楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

2013年2月12日の週の株式市場は、週前半からやや調整含みの相場展開となり、週後半に調整色の強い展開となりました。

為替レートは、円/ドルレートが2月11日に1ドル=94.450円を付け、2010年5月以来の円安水準に入りました。円/ユーロレートも2月6日に1ユーロ=127.684円をつけ10年4月以来の安値になりました。しかし、その後はじりじりと円高方向に向かう展開となりました。日銀総裁候補の為替発言や総裁候補の金融政策に対する考え方に為替相場が左右されている面があると思われます。

円高傾向になるにつれ、日経平均は調整含みの展開となりました。日経平均は2月6日ザラ場11,498.42円をつけたあと下落基調となり、12日の週に入りました。12日の週の日経平均は日によっては上昇する局面もありましたが、2月15日には下落し、同日後場には前日比200円以上下げ11,100円台に入りました。ただし、引けにかけて戻し、15日は133.45円安の11,173.83円で引けました。

15日の相場をセクター別に見ると、値上げ申請が相次ぎ、原発再稼動の思惑がある電力を除くほぼ全業種が下げています。

先週も指摘したように、日経平均は規模、期間の大小は別として、一旦調整に入る可能性があります。こう考える理由は次の3つです。

1.日経平均は昨年11月13日のザラ場8,619.45円を底として、2月6日のザラ場11,498.42円まで、33%上昇しました。1月に10,500~11,000円のレンジでの小幅調整あっただけで、ほぼ一本調子で上げてきました。従って、いつテクニカルな自律的調整が起きてもおかしくない状況だと思われます。

2.日本にある企業は円安で潤う輸出系企業ばかりではありません。むしろ、企業数でも売上高の規模でも、内需系企業のほうが多いのです。先週の本稿で取り上げた為替感応度の表を見ると、円安メリットが企業業績を大きく押し上げる会社は一握りであり、輸出企業の中でも限られていることがわかります。

内需系企業が海外から直接原材料を仕入れている場合は、既に輸入コストが急速に上昇しています。円ドルレートは2012年11月上旬の79円台から2月の94円台まで約19%安くなっています。つまり、輸入コストは原材料価格が不変として約19%上昇していることになります。高級ブランドなどの利ざやが大きい輸入商品であれば、商品によっては、卸売価格、小売価格を値上げしない選択肢もあると思われますが、普通の食料品、衣料品などでは、値上げの動きが今後広がると思われます。これが日本経済に与える影響を見極める必要があります。

また、更なる円安があった場合、例えば、1ドル=95~100円を超えるような円安が起きた場合、輸入物価上昇が全般的な物価上昇を引き起こし、物価上昇率が遠くない時期に政府目標の2%を超えることが起こりうるかもしれません。そうなると、長期金利の上昇、国債価格下落、日本の財政難の表面化と続き、これが更なる円安投機と日本国債の売り投機を引き起こしかねないと思われます。これらの円安リスクを、すこし時間をかけて株式市場の中で消化する必要があるかもしれません。

安倍内閣は、いわゆる「アベノミクス」がどういうものなのか、円安がデフレ脱却に結びつくメカニズムとリスク、特に輸入物価の上昇が国民生活と個人消費に与える影響、実質賃金が低下する可能性とその影響、物価上昇率がプラス転換した場合、名目金利が上昇して国債利回りが上昇したときに、日本が財政難ないし財政危機に陥る可能性など、世間で言われているアベノミクスのリスクについて、何も説明していません。アベノミクスの中味についても株式市場の中で検討が必要になっていると思われます。

3.日本政府の円安政策に対する海外の反応も気になります。日本政府は円安政策をしているのではないとしています。しかし、一部の内閣参与や日銀総裁候補、あるいは閣僚までが、為替レートや株価に関して、根拠不明の相場見通しあるいは目標を述べています。この状況では、通貨安政策を志向していると受け取られても仕方がないのではないでしょうか。特に1ドル=90円台に入る辺りから、ドイツの首相が円安批判を行い、アメリカの自動車産業がクレームをつけてきました。2月15、16日のG20で円安についてどのような意見が出されるかが注目されます。

ちなみに、直近の失業率を見ると、日本4.2%、アメリカ7.8%、EU 10.7%です(いずれも2012年12月)。EUの中でも、ドイツは5.5%ですが、フランスは9.9%、スペインは26%(2012年10-12月期)です。私見ですが、ドイツやフランスの指導者は、失業率が自国より低い国の通貨安政策を、いかにデフレ脱却のためでも、認めるつもりはないと思います。通貨の問題は、国際経済の問題だけでなく、国際政治の問題であり、こじれると怖い問題です。そろそろ、円安のこのような側面にも注意が必要と思われます。

ただし、個別企業の業績を見ると、輸出株の中でも、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、デンソー、アイシン精機など、自動車セクターの多くの企業や、電機の一部、例えばソニー、村田製作所、機械の一部、例えば小松製作所などは、今の90円台前半の水準の円安が続けば、来期(2014年3月期)は大幅増益になると思われます。このような円安メリットの大きい銘柄群については、為替レートが1ドル=90円前後でとどまるならば、株価の調整も比較的軽く済み、再度株価上昇トレンドに戻る可能性があると思われます。

一方で、建設株のような内需系は、3Q決算で資材費、人件費という利益減少要因が目立っています。今後は、円安になるに連れて、資材価格上昇のようなコストアップ要因が目立つ可能性があります。相場の方向性は、内需系よりも輸出系であろうという筆者の意見は、現時点では変えなくてよいと思われます。

表1:楽天証券投資WEEKLY

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価

マーケットスケジュール

2013年2月18日の週のマーケットスケジュールを概観します。

まず、2月15、16日にG20が開催されます。

日本では19日に1月21、22日分の日銀金融政策決定会合の要旨が公表されます。20日は1月の貿易統計が公表されます。

アメリカでは、19、20日にFOMCが開催されます。20日には、1月の生産者物価指数、住宅着工件数、建設許可件数、21日には、1月の消費者物価指数、中古住宅販売指数、2月のフィラデルフィア連銀景況指数などが公表されます。

日本にとっては、G20で円安批判がどうなるかが注目点です。アメリカでは、物価と住宅関連データが注目されます。

なお、18日は大統領記念日でNY市場は休場となります