてきたチプラス首相は勝利宣言をしました。チプラス首相は、ギリシャのユーロ残留を前提に、EUなど債権団と支援延長の交渉を始めると述べていますが、EUが支援延長に応じる可能性は低く、ギリシャ国債のデフォルトとギリシャのEU離脱が確定する可能性が高くなりました。

ギリシャ国民投票での否決を織り込んでいなかった日米欧の株式市場は、今週前半はショック安となるでしょう。ただし、ギリシャ問題の行方にかかわらず、日本の景気・企業業績の回復は続くと考えていますので、ギリシャ問題で日本株が下がる局面があれば、そこは、買い場になると考えています。

本レポートの以下の部分は、ギリシャ国民投票の結果が判明する前に書いたことを、掲載するものです。国民投票の結果が出る前に、金融市場で考えられていたこと、私が考えていたことをお伝えします。

(1) ギリシャ国民投票の結果予想

ここから先は、ギリシャ国民投票の結果が出ていない時点で執筆したものです。投票結果について、私は、以下の3つのシナリオを考えていました。

  緊縮受け入れ 金融市場の受けとめ方
メイン・シナリオ 僅差で可決 ややポジティブ
楽観シナリオ 大差で可決 ポジティブ・サプライズ
悲観シナリオ 否決 ネガティブ・サプライズ

(2)「僅差で可決」がメイン・シナリオ

ギリシャ国内のメディアによる世論調査では賛否が拮抗していますが、わずかな差で緊縮受け入れ賛成派が否決派を上回っています。ギリシャ国民は、1月の総選挙では「緊縮の放棄」を公約していた急進左派連合のチプラス氏(現首相)を熱狂的に支持しました。緊縮放棄で、暮らしが楽になることを期待したからです。

ところが、チプラス政権のもとでギリシャが孤立し、IMFやEUの支援が打ち切られたために、銀行預金の引き出しまで制限されてしまったことには、とまどいを感じています。預金の引き出しができないために、日々の生活費にも困る状態に陥ったことが、ギリシャ国民の心理に影響しています。「緊縮を受け入れないと、さらに大変なことが起こる」と肌で感じ、緊縮受け入れに「賛成せざるを得ない」と考える国民が増えている模様です。

緊縮受け入れが決まれば、安心感から世界中の株がいったん上昇するでしょう。ただし、緊縮受け入れが「わずかな差」で可決された場合は、波乱要因が残ります。

チプラス首相は投票直前まで「(緊縮受け入れ)否決はギリシャの尊厳と民主主義、そして欧州を守る」と否決への投票を訴えており、バルファキス財務相は「(EUが要求する緊縮策は)テロリズムだ」と非難していたからです。チプラス政権は、緊縮受け入れが僅差で可決された場合には、総辞職する可能性もあります。ギリシャは総選挙のやり直しが必要となり、政権が流動化するリスクがあります。国民の多くが緊縮受け入れに納得していない以上、チプラス首相が率いる急進左派連合は、たとえ政権からおりても「ギリシャ人の尊厳を守るために緊縮放棄」と主張し続け、EUと摩擦を起こし続けるでしょう。

「緊縮受け入れ」の可決が僅差の場合は、ギリシャの不透明要因はすぐに解消されるわけではないと考えます。

(3)「大差で緊縮受け入れ可決」ならば、ポジティブ・サプライズ

ギリシャ国民が、ユーロ残留を望み、大差で緊縮受け入れを可決すれば、ギリシャの信用不安は、解決に向かいます。ギリシャは、EUの求める年金カットを含む緊縮策を続けることで、少しずつ、信頼を回復していくことになるでしょう。

世界の株式市場は、アク抜け感から上昇すると予想されます。

(4)緊縮受け入れ否決ならば、ネガティブ・サプライズ

金融市場は、ギリシャ国民投票で、緊縮受け入れが否決されることを織り込んでいません。緊縮受け入れ否決ならば、ギリシャのユーロ離脱とギリシャ国債のデフォルトは、ほぼ確定的になります。そこまで織り込んでいなかった、金融市場には、衝撃が走るでしょう。

世界的に株が売られ、為替市場では「リスク・オフ」の円高が進む可能性があります。日本株にも、外国人投資家の売りが増えて、短期的に値下がりするでしょう。

緊縮受け入れ否決後、以下のことが起こると考えています。

  • ギリシャ国債もデフォルト
  • ギリシャの銀行預金封鎖は長期化
  • ギリシャ通貨は、「ドラクマ」に戻る
  • 「ドラクマ」が対ユーロで急落
  • 輸入物価が高騰、ギリシャにハイパーインフレが起こる
  • ギリシャ国民の銀行預金は引き出しができないまま、価値が大幅に目減り
  • ギリシャ国民の実質給与(ドラクマ建て)の実質価値も、激減

ギリシャ国民は、EUの要求する緊縮策を受け入れるよりも、さらに厳しい困窮におちいることになります。

(5)ギリシャのデフォルト・ユーロ離脱は、短期ネガティブでも長期的にはポジティブ

ギリシャのデフォルト・ユーロ離脱は、ギリシャ国民にとって、最も厳しい緊縮を受ける結果をもたらします。しかし、そこから、ギリシャの真の再生が始まることになります。自国通貨の暴落したギリシャでは、過剰消費は、強制的に抑え込まれることになります。一方、観光業や海運業は、通貨安の恩恵で、活況になるでしょう。通貨ドラクマの暴落によって、ギリシャは厳しい不況に陥った後、立ち直っていくと思われます。

(6)ギリシャ支援の延長は、短期ポジティブでも長期的にはネガティブ

ギリシャへの支援延長でギリシャがユーロに留まることは、問題の解決ではなく、先送りに過ぎないと思います。ギリシャは、ドイツの信用で支えられている強い通貨「ユーロ」を使い続けることになるので、過剰消費は抑え込まれない上に、外貨を稼ぐ観光業や海運業が活況になることもありません。