「オクトーバーサプライズ」による株価下落は投資の好機か
11月5日の大統領選挙と連邦議会選挙まで1カ月を切りました。「オクトーバーサプライズ(October Surprise)」とは、選挙の直前に起きて選挙結果に影響を与えるような出来事を言います。予期せぬ事象やスキャンダルを野党側が攻撃するネガティブキャンペーンなどが挙げられます。
例えば、2016年の大統領選挙直前(10月)にはクリントン候補の国務長官当時のメール問題に関するFBIの再調査が発表されて波紋を呼び、トランプ氏が勝利する一因になったとされます。
今年については、(1)ハリス候補がカリフォルニア州司法長官に上りつめる過程にまつわるスキャンダル、(2)中東紛争激化を巡るバイデン民主党政権の影響力低下が副大統領であるハリス候補に逆風となりやすい、(3)9月末に米南部に上陸したハリケーン「ヘリーン」被害に対する現政権の不手際をトランプ陣営が攻撃する可能性があります。
また、ハリス候補が公約に据える「中間層拡充」の財源として提唱する富裕者層、高所得者層、法人税の増税をトランプ陣営が集中的に批判することも想定されます。
図表3は、候補者別の「市場の懸念要因」と「市場の期待要因」を整理した一覧です。財政政策の実効性には連邦議会の承認を得る必要があることには留意したいところです。
<図表3>ハリス候補とトランプ候補に対する市場の「懸念」と「期待」
最新の全米世論調査に基づく平均支持率によると、ハリス候補の支持率は49.1%とトランプ候補(46.9%)に対して2.2ポイントリードしています(Real Clear Politics/10月5日時点)。ただ、世論調査は「かくれトランプ支持者」を反映しにくいとの指摘もあり実際は「接戦」です。
こうした中、興味深いのは米アメリカン大学教授のリクトマン氏(歴史学者)が9月5日に「今回はハリス副大統領が第47代米国大統領になる」との予想を表明したことです(Washingtonian)。
リクトマン氏は、1984年のレーガン再選を的中させて以降、開票が一部中止されるなど異例だった2000年を除き、前回(2020年)の大統領選まで9回連続で選挙結果を正確に予測して「大統領選のノストラダムス」と畏怖されています。
同氏は、独自に編み出した「ホワイトハウスへの13の鍵」と呼ばれる独自メソッドのうち、九つの項目が「ハリス優勢」を示していると述べました。
また、今回の大統領選挙の特徴として明示すべきは、野党である「共和党」の重鎮・有力者238人があえて「反トランプ」もしくは「ハリス氏支持」を表明していることです。こうした共和党メンバーにはブッシュ元大統領、チェイニー元副大統領、ペンス前副大統領(前トランプ政権の最側近)などのトランプ不支持が含まれています。
共和党の有力者が「トランプ政権がさらに4年続けば米国の民主主義にとりかえしのつかないダメージを与える」と共同書簡で表明している危機感が注目されています。
<図表4>今年の選挙も「激戦7州」の選挙人獲得数がカギとなる
そうは言っても、米大統領選挙が「直接選挙」ではなく「間接選挙」である点に要注意です。基本的に全米50州とワシントンDCに(総人口に合わせて)割り振られた選挙人538人のうち州ごとの得票者数1位の候補者がそれぞれの州の選挙人全てを獲得する仕組み「Winner Take All:勝者総取り方式」で、選挙人270人以上を獲得すると当選する制度となっています。
2016年の大統領選挙では、クリントン候補が全米での得票総数(6,580万票)でトランプ候補(6,290万票)を上回ったにもかかわらず、選挙人の獲得数ではトランプ候補(306票)がクリントン候補(232票)を上回り当選に至ったことが有名です。
こうした中でカギを握るのが、勝利政党がたびたび変わる「激戦州」(Swing StatesやBattel Groundと呼ばれる)7州で合計93人の選挙人獲得を巡る争いとなります。
図表4で示す激戦7州の直近世論調査の平均支持率(Real Clear Politics)によると、「ハリス支持率-トランプ支持率」がマイナス0.1ポイント(トランプ候補がやや優勢も拮抗(きっこう)状態)となっています。
「歴史的な激戦」と呼ばれる中、10月にハリス候補が激戦州におけるターゲット層(無党派層の女性、マイノリティ、若者などの中道層)の関心と支持をどれだけ獲得できるかが注目されています。