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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「トランプ2.0で退場を迫られそうな人の特徴(吉田 哲)」
全ての激戦区を制し「トランプ2.0」始動
11月5日(火)に行われた米国の大統領選挙で勝利したトランプ氏は、4年ぶりに米国の大統領に返り咲くこととなりました。
激戦州といわれるペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ジョージア、ノースカロライナ、ネバダ、アリゾナの全てを制し、2016年の前回の勝利時の306を超える312人もの選挙人を獲得しました(勝利の条件は270人獲得)。総得票数でもハリス氏を370万票程度上回る、まさに大勝でした。
そして世界は、トランプ政権の二期目を迎えることとなりました。複数のメディアはこれを「トランプ2.0」と述べています。
図:トランプ2.0の影響(川上から川下まで)
米国は世界中のほとんどの国と、なんらかのつながりを持っています。資金、資源、人材、技術などの資産を大量に有する同国は、つながりを持つ国々に対して大きな影響力をもっています。長い歴史の中で培われてきた人脈、思想、軍備、威光なども彼らの重要な資産の一つです。
他国のほとんどが持ちえない資産を持つ米国のリーダーは、世界中に大きな影響を及ぼします。トランプ2.0の全体観が世界に与える影響の流れを示したのが上の図です。
これから始まろうとしているトランプ2.0において、個人投資家や市場関連の情報発信者を含む市場関係者は、どのような考え方で市場と向き合うことが望まれるのでしょうか。
世界はトランプ氏にマウントされている
話題創出、機運向上、自国優先、交渉促進などが、トランプ2.0の全体観を示すキーワードだと言えるでしょう。そしてそれらは、いずれも明(喜)と暗(悲)を含んでいます。国内大手メディアは「トランプ2.0は悲喜こもごも」と述べました。まさにそのとおりです。
図:トランプ2.0環境下の「全体観(一例)」
話題創出に関連するビッグマウス、誇張表現も、機運向上に関連する全体的な景気回復期待増、部分的な景気鈍化懸念増も、自国優先に関連する強い米国復活、一部の関連国疲弊も、交渉推進が関連する部分的な事態進展と別の混乱発生も、これから四年間、世界中の幅広い事象の川上に位置することになります。米国のリーダーがトランプ氏だからです。
こうした悲喜こもごもは、先ほどの図「トランプ2.0の影響(川上から川下まで)」のとおり、世界の平和、秩序、景気、民主主義や気候変動など、世界を覆う大きなテーマに影響を与えます。
そしてその影響が、各国の物価対策、和平交渉、環境対策、金融政策、貿易交渉などに及びます。さらにその影響が、各国の個別の事案である個別企業の株価、売上、そして物価や雇用などに及びます。
こうして考えると、まるで世界はトランプ氏にマウントされているように見えます。単に川中や川下の事象に縦の線で影響を及ぼすだけでなく、悲喜こもごも故、明の事象だけでなくその奥の暗の事象まで、横の線で影響を及ぼす点がトランプ2.0の特徴です。
ラーニング(学習)ゾーンへの移行が急務
筆者は、世界がトランプ2.0に突入し、以前より述べてきた考え方がいよいよ本格的に望まれるようになったと、感じています。
トランプ2.0は「悲喜こもごも」な環境であるため、反対の要素が世界のどこかに同時に存在する可能性が高くなります。世界の主要な株価指数や世界各国で消費されるコモディティ(国際商品)の相場が、世界中で起きている事象の影響を受けながら推移していることを考えると、それらと向き合う市場関係者は、注目する事象と反対の事象を想定しなければなりません。
以下の図のとおり、コンフォート(快適)ゾーンからラーニング(学習)ゾーンに移行することで、その道がひらけます。
コンフォートゾーンとは、安全・安心を重んじ、低リスク・リターンで少し退屈、安全と制御への誤解をはらむ安心・退屈な状態と、他人に気を取られ、言い訳・弁解をし、自尊心が低く、間違いを気にする依存・低信頼の状態の総称です。
ラーニングゾーンとは、挑戦して問題を解決し、過ちを認め、新しいスキルを獲得し、高い自尊心を持つ自立・高信頼の状態、さらには、夢を謳歌(おうか)して高揚感に浸り、目的と意義を発見し、新しいゴールの設定する誰・何にも制限されない状態の総称です。
図:人の「二つのゾーン」
喜に対する悲(明に対する暗)という、反対の事象を想像するためには、目の前の事象を理解し、反対の意味を明確にする必要があります。この際に必要なことは、反対の意味を定義するより多くの語彙と反対の事象を受入れる覚悟です。
また、多くが目に見えない事象であるため、抽象的な発想も欠かせません。抽象的な発想の際は、複数の事象をつなげて線や面、立体に拡張する必要があります。
コンフォートゾーンでの発想では、「悲喜こもごも」の性質を持つトランプ2.0環境下の市場を理解することは難しいでしょう。ラーニングゾーンでの発想でしか、トランプ環境2.0下の市場分析はできないと、筆者は考えています。
われわれ市場関係者は、今すぐにでも、ラーニングゾーンに移行し、「点」で状況を把握することが許された「過去の常識」を、いったん横に置く必要があるのです。分かりやすいから、という理由で過去の常識に依存してはいけないのです。市場を取り巻く環境は、トランプ氏が大統領に返り咲いたことで、変わったのです。
図:トランプ2.0環境下で、今まで以上に否定されやすくなる過去の常識
金(ゴールド)の「悲喜こもごも」を分解
ここからは、金(ゴールド)相場の悲喜こもごもについて、書きます。ここでは、喜(明)を上昇要因、非(暗)を下落要因とします。以下の図のとおり、トランプ氏は、複数の上昇要因と、同時に複数の下落要因をもたらす可能性があります。
