前回のコラムでは上場株式の相続税評価や相続対策手法についてご説明しました。今回は上場株式以外で代表的な金融商品である、投資信託や債券の相続税評価および相続対策についてお話しします。

上場株式以外の金融商品も基本的には「時価」で評価

前回、上場株式の相続税評価についてご説明しましたが、個人投資家の方の多くは、上場株式以外の金融商品にも投資されていると思います。そこで今回は、特に投資されている方が多いと思われる投資信託および債券について、相続税評価や相続対策についてご説明します。

原則的には、相続税・贈与税における財産評価上、金融商品については「時価」で評価するのが基本です。後は、「時価」をどのように計算するかの違いです。

投資信託の「時価」とは?

相続税・贈与税において、投資信託の評価額の計算方法は財産評価基本通達199に定められています。そこには具体的な計算式が載っているのですが、その式を見てもなかなかピンとこないと思われます。

ですから、投資信託の評価額は「相続発生日(もしくは贈与日)において解約請求又は買取請求を行ったとした場合に証券会社などから支払いを受けることができる価額」とひとまずは理解しておけば大丈夫です。実務上は、証券会社から残高証明書などを発行してもらい、それをもとに評価額を計算していきます。

なお、投資信託の中には、上場しているものもあります。例えばETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)です。これらについては、上場株式と同じように売買されており、上場株式とあまり異なることがないため、前回ご説明した上場株式と同様の方法で評価することとされています。

債券の「時価」はどうやって計算する?

現実の話として、被相続人の方が債券を保有されているケースはかなり多いです。やはり高いリターンも見込める一方でリスクも高い「値上がり益」を目指す一方で、確実性の高い「利息」という形でリターンを受け取りたいというニーズも多いことの表れなのでしょう。

債券についても原則として「時価」で評価します。ただし債券の場合は、債券自体についている時価に「既経過利息」を加えたものを評価額とします。

既経過利息とは、例えば3月末と9月末が利払い日の債券を保有していた方に6月末に相続が発生した場合、4月から6月までの利息として9月に受け取れるはずの金額のことです。この金額は、利払い時の源泉税を控除して求めることとなっています。

債券には大きく分けて「利付債」と「割引債」がありますが、ここではより一般的な利付債の評価について取り上げます。

上場している債券であれば、相続発生日の最終価格に既経過利息を加えたものが評価額となります。ただ、上場している債券はあまり多くありません。それでも、時価に近いものが計算できる債券は結構あります。

「公社債店頭売買参考統計値」(以下「売買参考統計値」)と呼ばれるもので、この価格が存在する債券は、売買参考統計値に既経過利息を加えた額が評価額となります。売買参考統計値は証券会社に残高証明書等を発行してもらうと記載があります。日本証券業協会のホームページから入手することもでき、一部銘柄については日本経済新聞のマーケット欄にも掲載されています。なお、上場している債券で最終価格より売買参考統計値の方が低い場合は最終価格のかわりに売買参考統計値を用いて評価します。

しかし、債券には様々な種類のものがあり、流動性・換金性に乏しいものも少なくありません。特に「仕組債」と呼ばれる、債券にオプションなど金融商品が組み込まれているものは流動性が低いため時価の計算が困難です。そこで、上場しておらず売買参考統計値もない債券については、発行価格に既経過利息を加えたものが評価額となります。

個人向け国債については、相続発生日もしくは贈与日における中途換金額で評価することとなっています。具体的には、額面金額に既経過利息を加え、そこから中途換金調整額を差し引いた金額となります。

一般的に債券や投資信託を保有しても相続対策にはならない

このように、投資信託も債券も、相続が発生した日の「時価」で評価することになっています。一方、上場株式は、前回のコラムでご説明した通り、

  • 相続発生日の株価終値
  • 相続発生日を含む月の日々の株価終値の平均値
  • 相続発生日の前月の日々の株価終値の平均値
  • 相続発生日の前々月の日々の株価終値の平均値

の4つのうち最も低い価格を相続税評価額とすることができます。

これは、投資信託や債券に比べ、上場株式は価格の変動が大きいために、評価上多少の配慮がなされているためです。投資信託や債券は、価格の変動が上場株式ほど大きくはないため特段の配慮は必要ないと考えられているのでしょう。

上場株式は上記の4つのうち最も低い価格を相続税評価額とできますから、相続が発生した日以前2~3カ月の値動きの状況によっては、結果的にではありますが、評価額をある程度低く抑えられる可能性があります。

しかし投資信託や債券は、相続発生日の時価そのもので評価しますから、そうした恩恵を受ける余地はありません。投資信託や債券を保有しても、特段の相続対策にはつながらないのが結論です。

ETFとインデックス連動型投資信託を相続税の観点から比較すると

ただし、投資信託でもETFやREITといった、証券取引所に上場しているものについては上場株式と同じ方法で評価することは上でご説明したとおりです。つまり、上記①から④のうち最も低い価格で評価することができます。

ところでETFには日経平均株価、TOPIXなど株価指数に連動するタイプのものが数多くあります。一方、上場していない投資信託にも、株価指数に連動するタイプ(インデックス型投資信託)があります。例えば日経平均株価に連動するタイプのETFとインデックス型投資信託とでは、価格や値動きはほぼ同じになります。

でも相続税の観点から言えば、ETFの方がインデックス型投資信託より評価額計算上有利になることが多くなります。説明の便宜上、インデックス型投資信託の解約時所得税、信託財産留保額、解約手数料がないものとして考えると、例えば相続発生日に向けて株価が上昇傾向にあるような場合は、インデックス型投資信託よりETFの方が評価額が低くなります。

相続後のことまで考えて投資する商品を選ぶことはあまりないとは思いますが、少なくとも相続税の財産評価という観点でいえば、インデックス型投資信託よりETFの方が有利になるケースが多いことは知っておいて損はないでしょう。

株式や投資信託が大きく値上がりすれば相続人の手元に残る財産は増える

前回および今回のコラムにて、上場株式や投資信託、債券を保有しても基本的には相続対策にはならないとお話ししました。でもそれはあくまでも「相続税」がどうなるか、という観点からの議論でしかありません。筆者は、相続税についてももちろん検討する必要はあるものの、相続人に対してより多くの財産を残してあげることも、相続対策の1つだと思っております。

話をシンプルにして考えてみますと、相続人3人、キャッシュで5,000万円が全財産という場合の相続税は20万円です。でも、そのキャッシュで上場株式や投資信託に投資して1億円に増えた場合、相続税は630万円に跳ね上がります。

一方、上記のそれぞれにつき「相続人の手許に残るキャッシュ」という観点でみてみると、前者は5,000万円-20万円=4,980万円、後者は1億円-630万円=9,370万円が手許に残る計算です。

キャッシュを上場株式や投資信託に換えておくことが直接的な相続対策につながるわけではありませんが、相続人により多くの財産を残すという観点からみれば、将来上昇が期待できる上場株式や投資信託に投資するということは大いに意味のあることではないかと筆者は感じています。

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