楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均はアメリカ雇用統計を受け安くなった後、戻りを試す展開

2014年1月14日の株式市場も前週の流れを引き継ぎ、波乱の展開となりました。

日経平均株価は、1月10日に公表された12月のアメリカ雇用統計の数字が予想外に悪かったことを受け(12月の非農業部門被雇用者数の前月比が7万4,000人増、事前のコンセンサスは19~20万人増)、14日に前週末比489.66円安となり15,400円台に入りました。それに先立って、為替レートも円高となり、13日月曜日(日本は休日)は一時1ドル=102円台後半に入りました。14日火曜日の日経平均は、新興市場の一部が上げたのみで、ほぼ全面安となりました。

しかしその後は、12月の雇用統計の悪化は悪天候によるものが大きく、トレンドは1月の雇用統計を見るまではわからないという見方が広がったこと、2月1日に正式にアメリカFRB議長に就任するイエレン氏の政策に期待する向きも多くなったことなどから、為替レートは円安方向に戻し1ドル=104円台前半に入り、日経平均も15日に前日比386.33円高となり、15,800円台に戻しました。実際12月から1月にかけてのアメリカの悪天候は半端なものではなく、新車販売台数など重要な経済指標も悪い影響を受けています。経済のトレンドに変化があったのかどうかの見極めには時間が必要でしょう。

16、17日の日経平均は一進一退の動きが続いています。17日の日経平均は前日比12.74円安の15,734.46円で引けました。日経平均株価の日足を見ると、11~12月の上昇後の反動が出ていると言えます。また、1月13日の週からアメリカ企業の2013年10-12月期決算発表が本格化しており、日本企業の決算発表も1月20日の週から本格化します。決算の中身を確認しようとする動きも出てきそうです。

日経平均月足を見ると、これまでも指摘してきたように、現在15,600~15,700円どころにある長期下降線(長期の上値抵抗線)の上で揉み合いが始まったように見えます。チャートで見れば、大きな転換点に向き合っているわけですから、ある程度の時間をかけた揉み合い、調整は致し方ないと思われます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ3 ドル円レート:日足

グラフ4 アメリカ雇用統計

グラフ5 アメリカ雇用統計:失業率

表1 アメリカ雇用統計:非農業部門被雇用者数と前月比、失業率(季節調整済み)

日米の実質金利のトレンドを見る

先週のレポートで指摘した実質金利の動きを少し詳しく見たいと思います。先週と同様に、日米の10年国債利回りから、その時までに公表された直近の消費者物価指数前年同月比を引いたものを実質金利とします(近似します)。これをグラフ化したものが、グラフ6~8です。日本の実質金利の動き(グラフ6)を見ると、日銀の大幅金融緩和によって長期金利(10年国債利回り、名目金利)が低位にあるため、物価水準の上昇(全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)前年比の上昇)に伴い、実質金利が低下し、マイナス金利になっていることが分ります。さらにもう一段の金融緩和があれば、円安ドル高によって物価水準が上昇し、実質金利の更なる低下がありうると思われます。

一方、アメリカのそれを見ると、アメリカの景気回復に伴い長期金利(名目金利)が上昇し、物価水準の伸びは低下傾向にあるため、アメリカの実質金利はプラスで上昇トレンドでした。ただし、消費者物価指数前年比が11月1.24%増から12月1.50%増に上昇したため、直近のアメリカの実質金利は低下しています。実質金利で日米金利差を計ると、円高の方向に行っています。

もっとも、日本の実質金利にはなお低下余地があること、アメリカの実質金利低下はアメリカ景気にとっては良いことであることを考えると、基調としては、お金の流れは日本からアメリカに向かい、為替レートが円安ドル高の方向に進むという考え方を変える必要はないように思われます。

また、日本の実質金利がマイナス金利で日銀次第ではそのマイナス幅が拡大する可能性があることは、地価、株価を趨勢として強い方向に支援するといってよいと思われます。

グラフ6 日本の実質金利(試算)

グラフ7 アメリカの実質金利(試算)

グラフ8 日米実質金利差(試算)

東京都知事選挙の株式市場に対する影響

当面の株式市場の不透明要因は、東京都知事選挙かも知れません。東京都知事選挙(1月23日告示、2月9日投開票)が安倍政権や経済に与える影響を懸念する向きがあるようです。