上昇要因は、中東リスク拡大、米中リスク拡大、米利下げ・ドル安加速観測、米国の民主主義停滞、世界分断深化、中央銀行の買い増加などです。下落要因は、トランプ・トレード(株高・ドル高)継続、利上げ(インフレ退治)観測、ウクライナ戦争縮小観測、東アジア情勢悪化停止観測などです。
トランプ氏は、ほぼ同時にこれらの「悲喜こもごも」を振りまき、金(ゴールド)相場に、上昇と下落、両方の圧力をかける可能性があります。これにより、金(ゴールド)相場は、これらの上下の圧力に挟まれ、現在の価格水準を維持しつつ、バランスが勝った方に推移(上昇圧力が下落圧力に勝れば上昇、下落圧力が上昇圧力に勝れば下落)する可能性があります。
図:トランプ2.0環境下における金(ゴールド)相場の環境(一例)
この図からも、トランプ2.0環境下において、有事だけ、株との逆相関だけ、ドルとの逆相関だけ、で分析ができないことが分かります。これら過去の常識の一つ一つは、多数の中の一つ、つまり「点」です。これらにのみ注目をして行う分析は、コンフォートゾーンでの分析であり、ラーニングゾーンでの分析が求められるトランプ2.0環境下ではなじみません。
金(ゴールド)相場の短期・長期見通し
先ほどの図「トランプ2.0環境下における金(ゴールド)相場の環境(一例)」で述べた上昇・下落の材料は、中東情勢、ウクライナ情勢、米中、東アジア情勢、・米利下げ・ドル安、トランプ・トレード、米国の民主主義停滞、世界分裂にまとめられます。
これらは、以下の金(ゴールド)に関わる七つのテーマに分類できます(円建て金(ゴールド)は八つ)。七つは、筆者がこれまで提唱してきた、金(ゴールド)市場を分析する際に欠かせない、短中期、中長期、超長期の三つの時間軸を網羅するテーマです。
筆者は、これらが金(ゴールド)市場に同時に上昇・下落どちらかの圧力を、大小問わず、かけていると考えています。いくつかの圧力が同時進行する分析手法はまさに、ラーニングゾーンの分析手法だと言えます。
図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2024年11月時点)
短中期的には、「有事ムード」「代替資産」「代替通貨」という三つのテーマ起因の上下両方の圧力に挟まれ、現在の2,600ドルから2,800ドル近辺で推移すると考えています。歴史的な水準で「高止まり」というイメージです。
長期的には、米国の民主主義停滞、世界分裂といった「見えないジレンマ」起因の上昇圧力に支えられ、上値を伸ばすと考えています。
V-Dem研究所(スウェーデン)が公表している、世界各国の民主主義に関わる多数の情報を数値化した自由民主主義指数に注目します。この指数は0と1の間で決定し、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。
東西冷戦のさなか、米国は自由で民主的な姿勢を強め、旧ソ連や旧ソ連と考え方を同じくする国と明確な差が生じました。この間、米国の同指数は目立った上昇を演じました。2001年に同時多発テロ発生をきっかけとした混乱によって、一時的に反落したものの、その後は反発して0.85近辺という、世界全体で見て高い水準を維持しました。
図:米国の自由民主主義指数(1963年~2023年)
しかし同指数は、2016年にトランプ氏が米大統領選挙で勝利した後、0.72近辺まで急低下しました。彼の勝利は、民主主義の対局にある分断を利用したものだったといわれています。この急低下は、彼の横暴ぶりが米国の民主主義を大きく傷つけたことを示しています。
そして今、トランプ2.0が始まり、再び同指数が急低下する可能性が高まっています。西側の超大国である米国の民主主義の低迷・行き詰まりは、2010年ごろから続く、世界全体の民主主義の低下を加速させる可能性があります。引いてはそれが、各種戦争を激化させたり、非西側の資源の出し渋りを拡大させたりするおそれがあります。
戦争激化は有事ムード拡大を、資源の出し渋り拡大はインフレ拡大の要因になり得ます。少なくとも今後四年間、この傾向が続く可能性があります。こうした情勢を受け、中央銀行などによる長期を前提とした買いが続く可能性があります。それはつまり、長期視点で金(ゴールド)相場に上昇圧力がかかり続けることを意味します。
金(ゴールド)相場は目下、歴史的に見て、大変に高い水準です。ですが、足元の状況を考えれば、さらなる上昇は、起き得ます。材料を「点」で見ず、複数の材料を同時に注目するからこそ、超長期視点のシナリオを描くことができるのです。
最後に、このレポートのタイトルに戻ると、トランプ2.0で退場を迫られそうな人の特徴は、事象を点でみる人、過去の常識に依存する人、分かりやすさを重視する人など、コンフォートゾーンにいる人のことです。コンフォートゾーンでの分析は、トランプ2.0に対応していません。
コンフォートゾーンからラーニングゾーンに移行するための手段については、世界中でさまざまな研究がなされていますが、筆者が最も効果があると考える手段は、読書と料理をすること、スマートフォンではなくパソコンを重用すること、パソコンデスクの横に世界地図を置くこと、そして静かな環境で一人になる時間を設けることです。
世界がトランプ2.0に突入したことは、コンフォートゾーンに移行する大変に良い機会が到来したということと同じ意味です。投資や資産形成のためだけでなく、生きる術(すべ)を拡張する意味でも、ぜひ継続的に、上記の手段を試してみてはいかがでしょうか。トランプ氏が拡張した世界観に対応すべく、われわれも思考を拡張する、というシンプルな話です。
[参考]積立ができる貴金属関連の投資商品例
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)成長投資枠対応)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし)
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