このレポートの要旨
- [直近のマーケット] 地政学的リスクの高まりで安全資産として意識され貴金属続伸。
- [値位置]は、金は反発、白金・とうもろこしは横ばい、ガソリンは55,000円割れ
- [トピックス] 株もFXも商品も・・・ヒントは「CFTC」にあり
1月18日(日)に行われた「新春講演会 2015」内で開催された特設ブースセミナーで、
「原油・金の原油・金の2015年を見通すためのアイディア集」をお話させていただきました。
[直近のマーケット] 地政学的リスクの高まりで安全資産として意識され貴金属続伸。
図1 2015年1月15日(木)始値と1月21日(水)終値の騰落率
値動きのポイントは以下のとおり。
- 貴金属:中東などでの地政学的リスクの高まりなどで安全資産として意識され金が上昇。銀・白金が連れ高となった。パラジウムは高値修正局面となり下落。円安方向に推移したドル円の流れを受け円建て銘柄がより強含んだ。
- 石油:続落。原油在庫増加などを嫌気して弱含む中、減速懸念がささやかれている中国のGDPが予想の範囲に収まりやや安心感が広まったことなどを受け下げ幅を縮小した。円建ての石油関連銘柄(東ガソリン・東京灯油)は円安方向に推移したドル円の流れを受けプラスサイドでの推移となった。
- 穀物:とうもろこし・大豆ともに2014-15年の需給が供給過剰になるとの見方から下落する展開に。大豆においては中国の輸出制約キャンセルも弱材料に。
- 株・通貨:中国のGDPの内容が弱い内容とならなかったことが好感されて上海株が反発。この流れを受けて日本・米国の株価もやや反発。ドル円の円安方向への推移などで日経平均がより強含んだ。
[値位置]は、金は反発、白金・とうもろこしは横ばい、ガソリンは55,000円割れ
チャートはすべて以下の条件で掲載
限月:期先(先限)
種類:日足
移動平均線:紫「9日」・緑「26日」
出所:商品先物取引ツール「Formula(フォーミュラ)」より筆者作成
図2 東京金 (単位:円/グラム)
・4,600前半から200円超、急反発。一時4,930円台へ。
・短期・中期移動平均線はともに右上がりの形状。
・価格が大きく両移動平均線を上放れ。短期線の傾きはより右上がりとなり上昇トレンドの発生を示唆するか?
図3 東京白金 (単位:円/グラム)
・一時4,930円台。およそ5ヶ月半ぶりの高値へ。
・短期・中期移動平均線はともに右上がりの形状。
図4 東京ガソリン (単位:円/キロリットル)
・前週の50,000円からの反発を起点に反発。
・価格が短期移動平均線を上抜くも、両移動平均線のともに右下がりの状況は継続。
図5 東京とうもろこし (単位:円/トン)
・前週につけた26,000円を起点に反発。
・価格は短期移動平均線を上回り、同移動平均線の傾きは横ばいに。
・中期移動平均線の傾きは引き続き右上がり。
[トピックス]株もFXも商品も・・・ヒントは「CFTC」にあり
CFTCとは、「U.S. Commodity Futures Trading Commission」の略である。(日本語では「米商品先物取引委員会」)
米国内での株価指数先物、通貨先物、商品先物などの取引を監視する権限を持ち、取引参加者の保護に努めている。
CFTCは取引所に各々の上場商品の建玉の明細を公表するように義務付けており、毎週金曜日にその週の火曜日時点の参加者別の建玉明細「Commitments of Traders」(コミットメント・オブ・トレーダーズ)を公表している。
以下は各々の上場商品の例である。
CME(シカゴ商品取引所)グループ
- CME部門:日経平均先物(いわゆるシカゴ日経平均先物)。
- IMM部門(通貨先物):日本円先物、ユーロ先物、ポンド先物、スイスフラン先物、ロシアルーブル先物など
- COMEX部門:金先物、銀先物、銅先物
- CBOT部門:米国債先物、ダウ先物、大豆先物、コーン先物など
- NYMEX部門・・・原油先物(いわゆるWTI原油先物)、プラチナ先物、パラジウム先物など
- CBOE部門・・・VIX指数先物など
