ノルム(規範)って何?品目によって違うの?

 そもそもノルムとは何なのでしょうか。値上げしてはいけないという規範、価格横ばいが当然という社会通念だとして、それは業界や商品によって違うものなのでしょうか。それともノルムの影響の出方が業界や商品によって違うのでしょうか。現実問題として、異次元緩和以降のトレンドは、品目によってかなり異なっています。

 図表1は、異次元緩和が始まる直前の2013年3月を100とした消費者物価指数ですが、生鮮食品を除く総合指数のほか、上昇率の高い「生鮮食品を除く食料」、上昇率の低い「公共サービス」と「持家の帰属家賃」を掲載しました。点線は前年比が2%になるラインと、1%になるラインを示しています。

<図表1 異次元緩和以降の消費者物価(動きの大きい品目・小さい品目)>

(注)凡例の( )内はウエート。消費税、教育費無償化、通信料引き下げ措置を調整済み。
(出所)総務省、楽天証券経済研究所作成 

 2022年以降、日銀のいう「ビッグ・プッシュ」によって「生鮮食品を除く食料」は2%ラインまでジャンプしていますが、「公共サービス」や「持家の帰属家賃」にはそうした変化がうかがわれません。

「公共サービス」は値上げすべきでないという規範が強いのかもしれませんし、「持家の帰属家賃」はノルム云々ではなく、別の要因で低い上昇率に抑制されているのかもしれません。

 いずれにせよ、少なくともこの約3割のウエイトを占める2つのセグメントは、物価安定目標2%の実現を阻害するアンカーとなってしまう可能性があります。

上昇率の高い「リードグループ」と上昇率の低い「アンカーグループ」

 もちろん、伸び率の低いセグメントは「公共サービス」や「持家の帰属家賃」だけではありません。そこで、消費者物価を構成する十大費目をベースに、上昇率の高い費目を集めたリードグループ指数と、上昇率の低い費目を集めたアンカーグループ指数を作成してみました(図表2)。

<図表2 異次元緩和以降の消費者物価(動きの大きい分野・小さい分野)>

(注)凡例の( )内はウエート。「光熱・水道」、「ガソリン」除く。消費税、教育費無償化、通信料引き下げ措置を調整済み。
(出所)総務省、楽天証券経済研究所作成

 グラフを見ると、リードグループは異次元緩和が開始されてから2021年ごろまで、1%ラインに沿って推移していますので、その間はそのセグメントの間で1%のノルムが誕生していたのかもしれません。もっと言うと、それが2022年以降は「ビッグ・プッシュ」によって2%のノルムへ移行しつつあるとみることもできそうです。

 しかし、5割以上を占めるアンカーグループは、「ビッグ・プッシュ」によって1%の上昇ペースになるのがやっとであり、足もとはむしろ横ばいで推移しています。

 多角的レビュー第2回ワークショップの結論(3)にある、「ビッグ・プッシュによって規範に変化の兆しが生じている」は間違いではありませんが、その変化が「物価安定の目標」2%の持続的・安定的な実現につながるかどうかは不透明と言わざるを得ません。