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著者の松田 康生が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「トランプなら買い、ハリスなら売り~9月のビットコイン見通し~」
8月のビットコインイベント
NEW! 8月24日 | ロバート・ケネディ・ジュニア撤退、トランプ支持 |
NEW! 8月28日 | SEC、web3最大手OpenSeaに訴追予告 |
*2024年1月以降の主なビットコインイベントは記事最終ページにまとめています。
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材料面から見た9月見通し
8月の振り返り
8月のビットコイン価格(円)とイベント
8月のBTC相場はドル建てで見ると分かりやすい。7月末に7万ドルを付けると8月月初にかけて5万ドル割れに急落。その後、反発し6万ドルを挟んでのもみ合い推移が続いている。
BTC/USDで見た相場急落の三つの要因
この2万ドルを超える下落要因は主に三つのフェーズに分かれる。
まず第1フェーズの7万ドルから6万5,000ドルまでの下落は中東情勢の悪化と米大統領選挙に立候補した、民主党のカマラ・ハリス氏の追い上げが大きい。7月27日のビットコインカンファレンスで、ドナルド・トランプ氏は暗号資産に敵対的なSEC(米証券取引委員会)ゲーリー・ゲンスラー委員長の解任と、米国政府が準備資産としてビットコインを保有することを提唱し、ビットコインが7万ドルにワンタッチした。
しかし、劣勢だったバイデン大統領からバトンを受け継いだハリス氏がトランプ氏との差をどんどん追い上げると、「ほぼトラ」で積み上がったポジションの巻き戻しもあり、ビットコインはずるずると値を下げていった。
中東ではイスラエルがベイルートに滞在していたイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高幹部フアド・シュクル氏を空爆で殺害、またイラン新大統領就任式でテヘランを訪問中のハマス幹部が殺害された。イスラエルは犯行声明を出していないが、イランとサウジアラビアはイスラエルの関与を明言し、イラン・イスラム共和国のハメネイ最高指導者は報復を命令した。
ガザ地区での戦闘がイランVSイスラエル、さらには中東戦争に飛び火することを市場は懸念した。
第2フェーズの6万5,000ドルから6万1,000ドルへの下落は米国の景気悪化懸念が主因だ。ISM製造業景況感指数や雇用統計が悪化。これまで景気後退を示す指標には利下げが近くなるとリスクオンで反応していた市場だが、景気悪化懸念からリスクオフとなり、ビットコインも売られていった。
FF先物利下げ織り込み回数
第3フェーズの6万1,000ドルから4万9,000ドルに至る急落は、円高と日本株の暴落による。7月末に日本銀行は利上げを実施し、植田和男総裁はさらなる利上げを示唆した。すると円キャリー取引のアンワインドが殺到して、企業収益の悪化懸念から日本株は急落した。8月5日にはドル/円が1日で5円下落、日経平均株価はブラックマンデーに次ぐ史上2番目の下落率を記録した。
日経平均とドル/円相場
下落からの反発
これに驚いた当局が財務省・日銀・金融庁の3者会談を開催した。内田真一日銀副総裁が市場が混乱している間は利上げを行わないとすると、ドル/円は反発し、日本株も値を戻した。ビットコインも6万2,000ドル台に反発、第3フェーズの下落は全戻しした。
また、米景気悪化懸念も後退した。ISM非製造業景況感指数や小売売上高などが好転したことに加え、さらにジャクソンホールでパウエル議長が「政策を調整する時期が来た」と9月利下げ開始を事実上認めたこともあり、BTCは6万5,000ドルにワンタッチ、第2フェーズの下げも全戻しした。
世論調査(RealClearPolitics)におけるトランプVSハリス支持率
予想市場(Polymarket)におけるトランプVSハリス当選確率
ただ、第1フェーズの下落は戻しきれていない。ハリス氏の勢いは止まらず、足元の世論調査ではトランプ氏を追い抜いている。
トランプ氏が当選すればイーロン・マスク氏やロバート・ケネディ・ジュニア氏の政権入りなど、暗号資産業界にとってドリームチーム結成がささやかれているのに対し、ハリス氏当選の暁にはゲンスラーSEC委員長の財務長官登用が報じられた。ハリス氏は暗号資産に対する政策を明らかにしていないが、ハリス優勢ならビットコインは売りとの見方が広まりつつある。
フェアリー・ディキンソン大学の調査によれば、暗号資産を保有している有権者の支持率ではトランプ氏がハリス氏を12ポイント(50対38)リードしており、逆に保有していない有権者の支持率ではハリス氏が12ポイント(53対41)リードしている。
副大統領時代から人前で話すことに難があるとされたハリス氏だが、民主党大会での指名受諾演説は成功裏に終わり、弱点とされたインタビューも無事に終えた。ただ、それらの内容もさることながらCNNやABC、WSJなど大手メディアのハリス推し姿勢が目立ち、そうした違和感が市場参加者の不安をかき立てている部分がありそうだ。
また中東情勢も混迷を続けている。イランはガザ地区での停戦が実現するならば報復攻撃を自重すると表明。ブリンケン米国務長官はイスラエル入りし「最後のチャンス」と停戦を促したが、結局、イスラエル側のガザ・エジプト境界地区へのイスラエル軍の駐留要求がネックとなり交渉は決裂。その後も交渉が続くが合意には至っていない。
こうした大統領選や中東情勢の不透明感が相場の重しとなっている。