毎週金曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄東京エレクトロン(8035、東証プライム)ディスコ(6146、東証プライム)アドバンテスト(6857、東証プライム)レーザーテック(6920、東証プライム)アプライド・マテリアルズ(AMAT、NASDAQ)ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)エヌビディア(NVDA、NASDAQ)

1.「GTC2024」の補足

 エヌビディアの年次テクノロジー・カンファレンス「GTC2024」が、2024年3月18~21日(現地時間、以下同様)にアメリカ・サンノゼで開催されました。先週の楽天証券投資WEEKLY2024年3月22日号では、「GTC2024」におけるエヌビディアCEO、ジェイスン・ファン氏の基調講演の内容を要約してお伝えしましたが、今回は「GTC2024」関連の報道、発表なども合わせて補足します。

1)「Blackwell」の製品体系

 エヌビディアのAI半導体(AI用GPU)の新アーキテクチャー「Blackwell(ブラックウェル)」の製品体系を、現時点で分かっている限りですが以下に示します(先週の時点であいまいだったところを修正します)。

「B200」:1個の「Blackwell GPU」に2,080億トランジスタが搭載されています(「H100」は800億トランジスタ)。これを2個連結して一つのパッケージに収めたものが「B200」です。

「GB200」:エヌビディアの自社製CPU「Grace」1個と「Blackwell GPU」2個を連結して1つのパッケージにしたものが「GB200」です。後述のように、これは「Grace」と「B200」を連結したものではなく、ファンCEOの説明では、「Grace」1個と「Blackwell GPU」2個を連結したものということです。

「BLACKWELL COMPUTE NODE」:「GB200」をもとにエヌビディアが紹介したのが、「BLACKWELL COMPUTE NODE」です。2個の「Grace CPU」と4個の「Blackwell GPU」を連結したものです。1.7TB(テラバイト)のHBM3eを搭載し、メモリの帯域幅も大きくなり高速化しています。液体冷却します。

「GB200NVL72」:「BLACKWELL COMPUTE NODE」にネットワーク機能等を強化した周辺回路(ConnectX-800G InfiniBand Supernic、BlueField-3 DPU)と高速ネットワーク機器である「NVLINK SWITCH」を装着したもの18台をラックの中に重ねたものが「GB200NVL72」になります。36 個の Grace CPU と 72 個の「Blackwell GPU」を連結し、30TBのHBM3eを搭載します。コンピュータシステムの中ではこれは一つのGPUとして認識されます。巨大なGPUです。

「GB200NVL72 COMPUTE RACKS」:さらに、8個(8基)の「GB200NVL72」を集めて液冷装置を付けたものが、「GB200NVL72 COMPUTE RACKS」になります。おそらく、これが「Blackwell」ベースの製品体系の最上位機種になると思われます。

「B100」:ファンCEOの基調講演では「B100」の詳しい説明はありませんでしたが、基調講演の最後に「Blackwell」の製品ラインナップを展示する場面があり、そこには「HGX B100」の展示もあったため、「B100」もあります。別のウェブ記事によれば、「B100」も「Blackwell GPU」2個を連結してパッケージ化したものですが、「B200」よりも性能を落とした下位機種になる模様です。

図1 エヌビディアのAI用GPUロードマップ(「GTC2024」基調講演を踏まえた楽天証券による修正(再修正)後)

出所:「NVIDIA Investor Presentation October 2023」26ページに楽天証券加筆
注:GTC2024のエヌビディアCEOによる基調講演では、「X100」に対するコメントがなかったため、2025年の「X100」系統の部分を省いた。

表1 H100/H200とB200/GB200/GB200NVL72の性能比較

H100対B200性能比較

H200対GB200

省エネ性能(H100対GB200NVL72)

出所:エヌビディア資料、「GTC2024」基調講演より楽天証券作成

2)「Blackwell GPU」の作り方

 ファンCEOの基調講演で、「Blackwell GPU」構築の模式図(動画)が披露されました。それによれば、まず、トランジスタが1,040億個詰まった長方形のシリコンチップをTSMCのN4Pライン(N4Pは4ナノラインの拡張版)で生産します。この面積は不明ですが、EUV露光装置で露光可能な物理的な限界まで大きくしています。

