日本電産

1.2017年3月期は19%営業増益

日本電産の2017年3月期は、表1の様に売上高は前年比1.8%増と微増にとどまったものの、営業利益は19.3%増になりました。業績は過去最高を更新しました。

製品グループ別に見ると(表2)、全部門の営業利益が増加しました。特に、「車載及び家電・商業・産業用」の営業利益が前年比26.8%増となりました。車載、家電、産業用の各分野で採算向上の成果が出ました。「機器装置」は、液晶ガラス基板及び有機EL搬送用ロボットの増加が寄与し、44.9%営業増益となりました。電子・光学部品は、ADAS(先進運転支援システム)とその関連部品(ミリ波レーダー、カメラなど)などの増加で82.3%増益となりました。

営業利益が最大の部門である「精密小型モータ」は、HDD市場(数量)が緩やかに減少したものの、HDDの単価上昇に伴い当社HDD向けモータも採算が向上したと思われます。また、HDD向け以外の精密小型モータが伸びた結果、5.0%営業増益となりました。

4Qだけを見ると、2016年3月期4Qに行ったスマホ向け振動モータ用設備の減損34億円の反動で、24.8%営業増益となりました。ただし、3Qに比べると減益になっています。これは、HDD用モータの減少、採用活動を支援するためのブランド戦略費(テレビCM費用など)10億円、人材採用費7億円などによるものです。

なお、2017年2月1日付けでアメリカのエマソン・エレクトリック社のモータ・ドライブ事業と発電機事業の買収が一部を除き完了しました。当該部門の業績寄与は2月から発生しており、2018年3月期にフル寄与する見込みです。

表1 日本電産の業績

表2 日本電産の製品グループ別業績推移

2.2018年3月期会社予想は14%営業増益

会社側の2018年3月期営業利益予想は前年比14.0%増の1,600億円です。引き続き各部門で採算改善が見込まれるほか、2月に買収完了したエマソン・エレクトリック社のモータ・ドライブ事業と発電機事業がフルに寄与します。ただし、精密小型モータの売上高は横ばい、車載及び家電・商業・産業用は2019年以降の車載用モータ受注が積み上がっている模様ですが、今期は売上高の伸びは低いと思われます。会社予想売上高1兆3,500億円(前年比12.6%増)の中の前期からの増加分1,507億円のうちの多くがエマソン・エレクトリック・モータ・ドライブ事業、発電機事業の寄与と思われます。

会社側は中期計画「VISION2020」を策定しました。2021年3月期を目処に、2017年3月期23.9%の売上総利益率を31%以上に、同じく11.7%の営業利益率を15%にする目標を立てています。生産現場の労働者約8万人を半分にして、働き方改革で販管費の伸びを抑制する計画です。この計画が進行するならば、今後は年度ごとに営業利益率上昇が確認できると思われます。

また、各分野のモータで、ACモータ(交流モータ)からDCモータ(直流モータ)へのシフトが起こり始めています。後述の家電用モータを含めて3年前は大半がACモータでしたが、今は日本電産で約30%がDCモータになっています。省エネ化がDCモータへのシフトの要因です。この動きは、DCモータが得意な日本電産にとって大きなビジネスチャンスになると思われます。

また、会社側は中長期のターゲットとして電気自動車向けモータへの参入を狙っています。

3.独コンプレッサーメーカーの「セコップグループ」を買収

日本電産は4月26日付けでドイツのコンプレッサーメーカー「セコップグループ(Secop Holding GmbH他3社)」を買収すると発表しました。サイニング(調印)は4月25日、クロージング(買収完了)は6月末を想定しています。株式100%と同グループ各社に対する貸付債権を総額1億8,500万ユーロ(約224億円)で取得します。

セコップは、2016年12月期売上高3億5,660万ユーロ(約430億円)で、このうち約30%が家庭用冷蔵庫用コンプレッサー(業界内でトップ5の1社)、約70%が商業用冷蔵庫用(業界内でトップ2の1社)です。

上述のように、現在ACモータからDCモータへのシフトが進みつつあります。セコップもこの課題に直面しており、日本電産のDCモータと技術を導入することで競争相手に対して優位に立つことができると思われます。

また、日本電産グループに入ることによって、共通の顧客(欧州の家電メーカーなど)に共同納入することによるコストダウン効果が期待できます。本件はシナジーの大きいよい案件と思われます。

4.PERの割安感は乏しい

ACモータからDCモータへの需要シフト、構造改革による営業利益率の引き上げ計画は評価されます。ただし、足元の利益成長は高成長とは言えず、営業増益率10%台の安定成長です。20%以上の営業増益率が期待できるのは、自動車向けモータの新規受注の出荷が本格化する2020年3月期以降になると思われます。会社予想ベースで約24倍の予想PERと14%の増益率を見比べると割安感に乏しいものがあります。

アルプス電気、村田製作所、TDKなど他の電子部品銘柄、あるいは半導体関連銘柄の決算と今期見通しが出揃った後に日本電産のそれとを見比べてみたいと思います。その上で、なお割安感に乏しい場合は、他銘柄への乗換えを検討してもよいと思われます。

アルプス電気

1.2017年3月期は下期から業績回復

2017年3月期は表3のように、2.7%減収、15.2%営業減益となりました。前1Q(2016年4-6月期)、2Q(2016年7-9月期)は、2015年12月からのiPhone減産の影響によって営業減益が続きましたが、下期からは回復しました。