ICE(インターコンチネンタル取引所)グループ
- ICE US・・・米ドル指数先物、砂糖先物、綿花先物、コーヒー先物など
- ICE Europe・・・ブレント原油先物など
その他の取引所
- カンザスシティ商品取引所
- ミネアポリス穀物取引所
- シカゴ気候先物取引所
- などで取引されている先物銘柄
Commitments of Tradersで公表される建玉情報の対象となる銘柄数(オプション含)は300超。(2015年1月17日発表時点)
毎週火曜日の取引終了時点のこれらの銘柄の建玉情報(Commitments of Traders)が、CFTCのウェブサイト上に米国時間の金曜日の午後(日本時間土曜日の早朝)に公開され、インターネットができる環境があれば誰でもその内容を見ることができる。
日経平均先物、海外先物取引、FX取引、国内商品先物、海外商品先物、国債先物などのデータが公表されており、株価指数、NYダウ、ドル円、米国債、金・原油などのさまざまな取引の参考になるものと思われる。
U.S. Commodity Futures Trading Commission ウェブサイト
画面中央やや下段の「Futures Only Reports」(オプションを含める場合はFutures-and-Options Combined Reports)の欄の任意の年の「Excel」をクリックする。
公表された建玉明細の中で最も注目するのは、「Non-Commercial(投機筋)」と分類される取引参加者の「Long(買いポジションの数量」」「Short(売りポジションの数量)」である。
エクセルファイル内の項目名は
「NonComm_Positions_Long_All」「NonComm_Positions_Short_All」である。
この2つの値で、
「NonComm_Positions_Long_All」-(マイナス)「NonComm_Positions_Short_All」
とした値(投機筋の買いポジションの数量-投機筋の売りポジションの数量)が、ネットロング(差し引きした買いポジションの数量)となる。
このネットロングの値の変化を追うことで、投機筋が対象となる銘柄へ資金をどれだけ流入させているか(あるいは引き上げているか)を知る手がかりとなり、今後の価格変動の流れを推測するのに有効であると考えられる。
基本的な考え方は以下とおり。
- 投機筋のネットロングが増加 → 投機資金流入により買いが優勢。価格が強含む。後の下落要因に。
- 投機筋のネットロングが減少 → 投機資金引き上げにより売りが優勢。価格が弱含む。後の上昇要因に。投機筋のネットロングが横ばい → 投機資金の流出入がなく、価格は横ばい。
- このような観点に基づき、以下の各銘柄の価格の推移と投機筋のネットロングの推移を見てみたい。
グラフ中の価格は以下のとおり。
- スイスフラン、ロシアルーブル、ユーロ、米ドルインデックスはスポットレート、日経平均は取引所公表価格、金、原油、銅はCME先物価格。
- 投機筋のネットロングの値は週末に公表された火曜日時点の買いポジション - 売りポジション。
- 各銘柄の値は建玉明細が公表された週の火曜日の終値。
図6 スイスフラン
スイスフラン スポット (左軸 単位:スイスフラン/ドル)
CMEスイスフラン先物 ネットロング (右軸 単位:枚)
スイスフランショック直後のネットポジションは売り越し幅が大きく減少したが、現在はショック以前の状態(-23,000枚近辺)に戻っている。
→ネットロングを見る限り、今後の価格推移にトレンドを生じさせるような状況にはない。
図7 ロシアルーブル
ロシアルーブル スポット (左軸 単位:ロシアルーブル/ドル)
CMEロシアルーブル先物 ネットロング (右軸 単位:枚)
価格の急落が始まった2014年10月以降、ネットロングは-6,000枚近辺から急激に増加し、2015年に入り半年ぶりに買い越しとなった。1月3週目時点での買い越し幅は約4,000枚となり約2年前の水準に達している。