 このチップを2つ接続したものが、1つの「Blackwell GPU」です。詰まっているトランジスタの数は1,040億×2=2,080億個です。これで1つの「ダイ」となります。「Blackwell GPU」と現在のアーキテクチャーである「Hopper(ホッパー)」を比べると(ここでは「H100」と比較していると思われる)ダイの面積は約2倍となり、トランジスタ数は「H100」の800億に対して「Blackwell GPU」は2,080億なので、その差は1,280億となります。

 実際には、2つのチップを接続して1つのダイとしたものの周辺に「HBM」(DRAMの最新規格「DDR5」をベースにした高速、広帯域の特殊メモリ)を配置します。一つの「Blackwell GPU」に192GBのHBMの最新型「HBM3e」が搭載されます。

 基調講演で示された模式図の動画では、「Blackwell GPU」2個を1個ずつ「Grace」(エヌビディアの自社製サーバー用CPU。アーム・アーキテクチャーを使っている)と接続したものが「GB200」となります。「GB200」には384GBの「HBM3e」が搭載されます。この映像では、「Blackwell GPU」同士では接続していない表現になっています。この通りであれば、「GB200」は単純に「Grace」と「B200」を接続したものではないことになります。これについては前述の「GB200NVL72」も同様で、エヌビディアの説明通り36 個の Grace CPU と 72 個の「Blackwell GPU」を連結したものが「GB200NVL72」であって、36個の「GB200」を連結したものではないと解釈したほうが良いと思われます。

3)「Blackwell GPU」の価格は3~4万ドル

「GTC2024」開催中の2024年3月19日(火)、CNBCはファンCEOとのインタビューを放送しました。それによれば、「Blackwell GPU」の価格(エヌビディアの出荷価格)は、3~4万ドルです(注:ファンCEOはこの価格について「Blackwell GPU」の価格と言っており、インタビューの映像中でもトランジスタが2,080億個詰まった「Blackwell GPU」を手にもって話しているため、これは「B200」の価格ではない。CNBCのウェブ記事も価格については、「Blackwell GPU」の価格と書いている)。「Blackwell」開発にかかった研究開発費は約100億ドル(約1.5兆円)です。CNBCのウェブ記事によれば、アナリストの推定による「H100」の価格は2万5,000~4万ドルです。

「Blackwell」と「Hopper」(「H100」のアーキテクチャー。ここでの比較は「H100」との比較と思われる)では、1つのダイ当たりの価格は大きくは変わりませんが、「B200」「GB200」「GB200NVL72」は複数の「Blackwell GPU」を使うこと、今回の「Blackwell」はより上位の製品に力点が置かれていると思われることを考えると、「H100」よりも生成AI向けのシステム全体の価格は高くなると思われます。ただし、「Blackwell」の学習性能、推論性能、特に推論性能と省エネ性能は「Hopper」に比べ大幅に向上していることから、コストパフォーマンス(費用対効果)は向上していると思われます。

4)エヌビディアの注力分野は、科学技術計算、設計、シミュレーションか

「GTC2024」のファンCEOの基調講演で注目されるのは、「Blackwell」を使ったシステムで行えることとして、各分野のシミュレーション、あるいはデジタルツイン(現実のデータをデジタル空間上で再現して、様々なシミュレーションをリアルタイムで行うこと)を強調していたことです。例えば、臓器、遺伝子、タンパク質の合成などの薬品・バイオと医療分野、化学、気象、自動車、航空宇宙、工場などのシミュレーション映像を見せていました。

 このような科学技術計算や設計、研究開発に使うシミュレーション用システム(シミュレーター)は、高額なスーパーコンピューター(数十億円から数百億円以上。日本の「富岳」は約1,300億円かかった)を使うものが多いのですが、AI半導体を装着した高性能AIサーバーで行う場合は、その費用は大きく低下すると思われます。

 ただしその場合は、エヌビディアの「Blackwell」以外の選択肢はないと思われます。

「GTC2024」でシミュレーション映像の実演を見せていましたが、高精細CGを高速処理する映像表現力では、エヌビディアがAMD、インテルを引き離していると思われます。例えば数百億円以上する高性能スーパーコンピューターを使う場合は別ですが、その数分の1以下のコストで高精度のシミュレーションを行う場合は、エヌビディアが持つ映像についての約30年間の技術の蓄積がモノを言うと思われます。eSportsの選手やパソコンオンラインゲームの愛好家は、ゲーミングPCを買うとき、あるいは自作するとき、CPUはインテル、AMDを予算や好みに沿って決めますが、もしプレーヤーがeSportsの試合やオンラインゲームで勝ちたいと思うならば、GPUはエヌビディアの「GeForce」になります。映像の美麗さとレスポンスの良さがAMD、インテルよりも優れているからです。

