楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均株価は、前週末から9月13日木曜日まで123.5円上昇しました。9月6日の欧州中央銀行(ECB)理事会で、償還期限1~3年の南欧国債を無制限に購入する枠組みで大筋合意したと報じられたことが転機となりました。13日には8月30日以来、一時9,000円台に入りました。

また、13日のアメリカFOMCでは、住宅ローン担保証券の購入によるQE3(量的緩和第3弾)の実施が決定されました。これを受けて、13日のNYダウは前日比206.51ドル高の13539.86ドルで引けました。2007年10月の高値14,000ドル台を捉えるところまで来ました。アップルが高値を更新したほか、主要銘柄がほぼ全面高となりました。
これを受けて14日の東京市場も高く始まっており、8月28日以来の9100円となっています。

楽天証券の売買代金上位銘柄を見ると、アメリカでSNS関連株のフェイスブックやジンガが再評価されて株価が上昇してきたことを受けて、ディー・エヌ・エー、グリーが上昇しています。また、13日引け後にWii Uの発売日と価格が発表されたため、任天堂が上昇しています。12日にアップルが「iPhone5」を9月21日に主要国で発売すると発表したため、村田製作所、京セラ、TDKなど大手電子部品株が上昇しています。

信用取引評価損益率を見ると、三市場評価損は9月7日申込み分でマイナス17.85%(前週比1.84%ポイント改善)と、依然大きな評価損になっていますが、前週末比では改善しています。一方、楽天証券のそれは、マイナス15.31%(同2.15%ポイント悪化)と悪化しました。買い残は増加傾向にありましたが、7日は減少しました。今後の展開が注目されます。

チャートを見ると、日経平均は200日移動平均線を抜いてきました。もう一段高が期待されます。もっとも、欧州リスク以外にも中国リスクが株式市場に台頭しています。中国の景気鈍化によって鉄鉱石価格が下げ止まらず、これが中小鉱山が多いインドネシアの鉱山機械需要を鈍化させています。この動きがオセアニア、南米などの資源国に結び付き、鉱山の人員削減も始まったようです。引き続き先行きには注意が必要です。

ただし、QE3、iPhone5、Wii Uなどの新製品発売、堅調な自動車販売、経産省の火力発電所促進策(9月14日付け日経1面)など、買い材料も継続的にして出ています。銘柄を見つけて買いたい市場になってきたと思います。

表1:マーケット指標

グラフ1

グラフ2 楽天証券の信用取引評価損益率と信用買い残(単位:%、円、出所:楽天証券)

グラフ3 鉄鉱石市況 (単位:USセント/トン、出所:IMF、1980~1996年は年平均、1997年以降は月平均)

マーケットスケジュール

9月17日の週のマーケットスケジュール予定を見ます。17日の週はアメリカ景気を占うデータが数多く発表されます。まず17日に8月のニューヨーク連銀製造業景気指数、19日にアメリカ住宅着工件数、同建設許可件数、同中古住宅販売件数、20日にフィラデルフィア連銀景況指数、アメリカ景気先行指数、同週間新規失業保険申請件数です。

また日本では、18~19日に日銀金融政策決定会合が開催されます。QE3決定後の金融政策が注目されます。

セクター情報、企業情報

今週のトピックスは、まず、ゲームに関するものです。

9月13日引け後、任天堂は据置型ゲーム機「Wii」の後継機「Wii U」を日本で12月8日に発売すると発表しました。アメリカでは11月18日に発売されます。タイプは、内臓メモリー容量32GBの「プレミアムセット」31,500円(税込)と同8GBの「ベーシックセット」26,250円(同)の2タイプ。アメリカでは299.99ドルと349.99ドルです。

ハードと同日発売のソフトは、「NewスーパーマリオブラザーズU」5,985円(税込)と「Nintendo Land」4,935円(同)の2作です。
Wii Uハードの価格は、予想の範囲の上限です。これ以上の価格帯では売れないでしょうが、さりとて安いわけではありません。特にアメリカでは少し高いと感じる消費者が多いかもしれません。日米欧の景況を考えると、大きなブームを起こすには、相当魅力あるソフトのラインナップが必要でしょう。「マリオ」だけでは、力不足になるかもしれません。

また、グラフ3,4を見るとわかりますが、ファミコン以降のゲームの転換期は2世代ごとにやってきています。1世代ごとに大きな変化を期待するのは酷かもしれません。また、今回任天堂は重大なミスを犯しました。それは、日本のサードパーティの力を見誤ったことです。

グラフ4 家庭用ゲームの世代交代サイクル:据置型ハードウェア
(単位:万台、出所:各種資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ5 家庭用ゲームの世代交代サイクル:据置型ソフトウェア
(単位:万本、出所:各種資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

日本のソフト専業会社、スクウェア・エニックス・ホールディングス、コナミ、バンダイナムコホールディングスなどの家庭用ゲーム事業は、世界市場で競争する力が低下していると思われます。彼らが開発投資を怠ってきた間に、世界はずっと先に行ってしまいました。また、日本のゲーム会社はディー・エヌ・エー、グリーなどの日本型ソーシャルゲームに注力していますが、それが世界に普及するにはハードルが高いと思われます。

一方で、海外の大手メーカーではアクティビジョン・ブリザードのように身売り話が出ている会社が出ており、これまでのように大きな資金を投じてゲームを開発する流れが変わるかもしれません。ゲーム市場には、先行きに不透明感があります。

