• 米シェールオイル生産量の減少傾向に歯止めがかかりつつある模様
  • 背景にある横ばい推移に変化した「仕上げが完了した油井」の存在
  • 現在の原油価格の水準が続けば、米シェールオイルの生産量は前月比プラスに転換する!?

 

今週月曜日、米エネルギー省(以下EIA)より、米国のシェールオイルの主要生産7地域のデータが発表になりました。

 

本レポートではそのデータよりいくつか気になった点をピックアップしています。先週のレポート「原油価格の見通しと米国の原油生産量の関係」と関わるところ内容となり、今後の米国の原油生産量の行方を考える上で重要なものであると考えております。

(参考)EIAが提唱する米シェールオイル主要生産7地区

出所:EIAのウェブサイトより抜粋

  • 米シェールオイル生産量の減少傾向に歯止めがかかりつつある模様

図:米シェールオイル主要7地区の原油生産量の前月比(左)と原油価格の推移(右)
※2016年10月と11月はEIAによる見通し
米シェールオイル主要7地区の原油生産量の前月比(バレル/日)
原油価格の推移(ドル/バレル)

出所:EIAおよびCMEのデータより筆者作成

図:米シェールオイル主要7地区の原油生産量の前月比(左)と原油価格の推移(右)
※2016年10月と11月はEIAによる見通し
米シェールオイル主要7地区の原油生産量の前月比(バレル/日)
原油価格の推移(ドル/バレル)

出所:EIAおよびCMEのデータより筆者作成

上の2つのグラフは、米シェールオイル主要7地区の原油生産量の前月比と原油価格の推移を表したものです。上が2014年1月より、下が2016年1月より、となります。

2014年の前半は原油価格が100ドルを超える水準で推移していたこともあり、同地域の原油生産量は増加傾向でありました。しかし、2014年後半からの原油価格の急落・低迷により大きく減少傾向に転じ、同地区からの原油生産量も減少傾向になりました。

2016年に入り、特に同年後半より同地区の原油生産量は減少幅を縮める(シェールオイルの生産量の減少傾向に歯止めがかかる)傾向にあるようです。その要因はやはり、26ドル台から50ドル超に至った原油価格の回復にあるものと見られます。

  • 背景にある横ばい推移に変化した「仕上げが完了した油井」の存在

図:シェールオイル生産までの流れと取得できる3種類のデータ

出所:筆者作成

この図は、筆者がさまざまな情報源を見たり、ヒアリング等で得た情報により作成した、シェールオイル生産までの流れと各行程に関わる取得可能なデータの種類です。

行程は、探鉱(どこを掘るか探す)→開発(掘る・仕上げる)→生産(生産・輸送)という3つに分かれています。

「稼働リグ数」「掘削完了・仕上げ前の油井の数」「仕上げ後の油井の数」の前月までのデータは、いずれも今週発表になったEIAのデータで確認することができます。

先々週のレポートでは「生産開始前の油井(DUC)の数」を取り上げました。これは、上図の真ん中の「掘削完了・仕上げ前の油井の数drilled but uncompleted (DUC)」に当てはまります。

以下のとおり、引き続き「生産開始前の油井(DUC)の数」は減少傾向にあることが確認されました。

図:米シェールオイル主要生産7地域の生産開始前の油井(DUC)の数(単位:基)

出所:EIAおよびCMEのデータより筆者作成

生産開始前の油井が減る、つまりそれは、生産に向けて開発が進展した(“仕上げ”(後述します)が完了した)ことを意味すると考えられることから、今年の2月以降、同地域での原油生産に向けた活動が活発化しつつあること示していると思われます。(生産に向けた“準備が進んでいる”ということであり、生産量が増えている訳ではありません)

今回のレポートでは、開発段階におけるもう一つのデータを取り上げたいと思います。油井として生産活動が開始できる準備ができた「仕上げ後の油井の数(completed)」です。(調べたところ(completed)は“仕上げ”と訳されているようです)

