財務省が22日に発表した貿易統計(速報、通関ベース)によると、2014年度上半期(4~9月)の貿易収支は▲5兆4,270億円と、半期ベースで過去最大の赤字額となりました。この数字を見て、日本製品の競争力がなくなったと嘆く人もいるが、それは早計だと思います。

(1)東日本大震災後、日本の貿易赤字が定着

日本は2010年まで30年連続で貿易黒字を計上し続けていました。2011年に31年ぶりの貿易赤字に転落したのは、東日本大震災で原子力発電所が停止し、火力発電の燃料輸入が増えたことが最大の原因です。

(出所:財務省「貿易統計」、2014年8月・9月は速報値)

原発が停止して電力需給が逼迫する中、中東からあわててLNGを輸入したために、世界一割高なガスを買う破目になりました。日本がスポット輸入しているLNGは100万BTU(熱量単位)当たり14~16ドルです。アメリカのシェールガス(天然ガス)が100万BTU当たり4-6ドルであることを考えると、日本は非常に高価なLNGを買わされていることになります。2018年くらいまで、高値で契約したLNGの輸入を続けなければなりません。

日本の貿易赤字は2012年以降、拡大が続いています。大幅な円安が進んだことが赤字拡大の原因となっています。原油やLNGの価格はドル建てなので、円安が進むことによって円に換算した輸入代金は拡大します。一方、円安にもかかわらず輸出の伸びが鈍いために、貿易赤字が拡大しつつあります。

(2)日本の貿易構造が、輸出主導であるのは変わらず

日本は、今も変わらず、原燃料を輸入して完成品を輸出する貿易構造です。現在、鉱物性資源(原油・LNGなど)の赤字が大きいことが、貿易収支が赤字となっている最大の原因です。

<2014年上半期の輸出入の品目別構成比>

  ①輸出構成 ②輸入構成 構成比の差(①ー②)
食料品 0.6% 8.3% -7.7%
原料品 1.7% 6.9% -5.2%
鉱物性燃料 2.1% 31.5% -29.4%
化学製品 10.5% 8.4% 2.1%
原料別製品 13.2% 8.4% 4.8%
一般機械 19.3% 7.9% 11.4%
電気機器 17.4% 12.8% 4.6%
輸送用機器 23.0% 3.3% 19.7%
その他 12.0% 12.6% -0.6%

(出所:財務省「貿易統計」より楽天証券経済研究所が作成)

円安にもかかわらず、輸出数量の伸びが鈍い理由は2つあります。1つは、日本の輸出産業が海外現地生産を拡大してきた効果です。もう1つは、中国やアジアの新興国の景気が停滞しているため、日本のアジア向け輸出が伸び悩んでいることです。

輸出産業が海外現地生産を増やしてきたのは、日本製品の競争力を高めるためです。世界中に、日本車が普及しているのは、日本の自動車メーカーが海外現地生産を進めた効果によります。1980年代にはアメリカで日本車や日本の家電製品の販売が増えた際、日米貿易摩擦が起こりました。日本製品がアメリカの雇用を奪っているとして、憎悪の対象となりました。今、アメリカでの日本車販売シェアは当時よりも高くなっていますが、それでも深刻な摩擦は起こらなくなりました。日本メーカーが北米での現地生産を高め、現地の雇用増加に貢献しているからです。

民生エレクトロニクス製品で、日本の競争力が低下しているのは事実ですが、自動車や機械・ロボット産業では日本の競争力は低下していません。海外現地生産によって、技術力に加え、コスト競争力も確保し、より万全な体制に入りつつあるといえます。

日本を追いかけて強い製造業を育てた韓国は、まだ輸出主導で、海外現地生産がほとんどできていません。そのために、近年進んだ韓国ウォン高によって、輸出企業の業績が低迷しています。日本のように海外現地生産を徹底するには、まだ時間がかかります。

(3)3~4年後に貿易黒字に復活を予想

さて、それでは、日本の貿易赤字を減らすことはできないのでしょうか。私は、日本の貿易赤字は数年かけて減少し、いずれ貿易黒字に復活すると予想しています。

日本は今、世界一高い燃料を輸入しているが、2018年頃には米国から安いシェールガスの輸入が始まる見込みです。サハリン(ロシア)からも安いガスを輸入する可能性が検討されています。もしパイプラインでの輸入が実現すれば、日本のガス購入単価は大幅に低下します。資源の輸入は特定の国に依存することなく、幅広くたくさんの国から輸入することが、エネルギーの安定確保に貢献します。

また、中国や東南アジアの景気が回復すれば、再び、日本製品の輸出が増加すると予想しています。