- 金価格が歴史的な高止まりを見せるのは、現在が悪材料の多発・連鎖の時代であるため
- 英国のEU離脱(BREXIT)問題が金価格を押し上げるのは“世界景気悪化懸念の高まり”と“不安を抱える通貨の代替”の2つの文脈
- Exit(出口)ではなく、懸念のさらなる高まりの“入口”になる可能性も
2016年6月。国内外の金価格の上昇が顕著になっている。
図:主要国の株価指数と通貨(対円)の騰落率(単位:%)
※5月31日と6月16日を比較
主要国の株価指数・通貨の下落から考えれば、全体的にリスクオフモードの中、資金の逃避先として金に注目が集まっているということであろう。
また、主要国の国債を買う動きは見られるものの、利回りがすでにマイナスのものも散見され、株などの比較的変動の大きい資産と一緒にポートフォリオに組み込むことで、ポートフォリオ全体のリスクを軽減できると期待される国債において、資産保全の意図であったとしても、利回りが今よりも高かったころに比べれば、現在は国債の保有メリットが低下しいていると考えられる。
図:主要国の国債利回り(10年債) (単位:%)
世界的な株価下落、欧米の主要国通貨下落、国債の保有メリット低下。そして日本国内では急激な円高・株安。
一体どこに資金をシフトさせればよいのか?
その問いの解は我にありと言わんばかりに、金価格は大きく上昇している。
“消去法による投資先の選択”が世界中で行われているのかもしれない。
金価格が歴史的に高止まりするのは、現在が悪材料の多発・連鎖の時代であるため
以下の図はドル建て金のロングチャートである。
1970年から80年代にかけて、金価格の変動要因に真っ先に上がったの“インフレヘッジ”と“有事”であった。
90年代に入ると、利息の付かない金への投資に妙味が無くなり価格は低迷期に入る。
しかし、2000年に入り状況は大きく変化する。
このころ現れた“地政学的リスク”という言葉に、世界中で起こるさまざまな不安や懸念が集約され、“地政学的リスクの高まり”という漠然としたムードが世界を覆うようになる。
戦争やテロだけでなく、気候、天候、民族、宗教、核問題、領土問題、疾病など、幅広い要素を発端とした不安や懸念が“地政学的リスク”という言葉に集約され、その結果、ほとんど絶えずと言ってよい程、(規模や時間軸のインパクトの大小問わず)世界のどこかで“地政学的リスク”が発生している状況が生まれた。
特に景気の後退局面では“地政学的リスクの高まり”が見られれば、株や通貨の代替となる資産への逃避が顕著になる場面が出てきている。
地政学的リスクという概念が、大小問わず世界にリスクがある事を知らしめる広告塔のような役割を果たしているように思われる。
それが引いては、投資家においてリスクを意識する場面が増え、資金の逃避先を模索することに敏感になり、その結果(2000年以前よりも)リスクの高まりが資金の逃避先を模索する動きを強める要因となったと考えられよう。
これは、資金の逃避先として目される傾向がある金(ゴールド)が、2000年以降の急騰後、高止まりしていることを裏付ける一因であると考えられよう。
参考までに、以下は円建ての金のロングチャートである。
ニューヨークの金と東京の金、両市場の間に介在する“ドル円”が各市場の金価格の上下の波の“振幅”を増減させることはままにあり得るものの、どちらの市場でも取引されているのは金であることに変わりはないため、価格が推移する上での中長期的なポイント(山と谷)のタイミングはおおむね同じであるようである。
特に日本ではマイナス金利の導入、日銀の追加金融緩和の見送り、増税延期(景気回復が遠のいているという意味で)等、不安心理が広く醸成されてきていると見られることが、(日本国内での)円建て金に注目が集まる要因になっていると考えられよう。
英国のEU離脱(BREXIT)問題が金価格を押し上げるのは“世界景気悪化懸念の高まり”と“不安を抱える通貨の代替”の2つの文脈
英国のEU離脱(BREXIT)問題をめぐり、状況は日々変化しているため、離脱した場合、残留した場合のどちらのシナリオを想像するには難しい状況になってきている。
しかし“そこに大きなリスクが存在する”ということには変わりはなく、英国の国民投票がいよいよ目前に迫ったと意識されはじめた6月、金価格は大きく上昇している。
- なぜ英国がEUを離脱しようとすると金価格が上昇すると考えられるのか?
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世界にこれまでになかった大きな不確実性の芽の出現
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不確実性の芽への懸念の高まりが(円やポンドなどの)通貨の動きを不安定にさせる
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通貨に代わる価値を持つと目される“金”に注目が集まる
離脱か残留かは、英国で6月23日(木)に実施される国民投票によってまずは英国国民の意思が固まることとなる。
- 各メディア報じられているが、英国がEUを離脱した場合、どのようなことが起きると考えられるのか?
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英国がEU時代のメリットを得られなくなる(EU域内での貿易で関税がかかるようになる等)
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英国から徐々にヒト・モノ・カネの流出が始まる(英国の信用低下)
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英国の通貨“ポンド”の価値が下落する(ポンド安の発生)
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英国が外国からモノを購入するのに不利になる(英国の購買力低下)
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英国の弱体化による欧州全体の景気悪化
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欧州とつながりの深い国・地域(米国・中国・日本・中東・ロシア・北アフリカなど)の景気悪化
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世界景気悪化懸念へ波及・・・
英国がEUを離脱すれば、現在よりも世界における不確実性が高まるものと思われる。前述の“地政学的リスク”の“急先鋒”となる可能性があるだろう
“懸念や不安の高まり”という心理的なムードは、資金の逃避先を模索する動きを助長するものと思われる。
Exit(出口)ではなく、懸念のさらなる高まりの“入口”になる可能性も
さまざまなニュースで報じられているとおり、英国のEU離脱(BREXIT)問題では、国民の総意を見る英国の国民投票が終わった後も、英国やEUの不安定な状況は続くと言われている。
EU離脱でも残留でも、BREXIT問題による不安・懸念は続くという見方である。
EU離脱となった場合でも、すぐさま離脱ということにはならず、英国が欧州理事会に離脱の意思を伝えてからEU27か国中20か国以上が承認するまで、もしくは意思を伝えてから2年が経過しなければ離脱はできないとされている。
また、離脱後の経済協定の締結に向けた交渉にも相当の時間がかかると見られる。
逆に残留となった場合でも、一旦湧き上がった離脱派の主張はすぐには収まらず、当面政局が混乱することが予想され、残留派のキャメロン首相が辞任して後継者の選出という展開になれば、上記の経済協定の締結などの交渉も後連れすることも考えられよう。
“国民投票は6月23日であり離脱か残留か決着する”という報道がなされる度に、この日が同問題のゴールのように見えるものの、投票結果が判明した後から始まる “不安・懸念”にこそ、注目していかなければならないだろう。
“EU離脱が世界経済にとってマイナスである”という英国イングランド銀行の指摘は、国民投票が世界経済の悪化への“入り口”になることを示唆しているように思われる。
そして、もともと中国の景気減速や米国の定まらない金融政策、中東情勢の不安定さなどのリスクを抱えた状況において、世界にさらに重いリスクがのしかかってくれば“資金の逃避先の模索”の動きはさらに加速することも考えられるのではないだろうか。