相場格言というものがあります。米相場の時代から言い伝えられて来た投資の本質を表すものとして現在でも役に立つものが多いです。先達の相場経験から得られた失敗や成功の教訓が凝縮された格言です。おもに株式市場の中で使われていましたが、為替相場が管理相場から変動相場になってからは為替市場でもよく使われるようになりました。欧米で使われていた相場格言も含め、為替相場を長年みてきた中で役立ちそうなものをいくつかみてみます。相場観が人さまざまであるように、相場格言の教えやそこから得るヒントも人さまざまだと思いますが、自分に合ったものを探してみて下さい。
" Buy the rumor,Sell the fact ". 「噂で買って、事実で売る」
まずは、もっともよく耳にされるが、"Buy the rumors .Sell the fact". (「噂で買って、事実で売る」)です。事実が出てからの行動ではマーケットでは遅いということを示唆しています。
例えば、先週の米雇用統計では非農業部門雇用者数が予想より多い23.5万人と発表されました。一瞬ドル高となりましたが、その後はドル安・円高となりました。賃金の伸びが予想よりも低かったということもありますが、それよりも、2日前に発表されたADP全国雇用者数の強い数字を受けて、雇用統計もよい数字が出るのではないかとの思惑から事前にドル買いした投資家が利食いのドル売りをしたことが背景にあるようです。つまり、期待(噂)によってドルが買われ、その通りの強い数字が出ると、その事実が出たことを契機に既に買っていたドルを売ったということになります。
このように投資家は事前に行動する習性があるため、相場も事前に動きやすいということになります。そして事実が出ると、その事実に従うのではなく、もう既に行動を起こしているので撤退ということになります。「強い数字が出たのに、なぜ、円安に動かないのだ」と思う時は、こういうことが背景にあるのだなと考えるとわかりやすいかもしれません。今回のFOMCも利上げは9割以上織り込み済みですので、利上げ決定となってもその要因だけでは一段のドル高は難しいかもしれません。利上げペースが早まるなどの期待よりもよっぽど強い要因が発生すれば、新たなドル買いが増え、ドル高が進むかもしれませんが、そうでなければ、利食い優先となるかもしれません。
"Buy the rumors .Sell the fact".の格言通りに動いた事例をもうひとつ紹介します。1980年代のレーガン大統領の時によく流れたのですが、「レーガン大統領、心臓発作(heart attack)」という噂がニュースとして流れると、ヘッドラインだけでドルが売られました。数分後にホワイトハウスの報道官が「そういう事実はない」と発言すると、ドルは即座に買い戻されました。格言の売買とは反対の動きですが、噂でドルは売られ、事実でドルが買い戻されるようなことがレーガン大統領の時には何回と起こった記憶があります。その後の大統領の時代にはあまり耳にしなくなりました。
" the trend is your friend ".
trendとfriendが韻を踏んでいることからよく口ずさみました。相場の流れ(トレンド)を友達にする、つまり、相場の流れに乗るということになります。トレンドは友達だから逆らうな、流れに逆らうなということになります。なかなか最初は友達になれず、用心しながら付き合い始めるのですが、友達になればこんなに心強い友人はいません。第二次安倍政権が誕生し、アベノミクスによって円安に動いた2013年、2014年の局面、トランプ氏勝利によって政権への期待から円安に動いた昨年11月から今年1月の局面は、まさにtrendをfriendにしたい局面でした。友達になれるようなトレンドを1年の中で何回か見つけることが相場を追いかける意味かもしれません。
「もうはまだなり まだはもうなり」
「もうはまだなり まだはもうなり」この格言も、相場を追いかける時によく口ずさむ格言です。もう天井かと思い、利食いをしようと思った時に、まだ天井ではないのではないかと立ち止まって考えてみます。まだどんどん上がるのではないかと強気になった時に、もうそろそろではないかと戒める意味で今一度考えてみます。自分の判断は間違っていないか、自分をちょっと離れて考える癖をつけるために非常に役に立つ格言です。
先程のトレンドを友達にした時には、この「もうはまだなり まだはもうなり」との格闘となります。例えば、ドル高・円安のトレンドに乗ったとしても、利食いを考える際に、「もうそろそろ利食いではないか」「いや、まだまだ上がるのではないか」と心の葛藤を繰り返します。強気になり過ぎて「まだ円安に行くぞ」と思うと同時に、「もうそろそろではないか」と葛藤します。この葛藤を解決するのは、トレンドを変更さす要因に気付く必要があります。例えば、トランプ相場では、予算の壁をどう解決するのか、政策のタイミングと規模はどうなるのかを注意深く見ておく必要があります。FRBの利上げペースを考える際には、雇用時計の賃金の伸びが鈍いことや原油の50ドル割れは利上げペースに影響してくるのではないかと考えておく必要があります。
こういう経験があります。1995年に1ドル80円を割れた時に、この水準はおかしいという話を周りにしていました。マーケットの雰囲気はまだまだドル円は円高に行くという勢いでした。90円を割れてからの円高スピードが速かったからです。「90円割れでもういいだろう。いや、まだ80円、70円と円高に行くのではないか」との葛藤を、100円を割れてから繰り返していましたが、80円でもう十分との結論に達しました。それは、90円を割れてから、当時の日米の物価水準を比較すると、米国の商品が圧倒的に安かったからです。また、1ドル=80円で当時の日米のGDPが同じ規模になったからです。人口も国土も数倍の違いがあるのに、為替が動いたことで同じになるのはどちらかが間違っていると思いました。人口や国土は現実に存在しているので、政治や経済の思惑で動いている為替相場がおかしい、行き過ぎていると結論付けたのでした。ドル円相場は797.5円で反転し。100円に向かって戻っていきました。同じようなことはユーロが90円になった時にも感じました。このように心理的葛藤を和らげてくれるには別の観点からの見方が助けとなってくれます。
相場格言は、このほかにもたくさんあります。その中で為替相場にも役立つもの、あるいは自分の行動パターンにピンとくる格言などを探してみて下さい。一生の付き合いになるような格言に出会うかもしれません。