大都市圏で不動産価格が上昇し始めています。今日は、賃貸用不動産に大きな含み益のある銘柄を紹介いたします。

(1) 保有する賃貸用不動産に含み益のある銘柄が多い日本株

2010年度から日本の会計基準で、賃貸用不動産の時価を開示することが義務付けられました。それから、保有する賃貸用不動産に含み益がある企業も明らかになりました。2014年3月末時点で、含み益が6,000億円を超える企業は、以下の5社です。

<賃貸用不動産に巨額の含み益がある会社>

  コード 銘柄名 産業分類 含み益
(億円)
1 8802 三菱地所 不動産 20,965
2 8801 三井不動産 不動産 12,159
3 8830 住友不動産 不動産 11,326
4 9020 東日本旅客鉄道 電鉄 9,193
5 9432 日本電信電話 情報通信 6,244

(出所:各社有価証券報告書に基づき楽天証券経済研究所が作成。)

現在の会計基準では、保有する不動産に大きな含み損がある場合は、減損(含み損を実現損失として)計上することが要求されます。一方で、含み益の方は、売却しない限り、実現利益にすることができません。含み損のある不動産は、減損によって簿価を引き下げる一方、含み益のある不動産はそのまま温存される結果、含み益だけ累積していくことになります。

(2)都心不動産に上昇機運

三鬼商事が発表した東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の5月末のオフィス空室率は6.52%で11カ月続けて前月を下回りました。景気回復にともなって、オフィス需要も回復してきているようです。

それに伴って、東証REIT(上場不動産投資信託)指数も上昇基調をたどっています。

(出所:東京都心5区空室率は三鬼商事、東証REIT指数は東京証券取引所)

(3)都心一等地に優良不動産を保有する会社のNAV倍率はすでに1倍を超えている

都心の一等地に優良不動産を保有する、三菱地所(8802)、三井不動産(8801)、住友不動産(8830)の株価に特段の割安感はありません。株価の割安度をはかるNAV倍率がすでに1倍を越えているからです。

  コード 銘柄名 含み益
(億円)
NAV比率
(7月11日)
1 8802 三菱地所 20,965 1.29
2 8801 三井不動産 12,159 1.61
3 8830 住友不動産 11,326 1.42
4 9020 東日本旅客鉄道 9,193 1.15
5 9432 日本電信電話 6,244 0.82

(出所:楽天証券経済研究所が作成)

そうはいっても、都心のもっとも有望な地域に不動産を保有している大手不動産3社であれば、今後、不動産市況の上昇がさらに明確になる過程で、株価はさらに上昇すると予想しています。

JR東日本(東日本旅客鉄道・9020)、NTT日本電信電話(日本電信電話・9432)は、NAV倍率から見て割安です。JR東日本(9020)は東京駅前など一等地に賃貸ビルを保有しており、不動産価値から見直し余地があると考えています。NTTは、子会社のNTT都市開発を通じて賃貸用不動産を保有します。都心にもビルを保有しますが、保有不動産の多くは地方都市にあり、値上がりが波及するにはからに時間を要すると思います。ただし、株価は割安で、長期投資に向いた銘柄と考えます。

(参考)NAV比率とは

自己資本に、賃貸不動産の含み益の65%(実効税率を35%として税効果を勘案)を加えたものを、純資産価値(NAV)とします。株価が1株当たりNAVの何倍か示すのが、NAV倍率です。

NAV倍率は通常1倍を超えます。NTTのように、NAV倍率が1倍を割っているものは、株価が買収価値から割安と判断されます。

(4)NAV倍率が0.8倍を割る会社

賃貸不動産の含み益を勘案したNAV比率が0.8倍を割り込む銘柄を抽出しました。利益がきちんと出ている銘柄で、連結予想PERが20倍以下の銘柄に絞り込んだのが、以下の9社です。

  コード 銘柄略称 産業分類 含み益
(億円)
NAV比率
(7月11日)
PER
(倍)
1 3106 倉敷紡績 繊維製品 336 0.41 14.7
2 9104 商船三井 海運 1,009 0.60 7.4
3 9303 住友倉庫 倉庫 543 0.61 16.1
4 9101 日本郵船 海運 595 0.65 13.7
5 3105 日清紡HLDG 繊維製品 565 0.66 17.9
6 3201 日本毛織 繊維製品 463 0.66 19.8
7 9119 飯野海運 海運 608 0.67 11.3
8 8233 高島屋 小売り 1,078 0.73 15.1
9 5803 フジクラ 電線 607 0.79 16.8

(出所:各社有価証券報告書より楽天証券経済研究所が作成。2014年3月末時点)

これらの銘柄は、NAV倍率が1倍を大きく割り込んでおり、とても割安です。ただし、保有物件が大手不動産3社ほど一等地に固まっているわけではないので、値上りが波及するのにやや時間を要するでしょう。

この表に出ている銘柄は、いずれも不動産が本業ではないので、本業の業績動向も重要です。私は、海運業の3社(日本郵船(9101)、商船三井(9104)、飯野海運(9119))に注目しています。私は、海運業は長い海運不況のトンネルを抜け出しつつあると考えています。業績の本格的な回復にはまだ時間がかりそうですが、株価が割安ですので、長期投資対象として評価できると考えています。