長期投資の姿勢を維持したい本当の理由を知る

 上述したとおり、マイノリティー(有色人種)、女性、若者(Z世代~ミレニアム世代)の政治への関心を喚起したハリス副大統領の勢いが続くかどうかと、大統領選挙(11月5日)同日に行われる上下両院議会選挙の結果も来年以降のワシントン情勢を占う上で注目されます。

 ただ、米国市場の長い実績で振り返ると、大統領選挙や議会選挙を巡る不安が「市場の短期的なノイズ」でしかなかったことも知られています。実際、共和党政権下でも民主党政権下でも株価が上がることもあったし、下がることもありました。

 個人的なお話しですが、筆者は1989年に某投信会社に入社。1991年から1995年まで米国現地法人(ニューヨーク市)に出向しポートフォリオマネジャー(北米株式を担当する投資顧問業)に従事していました。

 この間、オフィス近くのワールドトレードセンター(悲しいことに2001年9月の同時多発テロで崩壊)の1階に所在していた「チャールズ・シュワブ証券」の店舗を何度か訪れました。

 同店舗には営業担当者(いわゆるセールス)がおらず、店舗を訪問した顧客が店内に展示してあるファンド(公募型投信)のパンフレット(販売用資料)に興味を抱くと、中央カウンター内にいる担当者がプロスペクタス(目論見書)を丁寧に説明するスタイルでした。

 当時、日本で常識的だった証券会社が「販売手数料を稼ぐためのファンド乗り換え」を顧客に勧めていた営業手法(現在は違う?)と異なり、「投資家のリスク許容度やニーズを重視する長期投資」を勧めるスタイルが新鮮でした。

 ご参考までに、筆者が米国株式に関わった1990年からのS&P500の総収益指数(配当込みトータルリターン指数)の対数チャートを図表3に示してみます。

<図表3>米国株式の総収益指数を長期で振り返る

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(1989年末~2024年7月末)

 この間にS&P500の総収益は31.8倍となり、平均総収益率は+11.8%でした。「時間を味方につけた米国株式への長期投資」が生み出した投資成果を示す市場実績です。

 上記は過去のボラティリティ(変動)を比較的鮮明に示す対数チャートですので、長期ではITバブル崩壊、景気後退、金融危機などで大小の株価変動を経験してきたことが分かります。そうした変動を乗り越え、1990年初からのS&P500の配当込み総収益が世界市場の中で秀でてきた実績に注目いただければと思います。

 第2次世界大戦時に英国の首相であったウインストン・チャーチル氏は「Americans will always do the right thing, only after they have tried everything else.」(米国は最後には正しい事を行うが、そこに到達するまでに何回も失敗する)と述べました。チャーチル氏の米国への評価と皮肉が込められているとされます。

 米国株式市場のリターンも、上げ過ぎの反動安、下げ過ぎの反動高を挟み、結果的には長期的な投資成果をもたらしてきました。前週は米国の投資格言「TIME in the market is more important than TIMING the market」(相場の上下に合わせて売買するよりも、長く投資を続けていく方が有利)をご紹介しました。

 投資を続けていく過程でのリスク(リターンのブレ)は避けられない一方、一般個人の投資家が短期売買を繰り返して投資成果を上げ続けることが至難であることも知られています。

 1990年代初めに筆者が訪れたチャールズ・シュワブ証券の顧客も、401K(米国の確定拠出型年金)やIRA(個人退職勘定)など非課税投資枠を活用して長期積み立て投資を続けてきた米国の一般投資家が長期の時間軸で投資成果を得てきた市場実績をご紹介しました。

 1990年代も現在もそして今後も米国が世界最強かつ最大の資本主義経済国(市場)であることに変わりはないと思います。日本の個人投資家もコストが低いインデックスファンドを活用して米国株式に長期積み立て投資を続けていくことは合理的であると考えています。

 なお、筆者が本稿の執筆を担当するのは最後となります。末筆となりましたが、皆さまの資産形成のご成功とご多幸を心よりお祈り申し上げます。最後までお読みいただきありがとうございました。

▼著者おすすめのバックナンバー

2024年7月26日:米国株式に波乱相場?長期積み立て投資の意義を検証する(香川睦)
2024年7月19日:インド株式が堅調な理由は?10年後の株価水準をイメージする(香川睦)
2024年7月12日:10年後のS&P500を予想!相場上昇トレンドのドライバーは?(香川睦)