株式投資をはじめ、資産運用の大前提として筆者が常に意識しているのは「将来どうなるかは分からない」ということです。
「長期的には株式は上昇するものだ」とか「これ以上為替相場で円安は進まない」などと決めつけて行動することは、大失敗の大きな要因になりがちです。

為替相場は円安が続くと決めつけた個人投資家を襲った円高

例えば、対米ドルを除いた為替相場は2007年まで何年もの間円安が続いていました。この間に言われていたことといえば、「日本は将来人口が減少し、国力が弱まるから円安の傾向がこれからも続く」とか「円の超低金利は今後も続くので、高金利である外貨にマネーが向かい、円安の流れは止まらない」といった理屈でした。
ところが2008年になり、円は他の通貨に対して急速に全面高となりました。「日本の人口は減少の一途だから円安になる」「超低金利の円で運用するより高金利の外貨で運用するのが正解だ」として外貨投資を行った個人投資家の多くが、急激な円高と世界的な金利低下で大きな痛手を被ったのです。

こうした例からも、「将来円安になる」と決めつけることがいかに危険かご理解いただけるのではないでしょうか。
もちろん、将来円安になる、と予想して外貨に投資すること自体は、間違った行動ではありません。実際はさらに円安になったかも知れないですし、外貨の高金利も続いていたかも知れないからです。
重要なのは、予想が外れた場合の行動です。傷が浅いうちに損切りすれば何の問題もありません。しかし、相場の動きが予想と異なっていても「相場が間違っている」とか「今の円高は一時的なもので長期的に見れば円安になる」といって対応を先延ばしにしていると、ますます損失が拡大することにもなりかねません。

ちなみに、高金利の通貨が買われ低金利の通貨が売られる、というのが今では半ば常識のようになっていますが、理論的には全く逆です。高金利の通貨はそれだけインフレ率も高いので、低金利の通貨より通貨価値の下落が顕著になります。そのため、高金利の通貨ほど安くなるのです。数年程度の期間だけを取り出せば高金利通貨が買われることもありますが、長期的には、高金利通貨は安くなる傾向を示すはずです。少なくとも、高金利通貨が買われるのではなく売られることも当然起こり得るという点だけは頭に入れておくべきでしょう。

長期投資への信奉が下降相場で傷を深める原因に

また最近の日本株についていえば、今年の夏ごろには「日本株は上昇局面に入った」とか「日本株はまだまだ安い」といった強気のコメントがあちこちで聞かれるようになりました。こうしたコメントに安心して、個別銘柄の多くが今年の高値をつけた7月前後に長期投資のつもりで日本株を買った個人投資家も多かったことでしょう。
別に7月の高値で日本株を買うことは結構なことです。多くの個別銘柄にとって高値をつけたのが7月だったことは後になってはじめて分かることですし、「日本株はまだまだ上がる」という予測が正しかった可能性も当時はあったからです。
しかし、実際は個別銘柄の多くが7月前後を高値にして下落を続けています。数カ月で株価が2分の1、3分の1になってしまった銘柄も続出するありさまです。
ここで「長期投資すれば報われるはずだから我慢して持ち続けよう」と思う人と「長期投資が必ず報われるとも限らない。一旦損切りして下げ止まったら再び買い直そう」と思う人で、たった数カ月の間で運用成績に雲泥の差が現れます。
そして、株式投資で生き残れる個人投資家は当然後者です。買ってわずか数カ月で持ち株の株価が半値になって頭を抱えているのと、早々に損切りを済ませ、安く買い直すチャンスを虎視眈々と狙っているのとでは、どちらが成功する可能性が高いか説明するまでもありませんね。

将来を決めつけずに誤りを認めることが生き残りの秘訣

冒頭の繰り返しになりますが、「将来どうなるか分からない」ことを前提に行動するのが株式投資・資産運用の鉄則だと筆者は考えています。
バブル崩壊から20年。この間、日本株は長期的な下降相場が続き、時々起こるバブルとその崩壊や、意図せざるほどの株価暴落によって、多くの個人投資家が資産を失い株式市場から退場していきました。
バブル崩壊の荒波を乗り越えて生き残っている個人投資家は、自分の予想と逆の方向に相場が動いたら、損失が膨らむ前に損切りなどで対処してきました。でも、「長期投資していれば報われる」と信じて株価下落時もじっと耐え続けた個人投資家のほとんどは息絶えてしまいました。
自分の予測したシナリオとは逆に相場が動いたときは、「自分が間違っていた」と素直に認めて傷の浅いうちに損切りなど適切な対応をすることが生き残りの秘訣です。