楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均は大幅下落。節目近辺で踏みとどまれるか

2014年1月27日の株式市場は、前週以上に荒れた展開となりました。先週末にアメリカの量的緩和縮小への懸念からアルゼンチンペソなどの新興国通貨が大幅に下落したことを受けて、日経平均は大幅安となりました(24日金曜日は前日比304.33円安の15,391.56円)。1月27日の週も前週末からの円高を嫌気して大幅安で始まりました。27日月曜日は前週末比385.83円安となり、15,000円台に入りました。

その後、28日にトルコ中央銀行が通貨防衛のために政策金利である翌日物貸出金利を従来の7.75%から12%に大幅に引き上げたことから、これを好感して日経平均は大幅高となりました。29日の日経平均は前日比403.75円高となり15,300円台に戻りました。しかし、29日のアメリカFOMCでFRBは量的緩和縮小の継続を決定し、米国債などの月間買い入れ額を2月から100億ドル減らし月650億ドルとするとしました。これを受けて29日のNYダウは前日比189.77ドル安となり、30日の日経平均も前日比376.85円安、再び15,000円台に戻りました。30日のNYダウは前日比109.82ドル高と戻しましたが、31日の日経平均は前場に前日比プラスにやや戻ったものの、後場には売られています。日経平均は31日14時頃に200円以上下がって14,700円台に入った後戻し、14時36分ごろには約90円安の14,900円台にあります。

チャートを見ると、日経平均は節目である15,000円を割り込んでいます。日経平均は2013年6月からの上昇トレンドの下限(14,800~14,900円)を1月31日14時時点で割っており、もし直ぐに戻らないようなら、上昇トレンドがいったん終了して中期的な調整に入ると考えなければならなくなります。その場合、下値の目処は、200日移動平均線がある14,400円台、あるいはその下で重要な節目である14,000円ということになります。

一方で、長期の日経平均月足を見ると、大勢下降局面の上値抵抗線をいったん抜いた後で大きな揉み合いに入っていると見えます。FRBの量的緩和縮小への姿勢が少なくともバーナンキ氏については決然たるものであることから、2月1日就任予定のFRB新議長であるイエレン氏の態度を見極める必要があります。同時に、新興国通貨と経済の先行きにも注意が必要です。そのため、長期の月足で見ても、日経平均は当面14,000~15,000円のレンジで振幅の大きな上下運動をする可能性があります。

ただし、足元で続いている2014年3月期3Q決算を見ると、悪いもの、懸念すべきものがある一方で、良いもの、評価すべきものもあります。決算コメントを後に載せますが、これまで出た決算では、電子部品で日本電産、自動車で日野自動車、ゲームでコロプラ、建設機械で日立建機、小松製作所などに注目したいと思います。森(相場)を見ると、短期的、中期的には注意すべき局面だと思われますが、木(銘柄)を見ると、好業績にもかかわらず、割安になっている銘柄があります。銘柄選別をしてからの話ですが、そろそろ個別銘柄を買うことを考えてもよい時期ではないかと思われます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ4 日米金利差

都知事選にも注目したい

東京都知事選にも引き続き注意したいと思います。反原発、脱原発というテーマが都知事選でどこまで有権者に訴えることができるか、不透明な部分はあります。ただし、このテーマが東京都政で実現すれば、省エネ、太陽電池、火力発電などに関連した企業にとってはビジネスチャンスになると思われます。太陽電池では、京セラ、パナソニック、シャープ、省エネ事業では、エナリス、省電舎、ファーストエスコ、火力発電所の建設では、三菱重工業、川崎重工業、IHI、発電所の運営、LNGの調達などでは、丸紅、三菱商事、東京ガスなど、LNGプラントの建設では日揮、千代田化工建設などです。

また、各候補者とも一致しているのが、防災や高齢化対策の重要性です。例えば、防災対策として、老朽家屋と老朽雑居ビルの集積地帯を再開発して高層ビル、高層マンションを建てる動きを行政が後押しするということになれば、現在この動きを行っている大手不動産会社の事業にはプラスになるでしょう。例えば西新宿で三菱地所、住友不動産が、渋谷で東急不動産が、古い木造住宅と雑居ビルの集積地で地元地権者と再開発事業組合を作って、再開発を行おうとしています。東京には木造住宅と雑居ビルの集積地が数多くあります。都知事選の結果に注目したいと思います。