結局、3DS、Wii Uの時代の任天堂を支えるのは、任天堂しかないのですが、任天堂には自社の力だけで十分なソフトラインナップを作る準備ができていないようです。今後よほど大ヒットするソフトが出なければ、今後の任天堂の業績と株価については、やや慎重に見ていたほうがよいかもしれません。

参考銘柄-デンソー、TDK

今回は自動車部品大手と電子部品大手を取り上げます。トヨタ自動車、本田技研工業などの日系自動車メーカーだけでなく、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモータース(GM)、フォード、現代自動車など世界の大手自動車メーカーの生産が拡大していることを背景に、デンソー、アイシン精機など大手自動車部品メーカーの業績も拡大しています。

また、自動車が電子部品、半導体とモーターの塊になってきたことが、構造変化を引き起こしています。これまで自動車に使われてきた機械構造部品が、電子部品、半導体、電動モーターに置き換わってきました。このため、中堅から大手の電子部品メーカーにとって、自動車向けが大きな市場になってきました。自動車向けは採算も比較的良い模様ですが、これは、電機、電子向けの電子部品は年率10~20%で価格が下落しているのに対して、自動車部品の価格下落率は大きくても5~7%程度であるためです。品質基準は厳しいですが、一度特定の車種に採用されると、次のフルモデルチェンジがある4~5年後まで使ってもらえます。

一方、自動車部品メーカーにとっては、自動車向け電子部品を製品ポートフォリオに取り入れることで新たな成長戦略を描くことができるようになりました。2011年の世界の自動車生産台数は8009万台(商用車含む)ですが、今後5~10年で1億台を超えると予想されます。1万円の部品を自動車に新たに付け加えることに成功すれば、1兆円の新市場が誕生する計算になります。ただし、置き換えられるリスクもあるため、先手を取らなければなりません。

そこで、大手電子部品メーカー、村田製作所、TDK、日本電産などが自動車市場へ積極的に進出して、安定収益源に育成してきた一方で、自動車部品大手のデンソー、アイシン精機も電子部品や半導体を会社内部に取り入れる動きを活発化させています。

グラフ6 電子部品大手の営業利益 (単位:億円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ7 自動車部品大手の営業利益 (単位:億円、四半期ベース、会社資料より楽天証券作成)

ここではデンソーを取り上げますが、同社はもともと、半導体ウェハからチップまで作る半導体製造ラインを持っており、自動車の電子化を先導してきた会社です。今年に入ってからも富士通から岩手の半導体工場を買収しました。エンジン制御、走行・安全制御、ハイブリットカー技術など、車の電子化では今も世界の先端を走っている会社です。

また、アイシン精機も7月に半導体設計会社の日出ハイテックに資本参加し、半導体設計を一貫して行えるようになりました。
電子部品を見ると、上述のように、自動車向けに積極的に展開していますが、一方で、村田製作所など大手の業績は、今も通信向けに左右されています。当面は電子部品大手の株価は強含みの展開が予想されますが、通信=スマートフォンへの依存度が高い銘柄には少し注意が必要かもしれません。

そこで、TDKを取り上げたいと思います。TDKはHDD向け磁気ヘッド大手ですが、専業では今はTDK1社のみ、他の2社はHDDメーカーであるウェスタンデジタルとシーゲイトであり、HDDメーカーが磁気ヘッドの外販を行っています。HDDメーカーは、当然競合相手には磁気ヘッドは販売しませんから、TDKが事実上HDDメーカーに対する供給責任を一手に引き受けているのです。

業績面では、HDD用磁気ヘッド(主にパソコン向け)はTDKにとって大きな収益源です。また、前期赤字に陥った一般電子部品をリストラしたため、全体の業績も安定してきました。

HDDはSSD(フラッシュメモリーを使った記録媒体、高速処理、高速起動が特徴)の脅威を受けていますが、300ギガバイト~1テラバイト以上の大容量媒体の市場では、当分の間HDDの優位が続くと思われます。また、構成比はまだ低いもののデータセンター用サーバー用のHDD向けも増えてきました。従って当面は、磁気ヘッドがTDKの安定収益源としてあり続けると思われます。

TDKのもう一つの特徴は、通信向けよりも自動車向け売上高のほうが大きいことです(表3)。自動車向けがこのまま拡大すると、自動車向けが業績に与える影響を前向きに考えることができるでしょう。逆に村田製作所は、スマートフォン、特にiPhone5が期待通りに売れなかった場合の影響を考慮しなければならないかもしれません。これは、普及率の問題もあります。各国のスマートフォンの普及率は、表2の通りですが、普及率が高い国では、来年に一旦出荷台数が頭打ちになる可能性があります。

表2 スマートフォン普及率

表3 TDKの分野別売上高

レアアースを使わないかレアアースの使用料が少ない希土類磁石も、TDKにとって成長分野と思われます。TDKは日立金属、信越化学に次ぐ希土類磁石の大手です。レアアースが少ない希土類磁石の量産は今年度末から開始になる見込みです。2~3年後には自動車への搭載も始まると思われます。その後は、レアアースを使わない高性能磁石の量産も始まると思われます。

業績を見ると、デンソーは1Q決算で2013年3月期通期見通しを上方修正しましたが、さらなる上方修正の可能性もあると思われます。TDKの会社予想は達成できる範囲内であると思われます。

表4 銘柄データ

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