1日11時18分、ドル円為替レートは110円台に乗せました。円安が進んだ理由と、日本株に与える影響を分析します。
<内容要約>
足元の日本の景気が弱いこと、米国景気が強いことが、円安の主要因です。日本の景気は7月以降も停滞が続いていますが、10月から回復に向かうと考えています。日経平均は、来年3月に18,000円に上昇するとの予想を継続します。(1)なぜ一気に円安が進んだか?
「アメリカの景気は強いが、日本の景気は予想以上に弱い」。8月以降、日米の景気ギャップが意識されるようになるにつれて、それまで1ドル102円辺りで膠着していた為替レートが円安方向に動き始めました。つれて、「アメリカで早期利上げ懸念」、日本では「追加緩和期待」が出ています。これが、円安ドル高の原動力です。
- 日本の景気は、予想より弱いことを再確認
「消費増税の影響で4-6月の景気は落ち込むが7月から回復に向かう」が、7月ころまでの市場コンセンサスでした。ところが、8月あたりから、「7月から回復」に疑問符が付き始めました。
最初のきっかけは、4-6月GDP発表でした。前期比年率▲7.1%のマイナス(一次改定値)でした。マイナス幅が予想以上に大きかっただけでなく、その内容の悪さが注目されました。消費が予想以上に落ちただけでなく、設備投資も減少しました。また、円安にもかかわらず、輸出数量が増加しませんでした。
9月30日に発表された8月の鉱工業生産は前月比▲1.5%のマイナスで、事前の市場予想(0.2%のプラス)を下回りました。意図せざる在庫が増加しており、企業は在庫調整のために生産を絞っています。「7月以降生産が回復に向かう」というストーリーに疑問がつきました。
半年以上にわたって生産がマイナス圏に留まっています。2四半期以上の生産減少は、欧米では「景気後退」と判断される可能性のある状態です。
- 市場は、日銀による追加緩和の可能性が高まったと判断
黒田日銀総裁の発言は、一貫して「日本の景気は順調に回復軌道を歩んでいる」です。ただし、細かく発言内容を分析すると、ややニュアンスが変わってきています。8月までは「景気は順調なので追加緩和は必要ない」ことを強調していましたが、9月からは「景気は順調だが、必要になれば追加緩和を実行する」というトーンに変わっています。
日銀が目標としてかかげている2%インフレの達成に黄信号がともっていることが、発言内容の変化に表れていると考えています。
まず、日本のコアインフレ率の変化を見てみましょう。
消費税の引き上げ分は、無事、価格転嫁されたことがわかります。ただし、よく見ると、消費増税の影響を除くインフレ率は、4月以降、少しずつ低下していることがわかります。
3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | |
---|---|---|---|---|---|---|
CPI(コア)上昇率 | 1.3% | 3.2% | 3.4% | 3.3% | 3.3% | 3.1% |
消費税引上げの影響 | なし% | 1.7% | 2.0% | 2.0% | 2.0% | 2.0% |
消費税影響を除くと | 1.3% | 1.5% | 1.4% | 1.3% | 1.3% | 1.1% |
黒田総裁は、「消費増税の影響を除くコアCPIが1%台なので順調」と語っていますが、国内景気の回復力の弱さから、8月にはそれが1.1%まで低下しています。
- アメリカの景気は強い
対照的に、強さが目立つのは、アメリカです。製造業も非製造業も、好調です。
<ISM製造業景況指数および非製造業指数の動き>
アメリカ景気の追い風になっているのが、シェール・ガス革命です。安いシェール・ガス、シェール・オイルを大量に産出するようになったおかげで、アメリカ経済は強くなりました。5~10年後には、アメリカが世界一の産油国になるという予想もあります。
エネルギー価格の低下は、消費押し上げに寄与しています。消費が拡大する時、アメリカの貿易赤字は拡大する傾向がありましたが、今は、エネルギー輸入の減少で、貿易赤字は減少傾向にあります。
対照的に、貿易赤字の拡大に苦しんでいるのが、日本です。日本は東日本大震災後に、世界一高いガスを緊急輸入しました。エネルギーコストの上昇が日本経済を低迷させています。
- アメリカは、来年半ば以降に利上げが見込まれる
9月17日にアメリカFOMC(金融政策決定会合)の結果が発表され、イエレンFRB議長が会見を行なった際、1ドル109円台まで、ドル高(円安)が進みました。
イエレン議長の発言は、これまで通り「アメリカの雇用の現状はよくない」でした。ところが、FOMC声明文とイエレン議長の発言を細かく分析すると、これまでと明らかにニュアンスが変わっていることが読み取れます。米FRBは、来年の利上げに向けて地ならしを始めたと取れます。
(2)日本株に与える影響
私は、当初7月から景気回復が顕著になると見ていましたが、10月から景気回復が明確になると、見通しを修正します。
日経平均が、来年3月に18,000円まで上昇するという予想は継続します。10月以降、消費増税の影響が薄れてくる中で、円安が進んだ効果が景気回復に寄与すると見ています。
(日経平均の推移)
現在の株価上昇は、2003年から2005年の株価上昇パターンに似ていると考えています。2003年は、不良債権問題から開放されて景気が回復する中で、株価が上昇しました。ところが、2004年は1年間にわたり景気が停滞しました。景気の踊り場で、日経平均は横ばいが続きました。ところが、2005年に景気は再び拡大基調を強め、日経平均もそれに合わせて上昇しました。
2013年からの景気回復で日経平均は大きく上昇しましたが、2014年からの景気停滞を受けて、日経平均は横ばいが続きました。今、景気停滞の最終局面にあると判断しています。10月以降、景気回復が徐々に明確になり、日経平均は18,000円に向けて、上昇すると予想しています。
最近、「円安は、日本の景気にとって良いことばかりではない」という意見をよく聞くようになりました。円安にもかかわらず、輸出数量が回復していないことと、円安が輸入物価を押し上げることが、こうした意見の背景にあります。
私は、それは短期的な見方かと思います。円安は、日本企業の輸出競争力を高めています。円安は、対ドルだけでなく、対韓国ウォン・対人民元・対ユーロでも、ここ2年で大幅に進みました。韓国・中国・ドイツ企業と競合する自動車・機械・鉄鋼業などに、追い風となっています。
足元、輸出数量が回復していないのは、米国を除く世界各国の景気が軒並み停滞しているからです。新興国の景気が回復に向かうときは、競争力を回復した日本の輸出が増加に転じると見ています。