55歳での投資デビューは遅くない
最近、50歳代向けのライフプランセミナーで基調講演をする機会をいただきました。一般的に、企業が定年退職直前者向けセミナーを開催するとき、主たるテーマは「老後のお金のやりくり術」です。
あるいは健康保険制度や介護保険制度の話であったり、確定申告の話であったりします。少し時間的余裕があると相続や遺言までテーマが及ぶこともあります。
しかし私が打ち合わせの段階で意見をしたのは「まだ定年までにできることがある!」というテーマを組み入れることでした。
というのも、資産形成の原資を積み上げる時間的余裕がまだ残されている時期に、「退職金と現在の預貯金額でセカンドライフをやりくりしよう」という話に終始してしまうのはいかにももったいない話だからです。
むしろ『今日の話を聞かなかった未来よりも○○万円多く貯めて定年を迎えられる』という話を伝えてはどうか、というわけです。
このとき、気を引き締めて家計を見直し、貯蓄原資を確保することができても、「投資で増やそうとすべきか」という問題が残ります。
私はいくつかの理由で、「55歳でも投資デビューをしてみましょう」とお話をしました。今日はそんな話をしてみたいと思います。
55の手習いでも、時間はまだ20年以上ある!
一般に、55歳では投資をするリミットはあまり長くないとされますが、現実的にはそうでもありません。
65歳の男性は19年、女性は24年の平均余命がありますから、55歳の男性は「リタイアまで10年、リタイア後約20年」の資産管理を必要とします。リタイア後10年は精神的にも肉体的にも余裕があると見積もっても20年は投資と向き合うことが可能になります。
20年という長期期間(亡くなるまでと考えれば30年!)での資産管理を意識したとき、インフレ対応という問題はきわめて重要です。高いリスクを取る必要はありませんが、それでもインフレに乖離し続ける10年は致命的です。
また、投資経験という「55の手習い」が20年にわたって価値を持つことも見逃せません。60歳ないし65歳になって、退職金を片手に投資デビューをするほど危ういことはないからです。
投資において投資金額を高める際には自分の無知や無力を自覚することが必要です(経験の豊富さを謙虚さに変えられる人は強い)。しかし、投資未経験者はそうした自覚もなく、退職金を原資に高額投資を始める投資ほどこれと反するものはありません。
ここまで積み重ねてきたキャリアや自負が「私は投資については未経験であり素人です」と正直になることを阻みます。しかし、知ったかぶりや自信過剰のまま退職金の過半を株式投資に回し、短期的な急落相場を乗り越えることはできません。
先のリーマンショックでも短期的には30%以上の下落が生じ、そこで焦って損失確定した人も相当います。しかし投資の経験を踏まえて市場が回復するまで時を待つことができた人は元本割れどころか資産増を実現することができています。
短期的な急落にも動じず投資を続けていくためには、経験が必要です。つまり「55の手習いの価値」がそこにあるわけです。