金(ゴールド)相場の短期・長期見通し

 先ほどの図「トランプ2.0環境下における金(ゴールド)相場の環境(一例)」で述べた上昇・下落の材料は、中東情勢、ウクライナ情勢、米中、東アジア情勢、・米利下げ・ドル安、トランプ・トレード、米国の民主主義停滞、世界分裂にまとめられます。

 これらは、以下の金(ゴールド)に関わる七つのテーマに分類できます(円建て金(ゴールド)は八つ)。七つは、筆者がこれまで提唱してきた、金(ゴールド)市場を分析する際に欠かせない、短中期、中長期、超長期の三つの時間軸を網羅するテーマです。

 筆者は、これらが金(ゴールド)市場に同時に上昇・下落どちらかの圧力を、大小問わず、かけていると考えています。いくつかの圧力が同時進行する分析手法はまさに、ラーニングゾーンの分析手法だと言えます。

図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2024年11月時点)

出所:筆者作成

 

 短中期的には、「有事ムード」「代替資産」「代替通貨」という三つのテーマ起因の上下両方の圧力に挟まれ、現在の2,600ドルから2,800ドル近辺で推移すると考えています。歴史的な水準で「高止まり」というイメージです。

 長期的には、米国の民主主義停滞、世界分裂といった「見えないジレンマ」起因の上昇圧力に支えられ、上値を伸ばすと考えています。

 V-Dem研究所(スウェーデン)が公表している、世界各国の民主主義に関わる多数の情報を数値化した自由民主主義指数に注目します。この指数は0と1の間で決定し、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。

 東西冷戦のさなか、米国は自由で民主的な姿勢を強め、旧ソ連や旧ソ連と考え方を同じくする国と明確な差が生じました。この間、米国の同指数は目立った上昇を演じました。2001年に同時多発テロ発生をきっかけとした混乱によって、一時的に反落したものの、その後は反発して0.85近辺という、世界全体で見て高い水準を維持しました。

図:米国の自由民主主義指数(1963年~2023年)

出所:V-Dem研究所のデータより筆者作成

 しかし同指数は、2016年にトランプ氏が米大統領選挙で勝利した後、0.72近辺まで急低下しました。彼の勝利は、民主主義の対局にある分断を利用したものだったといわれています。この急低下は、彼の横暴ぶりが米国の民主主義を大きく傷つけたことを示しています。

 そして今、トランプ2.0が始まり、再び同指数が急低下する可能性が高まっています。西側の超大国である米国の民主主義の低迷・行き詰まりは、2010年ごろから続く、世界全体の民主主義の低下を加速させる可能性があります。引いてはそれが、各種戦争を激化させたり、非西側の資源の出し渋りを拡大させたりするおそれがあります。

 戦争激化は有事ムード拡大を、資源の出し渋り拡大はインフレ拡大の要因になり得ます。少なくとも今後四年間、この傾向が続く可能性があります。こうした情勢を受け、中央銀行などによる長期を前提とした買いが続く可能性があります。それはつまり、長期視点で金(ゴールド)相場に上昇圧力がかかり続けることを意味します。

 金(ゴールド)相場は目下、歴史的に見て、大変に高い水準です。ですが、足元の状況を考えれば、さらなる上昇は、起き得ます。材料を「点」で見ず、複数の材料を同時に注目するからこそ、超長期視点のシナリオを描くことができるのです。

 最後に、このレポートのタイトルに戻ると、トランプ2.0で退場を迫られそうな人の特徴は、事象を点でみる人、過去の常識に依存する人、分かりやすさを重視する人など、コンフォートゾーンにいる人のことです。コンフォートゾーンでの分析は、トランプ2.0に対応していません。

 コンフォートゾーンからラーニングゾーンに移行するための手段については、世界中でさまざまな研究がなされていますが、筆者が最も効果があると考える手段は、読書と料理をすること、スマートフォンではなくパソコンを重用すること、パソコンデスクの横に世界地図を置くこと、そして静かな環境で一人になる時間を設けることです。

 世界がトランプ2.0に突入したことは、コンフォートゾーンに移行する大変に良い機会が到来したということと同じ意味です。投資や資産形成のためだけでなく、生きる術(すべ)を拡張する意味でも、ぜひ継続的に、上記の手段を試してみてはいかがでしょうか。トランプ氏が拡張した世界観に対応すべく、われわれも思考を拡張する、というシンプルな話です。

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