21日の日経平均は274円高の19,909円でした。中国の追加金融緩和を好感し、欧米株式が上昇した流れを受けて、大幅上昇となりました。

今、TPPへの日本の参加実現に向けて、米国と大詰めの交渉が行われています。コメ・自動車で、双方がどれだけ歩み寄れるかが鍵となっています。21日未明まで続いた日米閣僚会議で合意に至ることはできないまでも、「双方の主張の隔たりは狭まった」とされています。28日の日米首脳会談までに、合意に至ることができるのか、予断を許しません。

今日は、TPPが実現した時に、メリットを受ける株について書きます。

(1)輸出入にかかわる企業は、TPP実現なら何らかの恩恵を受ける

TPPで恩恵を受ける銘柄の幅は広い。TPPの最大の眼目は、輸出入にかかる関税を原則すべてゼロにすることにあるからです。日本からの輸出品に外国(TPP加盟国(注))がかける関税、外国からの輸入品に日本がかける関税が、原則ゼロになります。TPPは「聖域なき関税撤廃」を旗印にしているからです。

(注)TPP加盟11カ国:アメリカ・カナダ・メキシコ・ペルー・チリ・オーストラリア・ニュージーランド・シンガポール・マレーシア・ベトナム・ブルネイ

ただし、関税撤廃の原則がすべて守られるとは限りません。関税が残る「例外品」がいろいろ作られる可能性もあります。たとえば、自動車。TPP加盟国は、自動車産業で圧倒的なパワーを持つ日本が、TPPに入ってくることを非常に恐れています。アメリカの自動車産業は「自動車分野は例外にしろ」と、政府に圧力をかけています。

日本は、農産物5品目「コメ、麦、牛肉豚肉、乳製品、砂糖」の輸入を例外にする方向で交渉しています。ただ、この5品目をすべて例外にしたままでは、日本のTPP加盟自体が認められないでしょう。日本は、例外5品目の関税を下げ、アメリカは自動車分野の関税を下げていくなんらかの妥協が必要となるでしょう。

(2)TPPでメリットを受けるのは、食材輸入と自動車

関税がすべて撤廃されることを前提とすると、輸出入で今、高い関税を払っている企業が注目されます。輸入では、まず38.5%の高い関税がかかっている牛肉輸入企業、輸出ではアメリカで25%の関税がかかっているトラック輸出企業が挙げられます。

聖域なき関税撤廃が旗印のTPPで、この高関税がそのまま残ることはないと予想しています。すぐに関税ゼロは無理なので、長期的に引き下げていく方針が打ち出されるでしょう。ショックが大きくならないよう、10年以上かけて関税率を下げる案が採用される可能性もあります。

トラック以外の自動車関連(完成車および部品)には、米国で2.5%の関税がかかっていますが、ここも長期的にゼロに向かって引き下げていく方針が示されるものと予想しています。

(3)TPPでメリットを受ける牛肉輸入企業

さて、牛肉輸入が多い企業では、まず牛丼3社(吉野家HLDG(9861)・ゼンショーHLDG(7550)・松屋フーズ(9887))や、ハンバーガー大手(日本マクドナルドHLDG(2702))が挙げられます。もし、牛肉の輸入関税がゼロになれば、これらの企業に大きな恩恵が及びます。ただし、「すきや」を展開するゼンショーHLDG(7550)は人手不足、日本マクドナルドHLDG(2702)は異物混入問題で業績が悪化しており、TPPメリットだけに注目して投資するべきではないと考えています。投資するならば、「牛すき鍋膳」など単価の高いメニューの成功で好調な吉野家HLDG(9861)に絞った方が良いと思います。

(4)自動車輸出で注目できるトラック

さて、輸出で注目できるのは、アメリカで25%の高い関税がかかるトラックです。トラックの関税率引き下げがあれば、いすゞ自動車(7202)・日野自動車(7205)がメリットを受けます。また、自動車関連全般(完成車・部品)に米国でかかる関税2.5%をゼロにしていく方針が示されれば、トヨタ自動車(7203)など自動車各社がメリットを受けます。

ただし、アメリカが日本の自動車を簡単に聖域からはずす可能性は低いといえます。かなり長い年月をかけて関税を引き下げていくことが妥協策として示される可能性はあります。関税ゼロまで10年以上かけるという話になると、短期的な恩恵は小さくなる可能性もあります。

(5)食材輸入企業は全般にメリットを受ける

輸入品に話を戻します。日本が、現在、高い関税をかけているのは農産物・畜産物が中心です。例外5品目の関税が撤廃されることを前提とすると、メリットは食品・外食・食品スーパーに及びます。

小麦の関税撤廃で山崎製パン(2212)、牛肉豚肉の関税撤廃では牛丼のほかに、日本ハム(2282)・伊藤ハム(2284)などがメリットを受けます。外食ですかいらーく(3197)、食品取り扱いの多いコンビニエンスストアや食品スーパーでは、セブンーイレブン・イトーヨーカ堂を傘下に持つセブン&アイHLDG(3382)などにメリットが及びます。

(6)TPP合意の成否は?

自動車・コメでの日米双方の主張の隔たりは依然大きく、今月の日米首脳会談までに交渉がまとまらない可能性もあります。ただし、今回は日米双方に、何とか妥協しあって合意をまとめたいというインセンティブがあるので、私は近く交渉はさらに進展すると予想しています。

日米合意を急ぐ背景に、中国が、自国中心の経済圏を世界へ拡大しようと動き始めたことがあります。アジアでは、米国と中国が、それぞれ自国中心の経済圏を拡大しようと競っています。日本は、中国主導の経済圏を避けて、日米主導の経済圏設立を目指す方向に進んでいます。既に、日本と米国は、中国主導のアジアインフラ銀行(AIIB)の創設メンバーに入ることを、見送っています。これまで通り、日米主導のアジア開発銀行(ADB)を通してアジア圏に影響力を行使していくことを目指す方針です。

自由貿易圏の設定でも、日本は、日中韓FTA(日本と中国と韓国の自由貿易協定)より、TPPを優先することになりそうです。中国主導の経済圏に入って中国と交渉するより、米国主導のTPPに入って米国と交渉した方が有利と判断しているからです。

GDP世界トップの米国と世界3位の日本が組むことで、日米主導のTPPが世界標準となる可能性を、世界が恐れています。中国がTPPに参加せざるを得なくなるように、日米が連合していくことになると予想しています。