フランス大統領選挙の決選投票も事前の予想通りマクロン氏の勝利となりました。昨年の英国国民投票や米大統領選挙のように予想外の結果に相場が大荒れすることなく、マクロン氏勝利の予想でユーロが買われ、結果が予想通りとなった後は利食いによって売られました。「噂で買って、事実で売る("Buy the rumors .Sell the fact")」と相場格言通りの展開となりました。(参考「為替相場に役立つ相場格言」2017年3月15日付

これまでの円高要因であった欧州政治リスクが軽減され、もうひとつの円高要因である朝鮮半島の地政学リスクも緊張状態の中で安定しているという奇妙な状態となっています。5月は、北朝鮮は田植えのため学生から軍人まで総動員し、田植え戦闘と呼ばれる「農村支援戦闘期間」に入るそうです。そのため対外的な戦闘態勢も小休止となり、宣伝戦争のみとなれば、円高要因としてはますます後退するかもしれません。このように4月にマーケットを動かしてきた政治リスクが後退すれば、今後、マーケットが注目するのは金融・経済要因ということになりそうです。とりわけ米国の金融政策がマーケットを動かす主要因となります。FRBは金融政策の目標を物価と失業率に置いていますが、その前提となるのが景気動向です。従って金融政策を見る上でも、今後、経済成長がどのような展開になるのかを注目しておく必要があります。日欧の経済成長と合わせてみてみます。直近の日米欧の経済成長率実績と中央銀行の2017年見通しは以下の通りです。

GDP(%) 16/10-12 17/1-3 中央銀行の2017年見通し
日 本 +1.2 +1.6 (日銀)
米 国 +2.1 +0.7 +2.1 (FRB)
欧 州 1.9(0.5) +1.8(0.5) +1.8 (ECB)

※GDPは実質年率、欧州( )は前期比

日本の直近の成長率は2016年10-12月期の+1.2%となります。同じ期間の欧米と比べると一番低い成長となっていますが、5月18日発表予定の2017年1-3月期GDPの民間シンクタンク11社の予測では平均+1.9%と欧米並みの成長予測となっています。4月の日銀の展望レポートでは、2017年の見通しは上方修正して+1.6%となっていますが、それよりも高い予測です。黒田日銀総裁も4月27日の金融政策決定会合で、景気判断を「緩やかな回復基調を続けている」から、「緩やかな拡大に転じつつある」へと上方修正しました。「拡大」という表現を使うのはリーマンショック前の2008年3月以来、9年振りだそうです。また1-3月期がプラス成長となれば、11年振りの5四半期連続の成長となります。成長が加速するという感じではないですが、まさに「緩やかな」拡大に転じつつある局面のようです。

一方、展望レポートの2017年度物価見通しは前回から下方修正して+1.4%となっていますが、直近の3月CPIは前年比+0.2%と相変わらず目標の2%にはほど遠く、金融緩和政策を継続せざるを得ない環境は続きそうです。以下の表は4月27日公表の日銀の展望レポートです。GDPと物価の見通しを過去の見通しも含めて時系列にまとめましたので参考にして下さい。

展望レポート

GDP見通し(中央値、対前年度比、%)

見通し時点 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度
2016/4 +1.2 +0.1 +1.0
2016/7 +1.0 +1.3 +0.9
2016/11 +1.0 +1.3 +0.9
2017/1 +1.4 +1.5 +1.1
2017/4 +1.4 +1.6 +1.3 +0.7

消費者物価指数(除く生鮮食品)見通し(中央値、対前年度比、%)

見通し時点 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度
2016/4 +0.5 +1.7 ※ +1.9
2016/7 +0.1 +1.7 +1.9
2016/11 -0.1 +1.5 +1.7
2017/1 -0.2 +1.5 +1.7
2017/4 -0.3 +1.4 +1.7 ※+1.9

