分断は豊かさや正しさを求めた結果
以下は、なぜ2010年ごろから分断深化がはじまったのかについて、筆者の考えをまとめた資料です。民主主義の行き詰まりは、世界分断がそこにあることを示す証であるのと同時に、逆に世界分断が民主主義の行き詰まりを加速させている一面もあります。
図:2010年以降の世界的なリスク拡大と金・原油・株高の背景(筆者イメージ)
また、スマートフォンの世界的普及も、民主主義の行き詰まりの一因になったと考えらえられます。スマートフォンは人々の生活を豊かにしましたが、負の面ももたらしました。その一例が「大衆の渦(うず)」の肥大化です。
以下のとおり、2010年が世界のスマートフォン販売台数の本格拡大の起点になったわけですが、この年以降、スマートフォンを用いたSNS(交流サイト)で同じ思想を持った人たちが結束を強め、その膨れ上がった思いをリアルの場で実現する(発散する)ことが散見されるようになりました。
2011年前後に目立った北アフリカ・中東地域での「アラブの春」では、民主化という側面はあったものの、武力を伴った前例がない規模の大衆の運動によって政権転覆が相次ぎました。後に、このアラブの春にSNSが深く関わったと報じられました。2016年の英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票で離脱が勝利したことや、同年のトランプ氏が大統領選挙に勝利したことにも、SNSが大衆の渦を増幅させたことが一因であったとの指摘があります。
図:世界のスマートフォン販売台数 単位:百万台
もともと、大衆から人気を得ることを第一とする政治思想や活動を意味する「ポピュリズム」が、大衆を扇動して自身の政治思想を実現しようとすることを指すようになったのもこのころです。特定のグループを強く批判する攻撃的なポピュリズムがSNSで膨れ上がりやすい性質を持っていたことに多くの人が気付いたのは、スマートフォンが世界全体にほぼ行き渡った後でした。
多くの人がスマートフォンを手にSNSを使うようになったことは、豊かさが拡大していることを象徴する出来事であるものの、その半面、悪い意味のポピュリズムを膨張させて民主主義を行き詰まらせ、分断を深める一因になったと考えられます。われわれが普段から使用しているスマートフォンは、使い方によっては大変な武器にもなってしまうのです。