- 英国のEU離脱決定前後は“リスク回避”で金(ゴールド)上昇、一方、原油や銅は下落。
- “本当に総悲観”なのであれば、“金もろとも売られるはず”。金が買われている今は、まだ、世界の金融システムがマヒしているとは言えない!?
- EU離脱ムードの拡散懸念の中で、プラチナが抱え始めた新たな難問とは・・・プラチナとの価格の関係が崩れる可能性。
2016年6月24日(金)13時過ぎ(日本時間)
我々は、英国国民が“英国はEUを離脱する”という判断を下す様を目の当たりにした。
未明の英国からの情報が、昼のアジア市場も、深夜の米国市場をも飲み込んだ。
残留を最後まで訴えたキャメロン首相の思いは英国国民に届かず、同国民はついにEU離脱を選択したのである。
この判断は、関わりが深かったEU諸国との関係が悪化する懸念、英国自身もEU諸国も経済が停滞、引いてはそれがEUと関わりの深い米国・中国・日本へマイナスの影響を与えることが懸念されるだけでなく、今後もEUから離脱を訴える新たな「Exit予備軍」を出現させる可能性を高めたと言えるのではないだろうか?
今後も、“脱EU”をテーマとした懸念は続くと見られ、このような不安・懸念が商品(コモディティ)市場にも大きく影響すると考えられる。
英国のEU離脱決定前後は“リスク回避”で金(ゴールド)上昇、一方、原油や銅は下落
本日の国民投票の開票直後から開票結果が出るまで、商品(コモディティ)市場は、先々の英国、EU、そして世界経済へのマイナスの影響が拡大する懸念を織り込みながら大きな値動きとなっていた。
資金の逃避先・代替通貨という側面を持つ金(ゴールド)が上昇、景気動向に需要の増減に影響を受ける原油や銅などが下落、という展開である。
図:6月24日(金)午前7時と午後2時の騰落率
ドル建ての金は6.2%の上昇、一方、WTI原油は6.3%の下落となった。
資金の逃避先・代替通貨と目される金(ゴールド)が上昇、金と同じ貴金属だが金よりも工業用途で用いられることが多いプラチナが続いた。
一方、原油、銅、天然ゴムなどの工業製品の素材や燃料、インフラに用いられるいわゆる景気循環型のコモディティは大きく下落する展開となった。
つまり、マーケット全体のムードが“リスク回避”状態にあり、それを映し、代替投資先高・景気循環系商品安という構図となったと言えよう。
“本当に総悲観”なのであれば、“金もろとも売られるはず”。金が買われている今は、まだ、世界の金融システムがマヒしているとは言えない!?
図:リーマンショック以降の金(ドル建て)の値動き
上図より、リーマンショック直後、金(ドル建て)は上昇していたことが分かる。上述の今回の英国のEU離脱時に金が上昇したことと重なる。
しかし、2008年10月上旬より後半にかけて大きく価格は下落する。この下落のタイミングで原油、銅、天然ゴムなどの工業用途がメインのコモディティも下落していた訳だが、この下落が、金もろとも売られる“総悲観の売り”であったと考えられる。
このことから、現在(日本時間24日午後)、上昇している金も、今回のBREXITが他のEU諸国のEXITを誘発するなど、負のインパクトが生じてくれば、金とて売られる場面も出てくることとなるのではないだろうか。
その場面こそが、“総悲観ムードが世界経済を支配することによる金融システムの不全状態”であると考えられるが、とはいえ現在はまだ(悲観ムードは漂ってはいるものの、金価格は上昇しているため)、世界の金融システムは何とか健全さを保っているとも言え、落ち着きを取り戻せば正常な状態に戻れる可能性があると考えられるのではないだろうか。
EU離脱ムードの拡散懸念の中で、プラチナが抱え始めた新たな難問とは、金との価格の関係が崩れる可能性が出てきたこと。
・欧州は世界屈指のプラチナ需要地域。欧州のプラチナ需要は世界の需要のおよそ3割に達する。
EU諸国での懸念は、個別のコモディティ市場にどのような影響を及ぼすのだろうか?