1月27日の週、2月3日の週の注目決算

1月27日の週から2014年3月期第3四半期(3Q、2013年10-12月期)決算が本格化しました。注目決算についてコメントします。

建設機械

1月28日に日立建機の決算がありました。アジア太平洋やアメリカでの売り上げが減少したこと、特にアジア太平洋地域での鉱山機械が減少したことで、3Q売上高は前年比4%増と低い伸びでしたが、日本、中国向けが伸びたこと、円安メリットがあったことから、営業利益は2.1倍となりました。日本向け、中国向けは足元も好調で、工場の稼働率はかなり高い状態にあります。会社側の通期営業利益見通しは前回予想通りの前年比61%増の830億円です。

小松製作所も3Q決算を発表しました。3Q売上高は前年比11%増、営業利益は45%増でした。中国向けが前年比93%増、中近東向けが2倍になったほか、日本、北米、欧州向けも好調でした。鉱山機械の不調を建設機械で補って増益になりました。2014年3月期通期の営業利益の会社側見通しは2,100億円(前年比0.8%減)で変更ありませんが、良い方向に向かっていると思われます。

自動車

自動車では日野自動車、ダイハツ工業が発表しました。日野自動車の3Qは売上高は前年比16%増、営業利益は2.2倍の好業績でした。円安メリットもありましたが、国内、海外での商用車販売増加が寄与しました。ただし、タイでの販売が減少に転じており、アジア市場に注意が必要になってきました。通期業績見通しは上方修正されており、これまでの営業利益1,000億円が1,100億円(前年比69%増)になる見通しです。

もっとも、国内向けでは、単価の高いダンプカーなどの特装車向け車体の伸びが大きく、景気回復に伴い小型中型大型のトラック需要も増えています。今後の日野自動車の業績は、海外に注意が必要なものの、内需が牽引する可能性があります。

ダイハツ工業は、3Q営業利益が前年比30%増と好調でした。会社側の通期営業利益見通しは1,370億円(前年比3%増)で前回予想と変更ありませんが、国内だけを見ると、軽自動車の売れ行きがよく、上方修正要因があります。一方で、新興国通貨の下落の影響や、インドネシア経済の先行き不透明感があります。

ゲーム

ゲームでは、コロプラが2014年9月期1Q決算を発表しました。売上高は前年比4倍、営業利益は5.7倍と好調でした。位置情報ゲームで有名な会社ですが、スマートフォン向けオンラインゲームの「黒猫のウィズ」「蒼の三国志」「プロ野球PRIDE」の3タイトルが好調でした。1Qの業績を受けて、会社側は2014年9月期業績見通しを上方修正しました。営業利益は当初見通しの120億円から180億円(前年比3.1倍)になる見通しです。

一方、任天堂も3Q業績を発表しました。3Q売上高は前年比12%減、営業利益は黒字でしたが前年比7%減でした。営業黒字に寄与したのは「ニンテンドー3DS」のソフトで、「ポケットモンスターX・Y」が1,161万本と好調でした。一方、「Wii U」はハードもソフトも不発でした。2014年3月期営業利益は会社側によれば350億円の赤字になる見通しです。

任天堂は1月30日に経営方針説明会を開催しましたが、会社側の説明を聞いていて、遅まきながら気づいたことがあります。それは、Wii Uの性能の低さです。システムを起動するのに20秒かかりますが、これはテレビ画面とコントローラーであるゲームパッドの画面を同時に立ち上げるのに時間がかかるためです。CPUの能力が低いのでしょう。また、既に各所で指摘されていますが、有線の高速インターネットに対応していないため、特に海外で流行しているオンライン対戦ゲームを楽しむのは難しいのです。既にソニーの「プレイステーション4(PS4)、マイクロソフトの「Xbox One」が発売されている状況では、もはやWii Uが一定の市場シェアを得る可能性は小さいと思われます。

