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「アベノミクス2.0」の特徴と付き合い方
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

「アベノミクス2.0」の特徴と付き合い方

2014/11/21
安倍首相は、12月18日の記者会見で、12月21日に衆議院を解散すること、加えて、来年10月に予定されている消費税率の10%への再引き上げを1年半延期して、2017年4月とすることを発表した…
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「アベノミクス2.0」のスタート

安倍首相は、11月18日の記者会見で、11月21日に衆議院を解散すること、加えて、来年10月に予定されている消費税率の10%への再引き上げを1年半延期して、2017年4月とすることを発表した。

いわゆるアベノミクス相場は、2012年の11月に民主党の野田政権が解散を決めた時点で「起動」したと考えてよかろう。その後、昨年5月下旬から大規模な利食い売りで一波乱あったが、米経済の好調も手伝った円安の進行と金融緩和の効果による日本経済の回復を背景に、まずまずの投資環境を維持してきた。しかし、2014年4月の消費税率引き上げの影響は大方の想定よりも大きく、4−6月期(年率▲7.3%)に続いて、7−9月期(年率▲1.6%)もマイナス成長となり、景気後退に陥った(一般に先進国では、二四半期連続のマイナス成長が「景気後退」の判断基準だ)。

こうした経済状況を背景に、アベノミクスが目指すデフレ脱却が危うくなり、10月31日に日銀は追加緩和を発表した。追加緩和策を「消費税率再引き上げを後押しするため」と解する向きもあったが、筆者は、4月の増税の影響に対する後始末だったと考えている。この時点の緩和は意外感があったので、相場的には大きなインパクトを持ったが、緩和の実施はもう少し早いほうが良かった。

加えて、今般、安倍首相が消費税率の再引き上げを延期することを発表した。この発表も、もう少し早いほうが、経済がモメンタムを失わない点で望ましかったが、延期自体は妥当な判断だろう。

但し、今回の延期に当たっては、景気判断条項を付けないと安倍首相は発表した。再延長は無いということで、2017年4月には自動的に税率が上がる仕組みだ。これは、官僚を納得させて協力を得るために必要な条件だったのかも知れないが、今後、増税時点が近づくにつれて、「次の景気悪化が確実に始まる時点」として経済にとっても、株式投資家にとっても重荷となろう。

株価は、PERで16倍台、益利回りで6%レベルであり、少なくとも極端に高いと判断できる水準ではない。しかし、長期金利が自然に形成された場合の水準を考え、将来の日本経済の成長率が高くないことを考えると、必ずしも安くもない。株価の行き先は、当たり前だが、今後の経済環境次第だ。これまでのような「安心して買える」環境ではなくなった。

10月31日を起点とするか、昨日を起点とするかは、難しいところだが、アベノミクス及びアベノミクスを背景とする相場は、明らかに新しい段階に入った。今後の経済環境をこれまでと区別する意味で「アベノミクス2.0」と名付けたい。

アベノミクス2.0の特徴と注目点

アベノミクス2.0は、前のバージョンであるアベノミクス1.0とどこが同じで、どこが異なるだろうか。特徴と今後の注目点をまとめてみよう。

  • GPIF資金付き金融緩和

今度の金融緩和は、日銀が買うETF(年間3兆円)以外にも、GPIFが売る国債を日銀が買い、その資金でGPIFが株式や外貨建て資産を買う、金融緩和の資金でリスク資産を買う「質的緩和」色が強い合わせ技になっている。遠慮のない表現でいうと、「公的相場操縦」がセットされている。その効果と影響の見極めが重要だ。

GPIFの買いは、国内株式だけで10兆円規模、外国株式と外国債券を合わせた買いはそれ以上の金額に達する。需給で株価を語るのは不本意だが、これだけの規模の資金が動くとなると、影響を意識せざるを得ない。

GPIFがどのくらいのスピードで今回策定した基本ポートフォリオまでリスク資産を買い進むかについては諸説あるが、基本ポートフォリオが策定された以上、運用現場としてはそこから大きく乖離した状態にとどまった場合、大きな説明責任が生じる。付け加えると、相場は、買う方が、売るよりも何倍か楽だ。筆者は、例えば、1年以内に基本ポートフォリオの配分が達成されるような、案外早い買い進みを予想している。

  • 「第三の矢」に掛かる期待がより大きい

雇用と賃金が概ね安定している勤労者層を「中間層」と名付けると、アベノミクス1.0にあって、中間層は賃金上昇が増税と物価上昇に追いつかず「割を食った」形になっている。中間層に実質的な所得増の恩恵が及ぶためには、経済の生産性が改善して、これが彼らの賃金に反映する形以外にほぼあり得ない(生産性の改善以上の賃上げは企業収益と雇用を悪化させるから)。

アベノミクス1.0が起動した段階では、失業者をはじめとする「有休資源」が豊富に存在したが、建設業・サービス業等の人手不足に見られるように、経済の供給側の資源が以前よりも逼迫しているのが、アベノミクス2.0の環境の特徴だ。

