世界分断は物価高の一因でもある

 また、世界の分断を深化させたのは、スマートフォンの世界的普及のほか、債務危機や移民問題などが噴出して西側をリードしてきた欧州で大きな混乱が発生したこと、そして2008年のリーマンショック後の経済回復・株価上昇のために西側が強力に推し進めた環境問題と人権問題への対応が、非西側の産油国や権威主義を主張する国々と決定的な軋轢(あつれき)を生んだことが挙げられます。

 環境問題と人権問題への対応によって、一部の金融商品に資金が流入して空前の株高が起きました。しかし同時に、西側と非西側の分断はさらに深まり、非西側の産油国は西側に対して原油の出し渋り(原油の減産)を強化するようになったり、西側に人権侵害を訴えられた非西側の一部の国は内政干渉だと猛然と反発したりするようになりました。

 わたしたちが今直面している物価高(非西側産油国の減産が主因)の一部は、世界分断によるものだといえます。その分断の一因を作ったのが実は西側であるわれわれでもあると筆者は考えています。分断が深まり、矛盾に満ちた世界に放り出された若い方たち、そして図らずもそうした環境を作ってしまった大人たちは、今後、何をどのように考えて生きていけばよいのでしょうか。

「コモディティ市場分析」は強力な武器

 分断と矛盾の世界を生き抜くために必要なスキルについて考えます。

図:分断と矛盾の世界を生き抜くために必要なスキルとコモディティ市場分析

出所:筆者作成

 筆者が考える分断と矛盾の世界を生き抜くために必要なスキルは、分断を認める、矛盾を意識する、俯瞰(ふかん)する、疑うことを習慣化する、自律・自立する、の五つです。これらがあれば、たとえ難しい環境に置かれていても、自分らしく生きていくことを強力にサポートしてくれます。当然、分断と矛盾の世界でも生きていけるでしょう。

 それぞれの対極の関係にある「やってはいけない」ことが、自分だけの正義を貫く、過去や常識に固執する、ゼロかイチで考える、見たいものだけ見る、徒党を組む、です。これらの「やってはいけない」ことをしないようにするだけで、おのずと分断と矛盾に満ちた世界を生き抜くヒントがうっすらと見えてくるでしょう。

 必要であるとしたスキルの中で特に重要なのは、「俯瞰する」です。なぜ分断が起きているのか、何が矛盾を生んでいるのか、などを考える際に欠かせない考え方だからです。ゼロかイチの発想(完全な正義か完全な悪かのどちらかなど)では到底思いつかない考え方に出会うことができます。俯瞰は本当に重要で楽しい作業です。

図:コモディティ市場が俯瞰的であることのイメージ

出所:筆者作成

 例えば、コモディティ市場は上記のように位置付けることができます。この位置関係を頭の中に置いておくだけで、さまざまな市場動向の解説を格段にしやすくなります。(コモディティに限らず)世の中で起きているさまざまなことを、上記の図に分類していくと、情報の整理がしやすくなるでしょう。少なくとも因果関係が逆になって混乱することは減ると思います。

 筆者は、「コモディティ市場分析」は、必要な五つのスキルを磨くために最適な教材であると考えています。日々の業務の中でそのように感じることが多々あります。「やってはいけない」ことは、筆者が日々の業務の中でやらないように意識していることの一部でもあります。