ラーニング(学習)ゾーンへの移行が急務
筆者は、世界がトランプ2.0に突入し、以前より述べてきた考え方がいよいよ本格的に望まれるようになったと、感じています。
トランプ2.0は「悲喜こもごも」な環境であるため、反対の要素が世界のどこかに同時に存在する可能性が高くなります。世界の主要な株価指数や世界各国で消費されるコモディティ(国際商品)の相場が、世界中で起きている事象の影響を受けながら推移していることを考えると、それらと向き合う市場関係者は、注目する事象と反対の事象を想定しなければなりません。
以下の図のとおり、コンフォート(快適)ゾーンからラーニング(学習)ゾーンに移行することで、その道がひらけます。
コンフォートゾーンとは、安全・安心を重んじ、低リスク・リターンで少し退屈、安全と制御への誤解をはらむ安心・退屈な状態と、他人に気を取られ、言い訳・弁解をし、自尊心が低く、間違いを気にする依存・低信頼の状態の総称です。
ラーニングゾーンとは、挑戦して問題を解決し、過ちを認め、新しいスキルを獲得し、高い自尊心を持つ自立・高信頼の状態、さらには、夢を謳歌(おうか)して高揚感に浸り、目的と意義を発見し、新しいゴールの設定する誰・何にも制限されない状態の総称です。
図:人の「二つのゾーン」
喜に対する悲(明に対する暗)という、反対の事象を想像するためには、目の前の事象を理解し、反対の意味を明確にする必要があります。この際に必要なことは、反対の意味を定義するより多くの語彙と反対の事象を受入れる覚悟です。
また、多くが目に見えない事象であるため、抽象的な発想も欠かせません。抽象的な発想の際は、複数の事象をつなげて線や面、立体に拡張する必要があります。
コンフォートゾーンでの発想では、「悲喜こもごも」の性質を持つトランプ2.0環境下の市場を理解することは難しいでしょう。ラーニングゾーンでの発想でしか、トランプ環境2.0下の市場分析はできないと、筆者は考えています。
われわれ市場関係者は、今すぐにでも、ラーニングゾーンに移行し、「点」で状況を把握することが許された「過去の常識」を、いったん横に置く必要があるのです。分かりやすいから、という理由で過去の常識に依存してはいけないのです。市場を取り巻く環境は、トランプ氏が大統領に返り咲いたことで、変わったのです。
図:トランプ2.0環境下で、今まで以上に否定されやすくなる過去の常識
金(ゴールド)の「悲喜こもごも」を分解
ここからは、金(ゴールド)相場の悲喜こもごもについて、書きます。ここでは、喜(明)を上昇要因、非(暗)を下落要因とします。以下の図のとおり、トランプ氏は、複数の上昇要因と、同時に複数の下落要因をもたらす可能性があります。
上昇要因は、中東リスク拡大、米中リスク拡大、米利下げ・ドル安加速観測、米国の民主主義停滞、世界分断深化、中央銀行の買い増加などです。下落要因は、トランプ・トレード(株高・ドル高)継続、利上げ(インフレ退治)観測、ウクライナ戦争縮小観測、東アジア情勢悪化停止観測などです。
トランプ氏は、ほぼ同時にこれらの「悲喜こもごも」を振りまき、金(ゴールド)相場に、上昇と下落、両方の圧力をかける可能性があります。これにより、金(ゴールド)相場は、これらの上下の圧力に挟まれ、現在の価格水準を維持しつつ、バランスが勝った方に推移(上昇圧力が下落圧力に勝れば上昇、下落圧力が上昇圧力に勝れば下落)する可能性があります。
図:トランプ2.0環境下における金(ゴールド)相場の環境(一例)
この図からも、トランプ2.0環境下において、有事だけ、株との逆相関だけ、ドルとの逆相関だけ、で分析ができないことが分かります。これら過去の常識の一つ一つは、多数の中の一つ、つまり「点」です。これらにのみ注目をして行う分析は、コンフォートゾーンでの分析であり、ラーニングゾーンでの分析が求められるトランプ2.0環境下ではなじみません。