生産性の改善の必要性が以前よりも緊急性を帯びている。

解雇規制の緩和、TPPの締結、医療・農業・介護・保育などの迅速で徹底的な規制緩和、法人税率の大幅な引き下げ(少なくとも20%台前半へ)が無いと、経済的な好循環と中間層の生活改善はないし、相場的にも、単なる金融相場のバブルで終わる公算が大きい。

  • 「2017年4月」の消費税率引き上げ予約

前記のような「第三の矢」諸策が速やかに登場するなら、日本経済が中長期的な成長モメンタムを回復し、景気的にも相場的にも長期的な繁栄が期待出来る可能性はある。

そうならない現実的なケースを想定すると、2017年4月に「必ず」消費税率の引き上げがあることの意味は、「景気のプラス循環の終了がこの時点に予約されている」ということなので、相場的にも意識せざるを得ない。

日本の政策を動かしている最も強力な利益団体は官僚集団だ。政治家でも、いわゆる財界でもない。今回発表された消費税率再引き上げの延期は、デフレ脱却を第一の優先事項として考えた時にどうしても必要な決定だったと考えるが、おそらく、官僚(主に財務省)に延期を納得させるために、景気条項を削除する必要があったものだろう。政権としては、当面の利を取るためにやむを得ない選択だったのかも知れないが、2017年4月は意外に近いし、この時が増税に適した状況であるかどうかには大きなリスクがある。

経済・相場にそこそこの好循環が続いたとしても、この時点で一端終了となるリスクを投資家は意識せざるを得ない。

ここを乗り越えるためには、例えば、実質的な法人税率で見て20%ぎりぎり位までの減税が決まるような、大胆な成長戦略の施行が必要だろう。これは、日本の官僚集団と政権の力関係から見て、容易ではない。

  • 米国の金融引き締めへの移行

米国経済は概ね好調であり、失業率で見て金融緩和政策の目標の1つとされていた6.5%を大幅に下回っている。FRBによる大規模な債券買いは既に終了したが、2015年中にはFRBが利上げに入る可能性がある。

経験的には利上げの開始が直ちに上げ相場の終了ではないが、金融引き締めに最終的に勝つ相場はない。

米国の金融引き締めへの移行予想は、初期の段階で日米の金融政策のズレとして円安要因に働くので、日本株にとってはむしろプラスに働く。しかし、株式市場のグローバルな連携はこれまでになく強化されており、米国の金融引き締めへの移行の日本株へのインパクトは、日本の金融緩和継続の好影響を凌駕する可能性が十分ある。

例えば、来年GPIFの買い資金が尽きかけた時点で、米国の利上げが始まった場合、相場の大天井到来を意識せざるを得なくなりそうだ。

  • 円安頼みの終了が近い

筆者は、120円台くらいの円安は、円高になるよりも日本にはメリットの方が大きいと思っているが、最近の株式市場を見ると、株価の円安に対するプラス反応幅が小さくなってきた。

加えて、内外の物価の動きを考えると、円の実質実効レートベースでは、相当の円安になっている。アベノミクス2.0のどの段階で起こるかは予想出来ないが、どこかで為替の流れが円高にひっくり返るリスクは、少なくとも頭の片隅ではそろそろ意識しておきたい。

円安だと日本企業は海外でのビジネスの利益が膨らんで、労せずして増益となるが、円高に振れた場合、業績が一気に悪化するリスクがある。

投資家にとっての「アベノミクス2.0」との付き合い方

アベノミクスが1.0から2.0になっても、アベノミクスが株価をはじめとする資産価格上昇を手段の一つとして使おうとする政策であることは間違いない。底流として、政策の追い風があることは意識していい。「政策に売り無し」という相場格言もあるくらいで、いきなり逆らう手はない。

現在、株式を相当量お持ちの方は、まだ売りに入るタイミングではない公算が大きかろう。

しかし、追い風がいつまでも続く訳ではないことと、徐々に株価のレベルについて考えなければならないことは頭に入れておきたい。

アプローチは二つある。

一つは、株価のレベルによってポジションを調整することだ。例えば、成長率と益利回りの関係を見て、妥当な利益成長を超えて株価が高騰している(益利回りは低下する)ようであれば、段階的に株式投資を縮小する。

この方法は、オーソドックスなやり方であり、間違いではないが、上げ相場は最後の一振りが大きいことがよくあり、冷静な投資家は寂しい思いをすることがある(バブル最後の年である1989年、筆者はファンドマネジャーとして運用的にはフルインベストだったが、論陣的には逆風だった)。

第二のアプローチは、イベントをよく見ることだ。現時点で思い当たる注目要素は、「GPIFの買い終了」、「米国の金融引き締め開始」、「円高への転換」、「2017年4月」といったものだが、相場の終了は、ふとした意外なきっかけで始まることが多い。

例えば、近いところでは、可能性上、総選挙で自民党が予想以上に議席を減らして、安倍内閣が退陣に追い込まれるようなリスクもないではない(筆者はそうなるとは予想していないが)。

まだ「追い風」であることは再度強調しておくが、アベノミクス2.0にあって、株式投資家は、以前よりも注意と緊張を高めることが必要だろう。

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