※消費税引き上げの影響を除く消費者物価指数

米国の直近の成長率は2017年1-3月期の+0.7%となります。これまでの2四半期は2%を超える成長でしたが、ガクッと減速しました。昨年の同時期も1%を割れる成長だったことから季節要因との見方がありますが、米国の景気を支える個人消費の動向を示す小売売上高が3月、4月と減速しているのは気になるところです。一方で、アトランタ連銀がリアルタイムで公表するGDPナウでは4-6月期のGDPは+4.3%と急回復の予測を出しています。もし、実現すればFRBの利上げペースは早まりそうです。但し、このGDPナウの数字はアトランタ連銀が注目する経済指標が公表されるたびに変わるので注意が必要です。

また物価は、3月のCPIがマイナス0.3%となっています。ガソリン価格の低下が影響したようですが、原油価格が最近では50ドルを割れて低下傾向にあるため、原油が50ドル台に戻らない局面が続けば、米国の物価は上がらず、米利上げペースが遅れる可能性も出てきます。以下はFOMCでのGDP見通しを時系列にまとめたものですが、2%成長の見方は変わらないようです。

FOMC参加者によるGDP見通し(10‐12月期の前年同期比伸び率)

見通し時点 2017年 2018年 2019年 長期予想
2016/3 2.1% 2.0% n.a. 2.0%
2016/6 2.0% 2.0% n.a. 2.0%
2016/9 2.0% 2.0% 1.8% 1.8%
2016/12 2.1% 2.0% 1.9% 1.8%
2017/3 2.1% 2.05% 1.9%. 1.9%

ユーロ圏の直近の成長率は2017年1-3月期の+1.8%となります。前四半期より減速しましたが、ECBのスタッフによる2017年の経済見通しと同じ成長となっています。ユーロ圏は、オランダ、フランスと政治要因による社会の動揺が懸念されていましたが、今のところはそのリスクが軽減されているため、安定した成長で進む可能性が出てきました。ユーロ圏の成長率は、2013年4-6月期以降、16四半期(4年間)連続のプラス成長となっています。

また、4月のユーロ圏の消費者物価指数は前年同月比で+1.9%となっています。ECBスタッフ見通しよりも高く、ECBが目標とする「2%未満で、その近辺」に達しました。この水準の物価動向が続けば、金融緩和の出口議論は活発化してくることが予想され、近いうちのECB理事会で緩和解除に向けた文言が出て来るかもしれません。但し、原油の50ドル割れが続けば、出口議論は静まるかもしれませんので、ECBの金融政策についても原油動向からは目が離せません。以下は、ECBスタッフによるユーロ圏経済見通しを時系列にまとめた表です。

ECB発表の「スタッフ見通し」によるユーロ圏経済見通し

発表年月 GDP成長率予想(%) インフレ率予想(%)
2017 2018 2019 2017 2018 2019
2016/3 1.7 1.8 1.3 1.6
2016/6 1.7 1.7 1.3 1.6
2016/9 1.6 1.6 1.2 1.6
2016/12 1.7 1.6 1.6 1.3 1.5 1.7
2017/3 1.8 1.7 1.6 1.7 1.6 1.7

以上のように日米欧の成長をみてみると安定成長が続きそうですが、米国だけが一時的な減速なのかどうか気になるところです。また、金融政策をみてみると、米国が利上げ、欧州が出口政策を模索し始めている状況の中、日本は金融緩和継続と真反対の政策となっています。理屈では、ドル高・ユーロ高vs円安となりますが、この環境の結果が現在のドル円の水準ですので、更に円安が進むためには米国の利上げペースが早まるなど新たな環境変化が必要となります。逆に利上げペースが遅くなるような経済環境になると相場は逆に動く可能性が高まります。このような環境変化は個々の経済指標によって変わってきますので、景気や物価の方向性を示す重要な経済指標については常に注目しておく必要があります。また物価は原油価格によっても大きく左右されるので、原油動向にも留意しておく必要があります。原油は、需要面では景気に左右され、供給面ではOPECなど産油国の駆け引きに左右されます。今後、政治リスクが後退してくると、これらの要因への注目度合いが高まってきそうです。