先週、JF EHLDG(5411)・共英製鋼(5440)など、鉄鋼株が2015年3月期の業績予想を増額修正しました。キーワードは、メタル・スプレッド改善(原材料コストが下がった割に、製品価格があまり下がらず、利ざやが拡大)です。鉄鋼セクターへの強気判断を継続します。高炉・電炉ともに投資妙味が高まっていると考えています。

(1)高炉・電炉とも、メタル・スプレッドが改善

鉄鋼セクターには、高炉と言われる会社と、電炉と言われる会社があります。まず、この意味を説明します。


鉄鋼石・石炭(原料炭)から、鉄鋼製品を一貫生産します。自動車・家電製品に使われるハイエンド・スチール(高級鋼材)などを生産しています。新日鐵住金(5401)、JF EHLDG(5411)、神戸製鋼(5406)、日新製鋼(5413)は高炉主体に事業展開しています。

高炉の原料となる鉄鋼石・石炭の市況は、近年大きく下がっています。ところが、国内で鉄鋼製品の価格は、大きくは下がっていません。結果的にメタル・スプレッドが拡大しています。


鉄スクラップから電気炉で、鉄鋼製品を生産します。主に、建設資材などの汎用品を生産します。東京製鐵(5423)・共英製鋼(5440)などが、電炉に含まれます。

電炉の原料となる鉄スクラップ価格が下落しています。ところが、国内で鉄鋼製品の価格は、大きくは下がっていません。結果的にメタル・スプレッドが拡大しています。ただし、電炉コストに影響が大きい電力料金は、今期は引き上げが続きました。今期は鉄スクラップ下落でメタル・スプレッドが拡大していますが、電力コスト上昇で一部相殺されています。

(2)高炉メーカーに強気判断

新日鐵住金(5401)・JF EHLDG(5411)・神戸製鋼所(5406)は、今来期と続けて、大幅増益が見込まれます。原料安・円安・世界的な自動車生産拡大の3つのメリットを受けるからです。

日新製鋼(5413)も普通鋼事業は好調ですが、今期はステンレス事業が足を引っ張り、経常減益が予想されています。ただし、ステンレス事業も来期以降、改善に向かう見込みです。

各社とも、増益モメンタムが強い割りに株価は割安で、買いの好機と判断しています。

 

高炉メーカーの経常利益予想

(金額単位:億円)

  新日鐵住金(5401) 前年比 JFE HLDG(5411) 前年比
前期(実績) 3,611 369.4% 1,737 232.6%
今期(市場予想) 4,159 15.2% 2,200 26.7%
来期(市場予想) 5,311 27.7% 2,841 29.1%
  神戸製鋼所(5406) 前年比 日新製鋼(5413) 前年比
前期(実績) 850 568.7% 197 216.9%
今期(市場予想) 924 8.7% 168 -14.7%
来期(市場予想) 1,119 21.1% 214 27.0%

(注)前期は2014年3月期、今期は2015年3月期、来期は2016年3月期のこと。市場予想は2月2日時点のアイフィス・コンセンサス予想。楽天証券経済研究所が作成。

メタル・スプレッドの拡大は来期も続くと考えられます。高炉各社が原料安メリットをフルに享受するのは、来期からとなるからです。今期は、価格急落前に高値で買い付けた原料在庫が残っています。今期業績は、高値在庫を使うことで生じる在庫評価損が、業績のマイナス要因として残ります。来期は、在庫評価損はほぼなくなると予想され、メタル・スプレッドのさらなる拡大が見込まれます。

新日鐵住金(5401)に、1つ不安要因があります。シェールガス・オイルや原油開発に使用されるシームレス鋼管事業を抱えることです。10-12月決算発表時に、今期経常利益(会社予想)を4,000億円から4,100億円に増額しましたが、純利益(会社予想)は2,500億円から1,800億円に減額しました。ブラジルのシームレスパイプの関連会社減損損失686億円を計上したからです。シームレス鋼管事業には、来期も逆風が吹くと考えられます。ただし、自動車鋼板など鉄鋼事業全体での利益拡大が大きいので、今来期とも増益率は高く、投資対象として有望との判断は変わりません。

JF EHLDG(5411)は、鋼管売上は連結売上高の5%程度しかないと推定されます。油井管の売上比率はさらに低く、原油開発減少の逆風はあまり受けないと考えられます。

(3)電炉メーカーにも強気

 

電炉メーカーの経常利益予想

(金額単位:億円)

  東京製鐵(5423) 前年比 共英製鋼(5440) 前年比
前期(実績) 32 119.5% 31 -33.2%
今期(市場予想) 135 324.4% 109 248.9%
来期(市場予想) 162 20.5% 120 10.2%

(注)前期は2014年3月期、今期は2015年3月期、来期は2016年3月期のこと。市場予想は2月2日時点のアイフィス・コンセンサス予想。楽天証券経済研究所が作成。

電炉メーカーも今来期と大幅な増益が続くと予想されます。電炉メーカーは、鉄スクラップ下落の恩恵を受けながら、製品価格はあまり下がっていません。従来は、中国や韓国から安値品が入ってきて製品価格に下方圧力がかかりましたが、近年大幅に円安(人民元・韓国ウォンの上昇)が進み、安値品が入りにくくなったことが、メタル・スプレッド改善に寄与しています。

今期は電力料金が引き上げられたことが、電炉メーカーの業績にマイナスに効いていますが、来期には電力料金が下がって業績にプラスとなると予想します。日本には、「燃料費調整制度」があり、原油やガスの輸入価格が下がると、約3カ月遅れて電力料金に反映されます。原油の下落に加え、今後、原油連動条項がついているLNG輸入価格も下がることが見込まれることから、それが半年以上かけて日本の電力料金に反映されていくと予想されます。