パウエルFRB議長の発言と米国雇用市場の現状

 パウエルFRB議長は、インフレを抑制するためには、雇用市場の需給バランスが「月20万人」以下程度まで調整される必要があると述べています。今年になって就業者は月平均23万人以上のペースで増え続けています。

 しかしパウエルFRB議長は就業者の増加数が問題だと言っているのではありません。FRBが積極的に金融を引き締める中でも、企業の採用意欲が旺盛であることは米経済の強さの証明であり、むしろ歓迎すべきことです。

FRBの真の懸念は「賃金上昇率」

 FRBが本当に懸念しているのは雇用者数ではなく、賃金上昇率です。米国では、ベビーブーマー世代を中心としたグレート・レジグネーション(大量離職)が発生した結果、構造的な働き手不足となっています。企業は労働力を確保するために給料を高くする必要があります。

 ところがその労働コストは価格に転嫁されるのでインフレ率も上昇します。インフレで生活コストが上がると、より高い給料を求めて転職する人が増えるので、企業はさらに賃上げし、そのコスト分を値上げするという、「賃金・物価スパイラル」が止まらないことをFRBは問題視しているのです。