楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

アメリカのチキンレースに妥協に向けた動きが見え始めた

2013年10月7日の週の株式市場は、7日月曜日は前週の軟調な展開を引継ぎ下落しましたが、その後8日火曜日からはアメリカの一部政府機関の閉鎖問題と、債務上限問題の解決に向けた動きが出てくるという期待から反発しました。一方、ニューヨークダウは先週末4日から週明け8日まで続落した後、9日から反発しました。アメリカ財務省が設定した債務上限問題の妥結期限である10月17日を過ぎても、アメリカ政府の手持ち現金300億ドルが10月31日までもつと言われているため、遅くとも今月末までにはオバマ大統領と共和党との妥結が成立するだろうという期待があります。まさかデフォルトはあるまいと言う見方です。

実際、10月3-6日に実施されたギャラップ世論調査によれば、共和党の支持率は9月の38%から急落し、10月は28%になりました。これに対して民主党は、47%から43%に下落しただけでした。今回の一部政府機関の閉鎖と債務上限問題は、共和党内で「オバマケア」に反対する急進派、特にティーパーティ(茶会党)の支持を受けた議員たちによって引き起こされたものといってよいと思われます。これに対しオバマ大統領は「オバマケア」の見直しは一切拒否しています。そして、世論は共和党を相当批判的に見ているということがこの世論調査から見えてきたのです。

このような情勢から、妥協への方向性(例えば共和党が提案している期限付き債務上限拡大など)が見出せるのではないかという期待が出てきたため、10月10日のNYダウは、前日比323.09ドル高の15,126.07ドルとなり、節目となる15,000ドルを回復しました。これを受けて11日の日経平均も大幅続伸し、終値は前日比210.03円高の14,404.74円となりました。

チャートを見ると、日経平均は三角保合いの下限に接近した後、再び上限を目指した運動を始めているようです。すでにアメリカ企業の7-9月期決算発表が始まっており、日本企業も21日の週から決算発表が本格化します。債務上限問題が一段落すると業績を探る動きが本格化すると思われます。もちろん、アメリカで妥協が成立せず、政府施設閉鎖が長期化し、債務不履行に突き進むリスクが全くないとは言えませんが、その場合共和党は民主党以上に国民の支持を失うことになりかねないでしょう。

アメリカでは次期FRB議長に現在副議長のイエレン氏が指名されました。来年2月から4年の任期です。穏健な金融緩和論者と言われており、早期の金融緩和縮小には反対の立場をとっています。これによってアメリカの金融緩和と低金利が長期化し、日本の金利も低下し、あるいは低金利が長期化し、アメリカの景気回復による金利の緩やかな上昇によって、日米金利差が再び拡大し、円安に向かうという期待が生まれる可能性があります。円安は自動車株のような輸出関連だけでなく、相場全体に対するプラスの影響が大きいことは我々がこれまで経験してきたとおりです。

日経平均の三角保合いの上限は現在14,900円前後にありますが、これを抜けて15,000円台をうかがう動きも予想されます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 ドル円レート:日足

グラフ3 日米金利差

重要なデータが出ている。中国の新車販売、東京のオフィスビル空室率、機械受注

いくつか重要なデータが発表されたので紹介します。

1.中国の新車販売

中国の新車販売で、日本車の回復傾向が明らかになってきました。表1のように、昨年9月の中国における反日デモ以降、中国では日本車販売が低迷してきました。それが今年に入って前年比のマイナス幅が縮小し始め、9月にはプラス転換しました。ちなみに、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車の3社については、2011年9月と比較しても増加しています。反日の動きが簡単になくなるとは思えませんが、とりあえず大幅減少が続く局面からは脱することができたと思われます。また、表1からは販売台数は少ないながらも三菱自動車工業の伸びが注目されます。小型SUVが売れています。

2.東京都下のオフィス空室率が下落

東京都下の5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のオフィス空室率、オフィス賃料のトレンドを見たものが下のグラフです。9月分が発表されましたが、全体の空室率と既存ビルの空室率が継続的に低下しています。新築ビルは上昇していますが、これはテナントが埋まらないまま竣工した新築ビルがあるためで一時的なものと思われます。オフィス賃料の動きを見ると、平均、既存ビルはまだ緩やかな下降局面にありますが、新築ビルは波がありながらも上昇局面に入っているようです。BCP(事業継続計画)の観点から大災害が起きても事業が継続できる新築ビルへの需要が強く、一方で新築ビルの供給が少なくなっています。三菱地所は新築ビルの募集賃料を昨年比約10%引き上げ、既存ビル賃料を約5%引き上げる交渉に入っており、浸透しつつあります。三井不動産、住友不動産がこれを追う形です。

オフィス賃料上昇は今後も続くと思われ、三菱地所、三井不動産、住友不動産の大手から、東急不動産などの準大手クラスの業績に対して、中長期的にプラスに寄与すると思われます。

グラフ4 東京ビジネス地区のオフィスビル空室率

グラフ5 東京ビジネス地区のオフィス賃料

グラフ6 東京ビジネス地区のオフィスビル空室面積

3.機械受注

機械受注統計によれば、8月の機械受注(原系列)は、前年比25.9%増と大きな伸びを示しました。外需、官公需、民需のいずれもが増加しています。企業業績の好転や円安、金融緩和が設備投資に寄与し始めてきたようです。

表3 楽天証券投資WEEKLY

グラフ7 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ8 東証各指数(10月10日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

グラフ9 輸出・グローバル関連:10月10日までの株価を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

グラフ10 内需関連(10月10日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)

グラフ11 金融関連(10月10日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)

グラフ12 素材、情報通信(10月10日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)