2月18日の日経平均は450円高の14,843円、日銀からの大きなサプライズ(びっくり)プレゼントの発表で株が急伸しました。日銀の政策決定会合の結果発表が始まったのは、昼休みの12時28分。事前予想通り、「現状の金融緩和を維持、追加緩和なし」と伝えられました。追加緩和を期待して前場132円高となっていた日経平均は、後場寄り(12時30分)に70円高まで上げ幅を縮小しました。ところが、日銀の発表をよく読むと、追加緩和はなかったものの、追加緩和以上のすごい隠し玉が用意されていたのです。

(1)日銀が貸出支援制度の大幅拡充を発表

株式市場が驚きをもって受け止めたのは、貸出支援制度の大幅拡充です。日銀は、銀行貸出の増加を支援するために、現在、2つの貸出支援制度を実施しています。

  • 成長基盤強化の支援:成長基盤強化に寄与する融資を行なった銀行への低利融資
  • 貸出増加の支援:2013年1-3月から2014年1-3月までの間、貸し出し残高を増加させた銀行への低利融資

この2つの制度を大幅に拡充しました。その内容は以下の通り。

<日銀が発表した貸し出し支援制度拡充>

(出所)日本銀行発表より楽天証券経済研究所が作成

一番驚いたのは、貸し出し増加支援の変更です。今までは、貸出残高の増加分だけ低利融資を受けることができるというものでした。それが、今回、貸し出し増加分の2倍の金額を0.1%固定金利で4年借りることができるようになりました。この低金利時に、4年固定の低金利で何兆円ものお金が日銀から調達できるようになるのは、そもそも驚きです。

(2)これは事実上の強烈な追加金融緩和と考えられる

黒田総裁は、15時から開かれた記者会見で「これは追加緩和か」の質問に対し「追加緩和ではない」と答えました。私は、これは強烈な貸出増加効果のある「追加緩和」と思います。

1つ具体例で考えてみましょう。A銀行が今後貸出残高を1000億円増やすとしましょう。今までは、1000億円を金利0.1%で日銀から1~3年、借りることができるだけでした。これからは、2000億円を4年固定金利0.1%で借りることができるようになります。A銀行は、既に増加させた貸金1000億円分だけでなく、余計に1000億円を日銀から調達できるわけです。しかも4年固定の0.1%です。この余計に借りる1000億円で4年間、証券運用でも何でも0.1%を上回る運用ができれば利ザヤが稼げます。たとえば、A銀行が0.5%で4年運用する能力があるとすると、0.4%のサヤが得られます。

A銀行は貸し出し増加分1000億円に対して事実上、マイナス金利でお金を借りることができるのと同じです。なぜならば、1000億円に対して0.1%の金利を払いながら、追加の1000億円で0.4%の利ザヤを得ることができるからです。ネットで0.3%の利ザヤを受け取ることができます。つまり、見方を変えると、A銀行は、貸し出し増加分の1000億円に対して実質0.3%のマイナス金利で資金調達しているのと同じです。お金を借りると利子を受け取ることができるのがマイナス金利です。A銀行は、「実質マイナス金利」で日銀からお金を借りることができるわけです。これには、強烈な緩和効果があると思います。

ところで、金融機関が4年固定0.1%で日銀からお金を借りた後、4年金利がまさかの低下をして0.05%になったらどうでしょう。そうなる可能性は限りなく低いと思いますが、万一、そうなった場合は、金融機関は1年ごとに日銀から4年固定0.1%で借りたお金を繰り上げ返済することができます。どう転んでも金融機関は日銀から低利融資を受けた方が得なのは明らかです。まさに至れり尽くせりの貸し出し支援策です。

この支援制度を使った日銀から金融機関への融資残高は、昨年末時点で、9兆1,655億円です。日銀の目標としていた13兆円を下回っていました。日銀は、支援制度の拡充で、この残高が30兆円に拡大すると予想しました。私は、30兆円の目標は達成されると考えます。

(3)直接メリットを受けるのは、銀行業界と不動産業界

18日の東京株式市場では、金融株と不動産株の値上がり率が高くなりました。銀行は、支援制度で直接恩恵を受けます。緩和マネーの向かう先として、過去は不動産融資が増加する傾向がありました。折りしも、日本の不動産は、底打ち上昇を始めているところです。今回の事実上の追加緩和策を受けて、不動産融資が増加しやすくなり、不動産価格の上昇につながる可能性が高まったと思います。

(参考銘柄)

  証券コード 銘柄名
銀行 8306 三菱UFJフィナンシャル・グループ
8316 三井住友フィナンシャルグループ
8411 みずほフィナンシャルグループ
不動産 8801 三井不動産
8802 三菱地所
8830 住友不動産

<参考>日銀の金融緩和手段

1980年代までは、日銀が金融機関にお金を貸すときの金利、公定歩合の上げ下げが金融政策の柱でした。今は、銀行間市場が大きく発達し、金融機関は日銀からお金を借りないで、銀行間市場で不足するお金を調達するようになりました。これに伴い、日銀の金融政策の柱は、公開市場操作に変わりました。市場から主に短期国債を買い上げて市場に資金供給を行い、市場金利の低下を誘導する方法です。

最近、ゼロ金利が定着し、公開市場操作では緩和効果を強めることができなくなりました。そこで、日銀は、市場から長期国債や株式を直接買い上げることで、金融市場に資金を供給する方法(量的緩和)を取るようになりました。米FRBが行っている金融緩和や、日銀が昨年から行なっている異次元緩和がそれです。

今回の金融政策決定会合では、市場が期待していた量的緩和の追加はありませんでした。その代わり、とっくに使われなくなっていた「日銀から金融機関への直接貸し出し」を拡充する策が取られました。実質マイナス公定歩合の奇策導入で、貸出市場を活性化する裏ワザを使ってきたわけです。