候補者の一人である細川元首相は「反原発」を旗印に掲げており、小泉元首相が支援を表明しています。もし細川都知事が実現すると、原発再稼動を進める安倍政権にとって重大な障害になるという見方があります。もっとも、他のほとんどの候補者は、細川氏と並ぶ有力候補である舛添元厚生労働相も含めて「反原発」あるいは「脱原発」です。東京都知事になったときに、具体的な政策として何を行うのかという違いはあると思われますが、実は「反原発」「脱原発」の主張は、今の政治にとって珍しいものではないのです。逆に原発再稼動を進めようとする安倍政権のエネルギー政策に違和感を感じる人たちは少なくないと思われます。

また、「反原発」、「脱原発」を具体的に政策として実行する時には、原子力発電以外の火力発電、再生エネルギー(太陽光発電、風力発電、地熱発電など)、省エネルギーなど関連分野への投資が必要になります。このうち再生エネルギーは、エネルギー密度が低く(取れるエネルギーの量が少なく)、本格的な電源としてはまだまだ力不足です。そこで細川都知事が実現して、彼が合理的な政策を行うならば、火力発電への投資が大きくなる可能性があります。細川氏が自分の政策を表明するに至っていないため、具体的な政策は不明ですが、合理的に「反原発」「脱原発」の政策を進めるならば、火力発電、再生エネルギー、省エネルギーへの各分野の民間投資が活発になる、特に火力発電への投資が活発になる可能性があります。

そして、火力発電への投資が活発になれば、油田、ガス田、石炭の炭鉱への投資、LNG設備、輸送船(LNGタンカー、石炭輸送船)、LNG受入れ基地、火力発電所(発電機、ガスタービン)、二酸化炭素吸着装置の開発などの各分野への重層的な投資が始まる可能性があります。

例えば、LNGチェーン(ガス井から液化設備、輸送船、受入れ基地、火力発電所までのサプライチェーン)は1本で1兆数千億円かかると言われています。日本が本格的に、「反原発」、「脱原発」に踏み切るならば、民間ベースで大きな投資が引き起こされる可能性が高いのです。

「省エネルギー」「再生エネルギー」「火力発電所」「LNG、石炭」の関連企業

  • 太陽電池:シャープ、京セラ、パナソニック
  • 太陽光発電施工:ウエストホールディングスなど
  • 風力発電:三菱重工業、日本風力開発など
  • 電力流通、省エネ支援:エナリス、ファーストエスコ、省電舎
  • 火力発電の発電機:日立製作所、東芝、三菱電機、富士電機
  • 火力発電のガスタービン:三菱重工業、日立製作所、川崎重工業
  • LNGプラント:日揮、千代田化工建設
  • LNGプラントの部品等:横河電機、帝国電機製作所、日機装など
  • LNGタンカー:三菱重工業、川崎重工業、IHI、三井造船
  • 天然ガス、石炭事業:三菱商事、三井物産、丸紅、JXホールディングス、国際石油開発帝石など
  • 発電所運営:丸紅など
  • 二酸化炭素吸着技術の開発:三菱重工業、東芝など

ただし、細川氏の政策には不透明な部分もあります。それはオリンピックに対する態度です。細川氏が2020年東京オリンピック、パラリンピックの開催に反対であるとしても、開催は日本が国際的に受け入れたものです。今更止めることができるものではありません。2020年東京五輪は、東京における地価上昇の重要な要素にもなっており、もしこの点で混乱が起こると、地価、株価に悪い影響が出る可能性もあります。

もっとも、2020年東京五輪を止めようと主張したり、コンセンサスもなく大きく変更しようとする候補がすんなりと当選するとは限りません。この点は細川氏の政策発表を待つしかありませんが、東京都知事選挙に伴う一種の「モヤモヤ感」が相場がもたついている一つの要因かも知れません。

1月17日以降のスケジュール

日本では、21~22日に日銀金融政策決定会合があります。上述したように、日銀の大型金融緩和が低金利を引き起こし、物価上昇に伴ってマイナス金利となり、地価、株価の上昇を支援する形になっています。当面の政策に大きな変更はないと思われますが、追加緩和を期待する向きも多いため、注目したいと思います。

アメリカは1月23日に12月の中古住宅販売件数が公表されます。

表2 楽天証券投資WEEKLY

グラフ9 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ9 東証各指数(2014年1月16日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化