懸念が通貨安に発展してコモディティマーケットに影響を及ぼすという“金融要因”での影響もあるだろうが、ここではコモディティマーケットの価格変動要因の根幹とも言える“需給要因”にどのような影響を及ぼすかという面から考えてみたい。
欧州での不安・懸念それがさらなる経済の停滞に発展していった場合に想定されることは、“欧州域内での需要減少”ということである。
例えば、以下は主要なコモディティ銘柄の国別の需要を表したものである。
図:原油(左)、金(中)、プラチナ(右)の国別需要の割合
これらの主要商品では常に中国や米国が上位に名を連ねているが、注目したいのは右のグラフの“プラチナ”である。
プラチナの需要全体のおよそ3割は欧州が占めている。
もともとプラチナの需要については原油や金に比べて消費国・地域が分散されていないという特徴が見て取れるが、その一大消費地が欧州ということである。
また、その欧州でのプラチナ需要においては以下のような内訳になっている。
・需給バランスが価格変動の主因であるコモディティ市場において、“主要需要国の需要減少懸念”で価格が下落することも。
図:欧州のプラチナ需要の内訳(2015年)
世界の一大プラチナ消費地の欧州での消費の内訳で最も割合が大きいのは「自動車の排ガス触媒用」である。
排気ガスが通るマフラー付近の部品の内側に、「触媒作用」によって有害物質を浄化するためにプラチナが粉末状になって塗布されている。
欧州でのプラチナ需要は自動車触媒用途がメインであり、工業用途となればその需要動向は欧州の経済動向に因る点が大きいと考えられる。
以下のとおり、欧州の自動車触媒向け需要だけで世界のプラチナ需要のおよそ2割をも占めている。欧州の工業関連の活動がプラチナの需要動向に大きく影響する素地があることを示していると見られる。
図:プラチナ需要全体に占める欧州の自動車触媒需要(2015年)
英国の国民投票を経て、なお欧州圏では強い懸念が指摘されている中において、今後のプラチナの需要動向にも懸念がのしかかっていると考えることができるだろう。
また、直近の報道で注目が集まったフォルクスワーゲンの不正問題を巡るおよそ1兆円の和解金についても、今度の同社の自動車生産事情にマイナスの影響を及ぼしていくことも想定されよう。
図:欧州のプラチナ需要、およびEU諸国の名目GDP(最大28か国の合計)の推移
・欧州発の世界のプラチナ需要減少シナリオは、金との価格差をさらに拡大させる要因になるか。
プラチナ単独の規模の大きい弱材料が生まれた場合の影響として、他の貴金属との価格の関係が乱れる可能性も想定されよう。
金(ゴールド)との関係である。
プラチナは、流通および生産量が金のおよそ20分の1以下程度とされ、量の面で金に比べ希少であると考えられる。
また、プラチナは、融点が非常に高い、腐食しにくい、電気をよく通す、触媒作用があるなど、(金よりも)現代社会になくてはならない工業製品の製作・維持に適した特性を持っていることから、質の面で金に比べ優位であると考えられる。
量・質の両面で、プラチナは金に優っているという意味からすれば、価格はプラチナが高いと考えることができよう。
しかし、近年は世界的な経済情勢の不透明さから、(プラチナが金に対して優位と考えられる)工業製品の分野における需要の鈍化傾向により、価格は下落する展開となっておりすでに金価格を下回っている状況となっている。
仮に、今回のBREXIT問題に端を発した“EU離脱ムードの高まり”が、EU域内で拡大し、経済の停滞が進めば、欧州全体の工業製品の製作をはじめとした、プラチナを用いる幅広い分野で活動が停滞、引いてはプラチナ需要が減少する可能性も考えられよう。
欧州というプラチナにとって需要全体の3割弱もの需要地域での経済の減速は、プラチナの需要面において大きなマイナス要因となると考えられる。
このような状況になれば、先述の“プラチナと金との価格の関係”において、これまでの量と質を根拠とした教科書上の理論は、プラチナ固有の大きな弱材料の到来によって通じなくなる可能性も出てこよう。
つまり、金とプラチナの価格差は、欧州経済の鈍化懸念を背景に、さらに拡大(この場合はプラチナがより下落し、プラチナよりも高い金との価格差がさらに拡大する)ことも想定しておかなければならないと考えられる。
プラチナは欧州だけで用いられているわけではないため、中国・米国(特に中国の宝飾需要)の需要が拡大すれば欧州の減少を相殺できるとも考えられるが、今後、欧州でEU離脱ムードが拡大する可能性が指摘されている状況において、これまで以上に、欧州および全体の需要動向を見ていくことが重要になってきているようである。
今後、不安・懸念の高まりで金価格が仮に上昇した場合、その不安の高まりが欧州におけるEU離脱ムードの連鎖によるものであれば、仮に金価格が上昇したとしても、その時プラチナはEU域内での需要減少懸念から下落する場面も出てくるのではないだろうか。(プラチナ価格下落、金価格上昇、さらなる価格差拡大)
図:ドル建てプラチナと金、および価格差(プラチナ-金)の推移 (単位:ドル/トロイオンス)
図:円建てプラチナと金、および価格差(プラチナ-金)の推移 (単位:円/グラム)