→ネットロングを見る限り、ルーブル相場は強含み、反転していくことを示唆しているように見受けられる。
図8 ユーロ
ユーロ スポット (左軸 単位:ユーロ/ドル)
CMEユーロ先物 ネットロング (右軸 単位:枚)
価格は昨年半ば以降下落傾向。同時期よりネットロングは売り越しに転じ、価格の下落とともに売り越し幅を拡大させている。
→ネットロングを見る限り、2012年の-200,000枚超に見られるとおり、直近の最大の売り越し幅を考慮すれば売り越し幅の拡大余地があると見られ、売り越し幅の拡大・価格下落の流れは継続するものと見られる。
図9 米ドルインデックス
米ドルインデックス スポット (左軸 単位:ポイント)
CME米ドルインデックス先物 ネットロング (右軸 単位:枚)
2007年終盤以降、ネットロングは増減を繰り返しながらも、ピークの値を切り上げながら推移してきている。米ドルインデックスの値は9年ぶりの高水準。ネットロングは過去10年間で最大に達している。
→ネットロングを見る限り、大きく積み上がったネットロングは将来の買いポジションの解消(売り決済)が膨らむことを示唆するため、値位置も高いことも相まって下落することが予想される。
図10 日経平均
日経平均 (左軸 単位:円)
CME日経平均先物 ネットロング (右軸 単位:枚)
価格の水準は2007年の高値近辺であるが、2007年と異なるのはネットロングの大幅増加を伴っているという点。
→ネットロングを見る限り、価格上昇期待・買いポジションの増加の相乗効果が生まれているように思われる。ネットロングの急減に注意しながら価格は上値を追う展開となるか。
図11 金
CME金先物 (左軸 単位:ドル/トロイオンス)
CME金先物 ネットロング (右軸 単位:枚)
2013年の価格下落後、ネットロングも反発。価格も下げ止まり横ばいとなっている。
→ネットロングを見る限り、価格上昇にはもう一段のネットロングの積み上げが必要であるかのように見られるが、直近では価格が上昇していることもあり、それに伴いネットロングの積み上がりにトレンドができれば、価格上昇・ネットロング増加の流れができるものと考えられる。
図12 原油
CME原油先物 (左軸 単位:ドル/バレル)
CME原油先物 ネットロング (右軸 単位:枚)
2014年の450,000枚をピークにネットロングが大幅減少となっている。価格も急落し。ネットロング減少・価格下落の流れができている。
→ネットロングを見る限り、急激な減少となったものの現在は+250,000枚近辺で減少
が緩やかになっている。価格はリーマンショック後の安値に接近し、ネットロング・価格ともに反転が近いようにも見受けられる。
図13 銅
CME銅先物 (左軸 単位:ドル/ポンド)
CME銅先物 ネットロング (右軸 単位:枚)
原油とともに下落に注目が集まっている銅について、価格下落とともに、ネットロングの売り越し幅は拡大傾向にあり、その幅は-40,000枚に達し、直近10年間で最も大きくなっている。
→ネットロングを見る限り、売り越し幅の拡大・価格下落の長期的な流れができており、今後もその傾向は継続するものと考えられる。
上記のように、CFTC建玉明細を用いた分析は、明細としてデータが公表される銘柄であればおおむねいずれも有効であるように思われる。
投資対象の垣根を越えて、共通の手法で分析ができるCFTC建玉明細の分析は、投資家の皆様が今後ポートフォリオを多様化させていく中で役立つものであると考えている。
昨晩発表されたECBの金融緩和実施。そして今年半ばにもとささやかれる米国の金利引き上げ・・・。
我々はまた新しい局面に直面している訳だが、こうした時こそ、株・通貨・商品などの異なる投資対象を横断的に見渡すことができるツールを用意しておきたいところではなかろうか。
※レポート内で使用しているデータについて
特にことわりがない限り、国内商品先物銘柄は6番目の限月(期先)を、海外商品先物はその時点で取引量が最も多い限月(中心限月)のデータを採用。