30日の日経平均は137円安の16,173円となりました。香港株が民主化デモ拡大を警戒して続落したこと、日本の景気指標悪化が予想以上で景気後退懸念が出たことが、嫌気されました。

(1)香港の民主化デモの経緯

香港では、今月14日以降、学生による「民主的選挙」を求める抗議活動が続いていました。香港行政長官の選挙制度を2017年から改定する決定を中国政府が下しことに反発し、29日に、学生および民主派の市民によるデモ隊が金融街を占拠すると、警官がデモ隊に催涙弾を発射するなど衝突が起こり、1997年の香港返還以来、最悪の混乱となりました。

中国政府が決定した選挙制度の改定で、1人1票の普通選挙を実現するとしたのは香港民衆の要望通りです。ところが、同時に、立候補の資格に制約を設けたことが問題とされました。民主派の立候補者が締め出され立候補できなくなる制度改定に民主派の市民が危機感を抱きました。

非暴力のデモ隊に警察隊が催涙弾を使ったニュースが流れると、30日はデモに参加する市民が増えて数万人規模に達しました。

30日は、警察隊はこれ以上デモ隊を刺激しないように、静観しています。ただし、中国政府は、デモ隊が要求している選挙制度改定の取り下げはしないと明言しており、抗議活動は長期化する見込みです。

香港株は、デモによる混乱を嫌気して、29・30日は続落しました。ただし、上海総合株価指数は、上昇が続いています。香港にとって重大な問題ですが、現時点で、中国本土への影響が大きいと考えられていないと言えます。

香港ハンセン指数

香港ハンセン指数

上海総合株価指数

上海総合株価指数

(2)なぜ今、香港で大規模民主化デモが起きるのか

香港は、1997年7月1日に主権がイギリスから、中華人民共和国に返還されて以来、「1国2制度」の枠組みで、高度な自治を認められてきました。完全な資本主義国である香港が、返還によって社会主義国の中国に組み込まれると、経済が荒廃するとの懸念が、返還前にはささやかれていました。ところが、1国2制度がうまく機能したおかげで、返還後も香港は順調に成長が続きました。

返還当初の中国にとって、香港は、学ぶべきところがたくさんある資本主義の手本でした。手本としての香港を変質させないように、1国2制度によって香港の自治を認めたのです。

それでは、近年、中国が香港の支配力を強化しようとしているのはなぜでしょうか?1つには、上海が金融都市として成長したため、香港だけに頼り切らないでもやっていける自信を中国がつけたことも背景にあります。そして、中国による香港支配をさらに強めようとして決めた選挙制度の改定が、香港市民の大きな反発を食うことになったのです。

(3)香港株の見通しと、日本株への影響

香港が中国にとって重要なハブ(物流拠点)であり金融拠点である事実は変わりません。また、資本主義の手本である事実も変わりません。香港には国際社会の目が光っており、中国が香港への弾圧をさらに強めていくとは考えられません。混乱が一巡するころに、香港株は再び上昇すると予想しています。また、日本株に与える影響もいまのところ限定的と考えています。

ただ、事態は予断を許さず、今後の成り行きを見守る必要があります。なお、香港市場は、10月1・2日は休場です。次に市場が再開されるのは10月3日となります。

(4)ネガティブ・サプライズであった日本の8月鉱工業生産指数

経済産業省が発表した8月の鉱工業生産指数は、前月比▲1.5%と、事前の市場予想(+0.2%)を下回りました。今年に入ってから前月比マイナスになることが多く、今の生産低迷は、景気後退に近い状態とも言えます。

鉱工業生産指数(前月比)

鉱工業生産指数(前月比)

(出所:経済産業省)

これを受けて、今日は日本株が売られ、円もドルに対して売られて109円台後半をつけました。①消費増税による消費減少が大きかったこと、②円安にもかかわらず輸出数量が伸びていないことが、生産の減少を招いています。足元の日本の景気低迷は想定以上であることがわかりました。

なお、この数字は、7-9月の景況を見て判断するとされる「消費税の再引き上げ」(8%→10%)判断に影響を及ぼすことになりそうです。