現在の為替水準(1ドル124円前後)が今後1年続くならば、日本企業の今期業績は、かなり上ぶれが見込まれます。先週は円安進行にともない、企業業績の上ぶれ期待から日経平均がじりじりと上昇しました。

ただ、私は、そろそろ円安が行き過ぎの可能性もあると考えています。短期的に円高(ドル安)へ反転する可能性も、頭に置いておいておくべきです。

(1)ドル金利の先高感は低下しつつある

アメリカで今年利上げが実施される見込みであることが、これまでドル高(円安)が続いてきた最大の理由です。日本が異次元金融緩和を続ける中で、アメリカが利上げすれば、ドル高(円安)がさらに進むと考えるのが普通でした。

実際、米FRBイエレン議長が5月22日の講演で「年内のある時期に利上げが適当」と述べると、ドル高(円安)が加速しました。

ドル円為替レート推移:2015年1月1日―5月31日

(出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

2015年に入って、以下の2つの要因から、ドルの上値は重くなっていました。

  • 1-3月の米景気が失速(1-3月GDPは前期比年率▲0.7%)
  • 原油価格急落によってアメリカのインフレ率が低下(4月は前年比▲0.2%)

日米の消費者物価指数(エネルギーを含む総合指数)の前年比騰落率:2014年1月-2015年4月

(注)日本については、2014年4月の消費増税の影響を除く実質で表示。
(出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

その結果、ドル金利の先高感は低下し、「アメリカの早期利上げはない」との見方が広がりつつありました。

ところが、ハト派(利上げに慎重)と見られて来たイエレン議長があえて「年内の利上げが適当」と発言したため、急きょ、ドル金利の先高感が復活し、ドルが急伸しています。

ただし、イエレン発言の中身を細かく吟味すると、イエレン議長が米景気の先行きに明確に強気であるわけでないことがわかります。年内に利上げが適当となるのは、「期待通りに米景気が改善した場合」と条件つきであるとした上で、わざわざ「経済見通しは高度に不安定で、(米景気が回復に向かうという)私の予測はよく大きく間違える」とまで述べています。イエレンの利上げ予告と解釈するのは、やや早計かもしれません。

確かに、これだけ何回も、年内利上げを示唆し続けていますから、年内利上げの確率は高いと考えられます。ただし、利上げ幅は小さく、しかも利上げは1~2回で打ち止めかもしれません。今、進んでいるドル高を正当化できるほどのドル金利上昇は実現しないと考えられます。

(2)日米長期金利差で見ると、ドル高(円安)は行き過ぎ

日米長期金利、長期金利差、ドル円為替レートの推移:2011年9月―2015年5月

(出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

2013年は、アメリカの長期金利が上昇する中で、日本の長期金利が低下していたので、日米長期金利差は拡大していました(グラフ中の赤矢印で示したところ)。長期金利差の拡大を受けて、ドル高(円安)が進む自然な流れでした。

ところが、2014年以降は、状況が異なります。米長期金利が低下する中で、日本の長期金利も低下していますが、結果的に日米長期金利差は縮小しています(グラフ中の黒矢印で示したところ)。にもかかわらず、米利上げで先行きドル金利が上昇する期待からドル高(円安)が継続しています。

長期金利差が縮小する中で、ドル高(円安)が進んだので、日米長期金利差から見ると、足元のドル高は行き過ぎの可能性があります。今のドル高を正当化できる程のドル金利の上昇は、見込めないと考えています。

(3)日本の貿易収支が黒字に転換しつつある

原油急落によって、貿易収支が急激に改善しています。今年の後半以降は、黒字が定着すると予想しています。貿易収支が為替市場に直接与える影響は、必ずしも大きくありませんが、心理面で、円安に歯止めをかける要因となる可能性はあります。

日本の貿易収支(通関ベース):2009年~2014年(年次)、2015年1月~4月(月次)

(出所:財務省「貿易収支統計(通関ベース)」)

(4)購買力平価から見ても、円安はやや行き過ぎ

ドル円為替レートは、長期的には購買力平価(企業物価)を中心にプラスマイナス20~30%の範囲で動いています。公益財団法人国際通貨研究所によると、2015年3月時点の購買力平価(企業物価)は、1ドル100.68円です。現在の為替レートは、そこから23.2%円安の水準にあります。

(5)米政府はドル高を容認し続けるか?

足元、ドル高の影響を受けて、米国では輸出企業の業績が悪化しつつあります。ただし、今のところ米国の政府筋からドル高を問題視する発言は出ていません。「米国はドル高を容認している」という解釈が、ドル高(円安)に拍車をかけています。

注意すべきは、米国政府がどこまでのドル高を許容するかです。今後、なんらかの形で米政府筋からドル高をけん制する発言が出ると、それをきっかけにドル安(円高)に反転する可能性もあります。

(6)今週発表される米景気指標に注目

1-3月に失速した米景気が4月以降、力強く回復しているが確認されれば、さらにドル高(円安)が進む可能性もあります。ドル高は最終局面と考えていますが、ドル円為替の転換点がどこになるか、見極めるのは難しいところです。