当社を含む電子部品各社は顧客名とその動向についてコメントしませんが、2016年9月発売の「iPhone7Plus」に手振れ補正用、オートフォーカス(AF)用アクチュエーターが付いたデュアルカメラ(カメラの眼が2つ)が搭載されたこと、中国スマホ向けAF用アクチュエーターが伸びたことが、前3Qから増益転換した要因と思われます。中国スマホは年明けから大手のハイエンド品が在庫調整を行っている模様ですが、この影響は軽微だった模様です。

また、2016年3月期に業績が大きく悪化した車載情報機器事業(子会社のアルパイン)は、業績横ばいとなり悪化が止まりました。

表3 アルプス電気の業績

2.2018年3月期は上期好調の見込み、下期会社予想には上乗せ期待も

2018年3月期会社予想は表3の通りです。会社側は4.5%増収、22.8%増益を見込んでいます。上期(2017年4-9月期)は営業利益185億円(前年比31.9%増)、下期は360億円(18.6%増)の予想です。これは前上期が大幅減益だった反動もありますが、次期iPhoneの中で2017年9月発売と言われている「iPhone7」の後継機「7s」「7sPlus」向けのAF用、手振れ補正用アクチュエーターの寄与も見込んでいると思われます。現行の「7」シリーズと併売すると思われますので、iPhone全体でデュアルカメラ比率が上昇することになりますが、これはアルプス電気の業績にとってポジティブです。

また、巷間クリスマス前になると言われている有機EL搭載の「iPhone8」にもデュアルカメラが搭載されると言われています。これがもし好調で、更に中国スマホの在庫調整が下期までに終了して再成長に転じれば、下期会社予想の上乗せの可能性もありそうです。

表4 アルプス電気のセグメント別損益:四半期ベース

表5 アルプス電気のセグメント別損益:通期ベース

3.スマホ依存からの脱却を図る、株価は割安と思われる

スマホ向けアクチュエーターのシェアは約80%を維持しており、当面強力な新規参入はないと思われます(日本電産が参入する模様ですが、一定のシェアを獲得するのに時間がかかると思われます)。一方で、会社側は中期的な方針として、スマホ向け電子部品だけでなく、車載用電子部品、ハプティック(触覚デバイス)などに注力する方針です。

まず、スマホ用、車載用電子部品については、今期、来期と100億円をかけて中核工場の一つである北原工場を増強します。

ハプティックデバイスでは、ニンテンドースイッチのジョイコン(コントローラー)に搭載されている振動デバイスを供給しています。また、今期からスマホ向けに参入する模様です。ハプティックデバイスは自動車への応用も期待されます。

業績とPERを比べると、株価には割安感があります。3,500~4,000円のレンジを目指す展開が期待されます。

アドバンテスト

1.2017年3月期は会社予想未達だが、メモリ・テスタ受注が回復

2017年3月期は、売上高1,559億1,600万円(前年比3.8%減)、営業利益139億500万円(同10.4%増)となり、2017年3月期3Q時の会社予想売上高1,580億円、営業利益160億円は未達となりました。前下期からメモリ・テスタの受注が増加しましたが、これに対して生産体制が追い付かず、十分に出荷出来ませんでした。

前期に出荷が遅れた分は今期に出荷します。会社側の見方では、今期は3DNANDフラッシュメモリの増産投資に伴うメモリ・テスタの新規需要に加え、過去出荷しこれまで稼動してきた古いメモリ・テスタの更新需要が期待できます。グラフ2を見ると、2000年と2004~2007年に受注の大きな山ができており、この頃に出荷されたメモリ・テスタの更新需要が今後発生すると思われます。

会社側では、メモリ・テスタ受注の強い動きは、今後2~3年間続くと考えています。なお市場シェアは、メモリ・テスタはアドバンテストが1位42%、テラダインが2位24%、非メモリ・テスタはテラダインが1位53%、アドバンテストが2位37%です。

表6 アドバンテストの業績

グラフ1 アドバンテストの半導体テスタ受注動向

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ2 アドバンテストの全社受注高

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成、注:2000年3月期1Qから2002年3月期4Qまでは会社資料を基に楽天証券推定)

2.非メモリ・テスタは調整中だが、今下期に期待

非メモリ・テスタ(主にロジック・テスタ)売上高は、2018年3月期は減少する見通しです。中国スマホの在庫調整に伴って、ロジック・テスタ受注高が落ちています(グラフ1では前3Q、4Qと非メモリ・テスタの受注高が増加していますが、前年比では減少しています)。ただし、下期になって中国スマホの在庫調整が終了し、新型iPhoneが発売されると、ロジック・テスタが回復する期待が持てます。

3.2018年3月期会社予想は29%営業増益

上述のように、今期は前期に出荷が遅れたメモリ・テスタの出荷がある見込みです。通期でもメモリ・テスタの販売増加が見込まれます。韓国でメモリ・テスタの販売競争が激しくなっているため、営業利益率の大きな上昇は期待しづらい状況ですが、会社予想営業利益は前年比29.4%増の180億円であり、比較的高い伸びが期待できそうです。また、下期には会社予想に対する上乗せ期待もあります。

中期的には、メモリ、ロジックともに半導体の需要増加に伴うテスタ需要の増加、液晶、有機EL需要の増加に伴うドライバーIC用テスタの需要増加、SSD用テスタの需要増加などのテスタ需要増加要因があります。また、かねてより会社側が指摘している過去出荷されたテスタの更新需要は、実際に発生すると数年間にわたって続く可能性があります。テスタの耐久年数は最大約15年なので、2000年、2004~2007年の受注の山の時に出荷されたテスタの更新需要が出てもおかしくない時期です。

会社予想PERは26倍であり、割安感は乏しいですが、テスタ需要の増加が実際に2~3年続く場合は、更なる株価上昇が期待できると思われます。

グラフ3 アドバンテスト:半導体テスタの売上高内訳

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)