EIAのデータ上では、以下のような計算がなされています。

「当月の生産開始前の油井(DUC)の数」=

「前月の生産開始前の油井(DUC)の数」+「当月の掘削済油井の数(drilled)」-「当月の仕上げ後の油井の数(completed)」

“仕上げ”とは、シェールオイル・ガスの開発段階で行われる「水圧破砕」と呼ばれる掘削した抗井に超高圧の水を注入し、数キロメートル地下の抗井の末端付近でシェールオイル・ガスが含まれる岩石に亀裂を生じさせる、シェールオイル・ガスの採取に必要な作業と言われています。

「仕上げ後の油井の数(completed)」は、「水圧破砕」が完了した、今後比較的短期間でシェールオイル・ガスを採取できる状況になった油井の数であると考えられます。

「稼働リグ数」「掘削完了・仕上げ前の油井drilled but uncompleted(DUC)」「仕上げ後の油井の数(completed)」など、シェールオイルの開発段階におけるさまざまなデータがある中で、「仕上げ後の油井の数(completed)」が最も生産動向に近いものであるとも言えそうです。

図:仕上げ後の油井の数(completed)の推移(単位:基)

出所:EIAのデータより筆者作成

上記のとおり、今年4月以降「仕上げ後の油井の数(completed)」は、(原油価格が急落し始めた)2014年の後半からの減少傾向が止まった形となっています。

この水圧破砕に係るコストは開発の大部分を占める(開発全体に係るコストの4分の3程度)と言われており、シェールオイル業者が「掘削完了・仕上げ前の油井drilled but uncompleted (DUC)」を「仕上げ後の油井(completed)」にするということは、業者にとって現在の状態がある程度採算が合う(原油価格が適した値位置である)可能性があると推測できると思われます。

留意点としては、「仕上げ後の油井の数(completed)」は必ずしも生産が行われているとは限らない点です。仕上げは終わったものの、まだ生産が始まっていない状況も考えられるためです。

とはいえ、掘削開始前や仕上げ開始前などの時点に比べれば、仕上げ後の油井からは比較的速やかに原油の生産を開始できるものと思われます。

原油価格の動向次第では、仕上げ後の油井の数が増加すること、仕上げ後の油井からの生産が加速することが考えられるかもしれません。

  • 現在の原油価格の水準が続けば、米シェールオイルの生産量は前月比プラスに転換する!?

上図のとおり、「仕上げ後の油井の数(completed)」において、原油価格が急落し始めた2014年の後半から続いていた減少傾向が止まった形となっていますが、この変化は、今年に入ってからの原油価格の動きを見て、コストをかけて仕上げをする価値があると判断する業者が出始めたことを意味するものと思われます。

また、推測の域を超えませんが、「仕上げ後の油井の数(completed)」と同地区の原油生産量の関わりについて、およそ7から8か月のタイミングのずれをもって動いていると推測することができるように思われます。

タイミングのずれについてはその時の原油価格の値位置によって変動するものと思われますが、少なくとも「仕上げ後の油井の数(completed)」が下げ止まったという変化については、今後、同地区からの原油供給が近い将来、増加する可能性を示唆しているように思われます。

7から8カ月間というタイミングのずれは、いみじくも、冒頭で述べた、米シェールオイル主要7地区の原油生産量の前月比がプラスに転じつつあるという件とおおむね合致するものです。

次週以降のタイミングで、米国のシェールオイル以外の原油(在来型)と合わせた米国の原油生産動向にもふれていきたいと思います。

 

私事となりますが、今回で100回目のレポートを迎えることができました。

 

 

 

読者の皆様のお力添えなくしてここまでたどり着くことはできませんでした。

日々のご購読、誠にありがとうございます。

101回目以降も、次の100回をめざし、内容に磨きをかけてレポート執筆に邁進していく所存です。

今後ともご愛顧の程、どうぞよろしくお願いいたします。

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト

吉田 哲