任天堂は2015年に健康分野の事業に参入することを明らかにしました。収益化は2017年3月期になるということですが、任天堂に悠長なことを言っている余裕はありません。来期2015年3月期にはDSの市場がなくなり、Wiiのソフト市場も今期の半分以下になると思われ、2016年3月期にはWii用ソフト市場はなくなると思われます。このような旧機種のハード、ソフトは意外に利益が出ているものですが、それがこの1~2年でなくなると思われます。

また、サイクル的には、3DSのハードが2015年3月期から減少に転じる可能性があります。3DSのソフトは2015年3月期は増えるか現状維持が可能と思われますが、2016年3月期には減少し始めると思われます。Wii Uの急速な増加が期待できないとなると、このままでは、2015年3月期、2016年3月期も営業赤字の可能性があるのです。中国をはじめとする新興国市場の開拓や新規事業の成功があれば別ですが、これらは決定打にならない可能性もあります。

より重要なのは、今後2~3年でスマートフォンのゲーム機としての機能が大幅に上昇する可能性があることです。今のスマートフォンはゲーム機としてはPS2レベルで、通信回線はまだ3G(回線速度は数Mbps~14Mbps)を使っている人が多いため、今の家庭用ゲーム並みの品質のものはまだ遊べず、大容量ゲームのダウンロードにも時間がかかります。しかし、スマートフォンの性能が向上し、普及段階にあるLTE(3.9G、数Mbps~72Mbps)や、携帯電話各社が2016年から開始すると言われる4G(最大下り100Mbps以上)が普及することにより、この数年でPS3レベルの大容量の高性能ゲームがスマートフォンで楽しめるようになる可能性が高いのです。

こうなると、スマホゲームの世界で、カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングスのような老舗の家庭用ゲーム会社や、コロプラのような開発力の向上に熱心なスマホゲームの開発会社が活躍する余地が大きくなると思われます。

近い将来のゲームの世界が大きく変わると思われるときに、任天堂に求められるのは据置型、携帯型ともにゲーム機のネットワーク性能も含めた高性能化です。ちなみに、任天堂のような家庭用ゲーム機メーカーにとってハードはソフトの流通システムですから、よほど会社がぼろぼろにならない限り、専用ハードを捨てる選択肢はないと思われます。スマートフォンにシフトしたからといって、任天堂がかつての高収益を取り戻せるとは限らないのです。ソニーもマイクロソフトも自社製ハードの高性能化には注力していますが、この点では任天堂は常に遅れていると考えられます。

業績面ではかなり苦しい展開が続くと思われますが、任天堂には手元に現預金と有価証券が合わせて9,660億円あります(2013年12月末)。この資金を、これまでのような経営の失敗を続けてすりつぶしていくのか、早ければ3年後には出さなければならなく次世代機のために有効活用するのか、任天堂に残された時間はあまり多くはないように思われます。

2月3日の週のスケジュール

日本では、2月4日に1月のマネタリーベースが公表されます。

アメリカでは、3日に1月のISM製造業景況指数、4日に12月の製造業新規受注、5日に1月のISM非製造業景況指数と1月のADP雇用統計、そして7日に1月の雇用統計が公表されます。また、6日に欧州中央銀行(ECB)政策金利が公表されます。

2月3日の週はアメリカ雇用統計ウィークです。ISM製造業指数、ISM非製造業指数も公表されますので、アメリカ景気の実態がわかってくると思われます。

表1 楽天証券投資WEEKLY

グラフ5 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ6 東証各指数(2014年1月30日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

<「楽天証券投資WEEKLY」休止のお知らせ>

2012年9月7日の第1号より1年4ヶ月間発行してきた「楽天証券投資WEEKLY」ですが、本号でいったん休止させて頂くことになりました。これまでお読みいただき、まことにありがとうございました。

執筆者の今中は、企業調査レポート、セクターレポートの執筆に専念することになります。今後ともどうぞよろしくお願い致します。