英国の国民投票は予想外の結果に終わりました。国会議員の死亡事件もあって直前の世論調査では残留派がリードしていたことや、経済合理的には残留が英国にとっての国益との楽観論が漂っていたことから、結果が離脱とのニュースが流れると、株も為替市場もパニックとなりました。このパニックに拍車をかけたのが、6月23日の投票締め切り時間午後10時(日本時間6月24日午前6時)の直後に、調査会社の出口調査による残留リードのニュースが流れたことです。テレビの情報番組も伝えていましたが、このニュースによってポンドは上昇しました。しかし、数時間後、離脱の地域が増えてくるにつれて状況は一変しました。出口調査のニュースによって嵩上げされた分だけ、その反動が大きくなりました。

ポンド円の値動き

ポンド円は、すさまじい下落でした。1日で27円の下落はすさまじい落ち方です。10年か20年に一回の大変動ですが、今後の相場を見る上でも大きな値動きのポイントを把握しておくことは重要です。ポンド円の値動きを見てみますと、

  • 投票日前日22日は155円付近
  • 投票直後の出口調査の後には(日本時間午前6時過ぎ)には160円台まで上昇
  • (ここからは日本時間で書きます)午前8時過ぎには147円台まで第一弾の下落
  • その後、154円台まで戻す
  • 正午前に第2弾の下落。この下落は強烈でパニックとなり、150円を割れてから140円割れまであっという間に下落し、133円台まで下落
  • 売りが一巡すると、利食いと売り過ぎの反発から143円台まで戻す
  • その後、139円~142円近辺を上下に数回往復し、24日の引けは(週末の引け)は139円台
  • 翌週27日(月)はギャップダウンによって137円台でオープンし、再び133円台まで下落

この値動きで重要なのは、下落の水準ポイントや反発ポイントを意識し、記憶することによって次の値動きの参考にすることです。③の147円台は前週の安値の145円台が意識されたと推測されます。また、④の154円台までの反発は、①の前日の155台が壁になったということを物語っています。同じことは、⑥の反発が143円台だったのも前週の安値145円台が、今度は壁になり意識されたことが推測されます。このことから今後ポンド円が戻した場合、注目するポイントはギャップダウン後の137円台、先週の引けの139円台、133円台下落後の反発水準の143円台となります。そして戻りの力が鈍く、それぞれの水準まで戻らない場合は、まだまだ売る圧力が強いと推測することが出来ます。

このように、これまでの支持ポイントが抵抗ポイントになることはよく起こりますので、下落のポイントや反発のポイントを目安にしておくことは、相場の値動きを予想するのに役に立ちます。

ドル円の値動き

23日から24日のドル円の値動きを同じように見てみますと、

  • 前日までのドル円は103円台~104円台で上下に値動き、103円台半ばまで下落するが、すぐに104円台に戻され、上昇しても105円が抵抗となり、105円は超えづらい壁
  • 日本時間24日午前6時過ぎに、出口調査の結果を受けてポンド円が上昇すると、ドル円も上昇。105円をあっさり抜けて、107円手前まで上昇
  • 離脱リードのニュースが流れるとポンド円が下落し、ドル円も103円台前半に第一弾の下落
  • その後、105円台半ばまで戻す
  • 正午前に第2弾の下落。ポンド円のパニック的な売りによってドル円も急落。100円を割れると一瞬にして99円に下落
  • 売りが一巡すると、利食いと売り過ぎの反発から103円台前半まで戻す
  • その後、101円台半ばまで下落するが、101円台半ば~102円台前半のレンジで推移し、24日の引けは(週末の引け)は102円台前半
  • 翌週27日(月は)は、ポンド円のギャップダウンを受けてドル円も101円台でギャップダウンしてオープンし、101円台半ばまで下落
  • 政府・日銀の協議開催のニュースと株の反発から102円台半ばまで戻し、その後は101円台半ば~102円台前半の落ち着いた動き

今回の値動きで重要なのは、100円を割れてから103円台前半まで戻したことと、その後の下落は101円台半ばを割れなかったことです。ポンド円の大きな上下動の値動きと比べると落ち着いた動きとなっています。このことから今後のドル円の注目ポイントは、ドル円が戻した場合、最初の抵抗が⑨の102円台半ば、そして③や⑥の103円台前半だということが推測されます。戻りの力が鈍く、それぞれの水準まで戻らない場合は、売り圧力が続いていると推測することが出来ます。その場合の最初のポイントは101円台半ば、そして100円、99円となります。

以上のポンド円やドル円の値動きを参考にして、今後のシナリオを予測していくのですが、ポンド円の場合は、今回の出来事によって経済が縮小し、金融政策も緩和が続くことが予想されるため、仮に戻したとしても長続きせず、上下動を繰り返しながらも長期下落がメインシナリオになりそうです。前々回お話したように、1992年のジョージ・ソロスのポンド売りの時には約30%下落し、2008年のリーマンショックの時も同じような下落幅で約33%下落しました。いずれもポンド・ドルは1.35を割れていませんでしたが、今回30%下落を当てはめると、投票日直後の高値1.50からの下落だと1.05、ポンド円は160円からの下落とすると112円となります。ポンド・ドルは一気にこれまでの抵抗線であった1.35を割れ、1.05の最安値に顔合わせするシナリオが浮上してきました。また、ポンド円もリーマンショック時の120円を割れ込むシナリオが浮上してきました。

ドル円はどうでしょうか。第2弾の下落後、ドル円は余り下落しませんでした。これは、ポンド安やユーロ安の動きは、ドルに対してはドル高の方向となるため、ドル全般は強い値動きだったことが影響しているようです。しかし、今後は、英国や欧州各国の経済の停滞によって世界経済は停滞し、米国へも影響して来ることが予想されます。そうなると、米国の利上げ時期はかなり後倒しとなる可能性があります。場合によっては11月に大統領選挙も控えていることから、年内の利上げは難しいかもしれません。利上げ後退はドル安要因となるため、今の動揺しているマーケットが落ち着けば、ドル円はじりじりと下落する可能性があります。また、政治的地殻変動はこれから起こり、しかも長く続く可能性があります。今後の政治的な内向き傾向が通貨にも起これば、円は相対的に全通貨に対して円高傾向となるかもしれません。しかし、前回の70円台の円高時と比べて各国の金利も物価も低下していることから、前回のように80円台、70円台は示現しないかもしれません。