GDPデフレーターはユニット・レーバー・コスト(ULC)で決まる
前述した通り、名目雇用者報酬の高い伸びは、「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現するためにも重要です。なぜそう言えるのか、ユニット・レーバー・コストを通じて説明します(詳細は10月30日のレポートを参照)。
ユニット・レーバー・コスト(ULC:単位労働費用)とは、一単位生産するのに必要な労働費用のことで、名目雇用者報酬(労働を提供した人が受け取る報酬の総額)を実質GDPで割って算出します(下記)。
その分母の実質GDPにインフレ率P(GDPデフレーター)をかけて、全体にもPをかけると、ULCはP(GDPデフレーター)に労働分配率をかけたものと整理できます。
したがって、GDPデフレーターの伸びは、ULC(ユニット・レーバー・コスト)の伸びから労働分配率の伸びを引いたものと等しくなりますので、労働分配率が変わらなければ、GDPデフレーターの伸びはULCの伸びと等しくなります。実際、グラフにしてみました。
図表3は、ULCを比較したものです。ならしてみるとおおむね同じように推移していますが、ところどころ乖離(かいり)しているのが分かります。この乖離は、上の説明の通り、労働分配率で説明することが可能です(図表4)。
図表3 GDPデフレーターとユニット・レーバー・コスト(ULC)
図表4 GDPデフレーターとULCの乖離率と労働分配率
GDPデフレーターの先行きを試算すると、2025年中は前年比2%程度で推移する
ここで、仮に今後も名目雇用者報酬が7-9月期と同じ前年比3.6%で推移したとしましょう。実質GDPの先行きは筆者の見通しがありますので(2024年度0.3%、2025年度1.0%)、その四半期パスを用いてユニット・レーバー・コストを計算し、労働分配率が足もとの水準で変化しないと仮定すると、GDPデフレーターの先行きが試算できます(図表5)。
図表5 GDPデフレーターの先行き
結果を見ると、やや振れはありますが、2025年中はおおむね前年比2%で推移することが分かります。無論、労働分配率一定というのはかなり強い仮定であり、日本の場合、景気拡大期には労働分配率が低下するのが普通です。したがって、GDPデフレーターが2%で推移するという試算結果は、ある程度幅を持って見る必要があります。
加えて、GDPデフレーターの伸びは、内需デフレーターと交易条件で説明ができますので、GDPデフレーターの伸びが維持できるかどうかは、交易条件が悪化しないという高いハードルもあります。
2023年以降に見られたGDPデフレーターの上昇も、交易条件の改善に支えられて実現していますが(図表6)、ここ2四半期はGDPデフレーターを押し下げる要因に転じています。
図表6 GDPデフレーター前年比の寄与度分解
とはいえ、内需デフレーターは消費デフレーターの動きによって決まり、消費デフレーターの動きは消費者物価指数とほぼ同じであることを踏まえると、今のところ、名目雇用者報酬の動きは「物価安定の目標」が実現可能な範囲内での伸びを維持していると言えそうです。