 高額とは言え、スーパーコンピューターよりは安いAIサーバーと生成AIで各分野のシミュレーターが実現できるなら、このことは航空宇宙、自動車、化学、薬品・バイオ、半導体などの企業や、各種の科学技術分野の研究機関などにとって魅力的であると思われます。シミュレーターの費用が低下するだけでなく、費用の低下によって、シミュレーターを使う分野、使える時間が拡大するからです。例えば、従来は中央研究所でしか使えなかったシミュレーターが各事業部門の設計部門で使えるようになるかもしれません。

 このことは、企業だけでなく、大手から準大手、中堅までのクラウド・サービス会社にとって、科学技術計算やシミュレーターという新しい事業分野ができることも意味します。ただし、その場合は、「Blackwell GPU」を使った大型AIシステムが必要になると思われます。

 これに関して、エヌビディアとエンジニアリング・ソフトウェア大手のAnsys(アンシス。2024年1月、半導体設計ツール大手のシノプシスはAnsysを約350億USドルで買収すると発表した)は長年提携関係にありますが、両社は3月18日にアクセラレーテッドコンピューティング(AI用GPUのような特定分野に絞った高速コンピューティング)と生成AIを活用した次世代シミュレーションソリューションの開発を目指すことを発表しました。この協業は、6G、自動運転、デジタルツインなどの各分野に展開するものになります。

「GTC2024」の基調講演を聴いて言えることは、エヌビディアの業績拡大はまだまだ続きそうであるということです。

2.「GTC2024」から考える半導体製造装置の注目分野

1)「Blackwell」生産のために最も需要なのは「HBM」の増産

「Blackwell GPU」の生産はTSMCのN4P(4ナノラインの拡張版)を使うため、最先端ラインではなく、最先端から1世代前のラインになります。ただし、大型のチップを2つ接続して1つの「Blackwell GPU」ダイとしているため、「H100」よりも工程が複雑になっている可能性があります。

 また「Blackwell GPU」は「H100」に対して面積が約2倍になっています。HBMのダイサイズの変化は不明ですが、もともと大きいダイです。AI用GPUもHBMも、ダイサイズの大きさが生産の困難と半導体製造装置の需要増加に結びついています。

 昨年からのAI半導体増産の経緯を振り返ると、AI半導体を増産するときになによりも重要なのは、HBMの増産だろうと思われます。「B200」は192GBのHBM3e(DRAMの最新規格「DDR5」をベースにした特殊メモリの最新型)を装備しており、「GB200」は384GBのHBM3eを装備しています。「H100」の80GB(HBM2e)、「H200」の141GB(HBM3e)と比べて、HBMのスペックと容量は拡大しています。

 また、「B200」「GB200」のメモリ帯域幅は8TB/s(毎秒8テラバイト)であり、「H100」の2TB/s、「H200」の4.8TB/sに比べて大幅に拡大します。これが「B200」の性能向上の要因の一つになっていると思われます。HBMはAI半導体の性能に重要な役割を果たしているのです。

「HBM3e」はマイクロン・テクノロジーによれば、同じ容量のDRAM(DDR5)に対してウェハが約3倍必要になります(3カ月前の決算電話会議では約2倍以上としていました)。ちなみにマイクロンは最新型の「HBM3e」の「H200」向けの認証をエヌビディアから取得しており、「HBM3e」の量産を開始しています。

 現在のところ、マイクロンの2024年8月期設備投資は当初計画通り前年比横ばいの75~80億ドルとなる見込みです(2023年8月期は76.76億ドル)。この設備投資の多くがHBMの増産投資に使われる見込みであり、DDR5、NANDへの投資はごくわずかです。この傾向は、SKハイニックス、サムスン電子も同様と思われます(HBMメーカーはDRAM大手のSKハイニックス、サムスン電子、マイクロンの3社のみ)。

 ただし、HBM3eの増産に伴いDDR5向けウェハの需給が逼迫することが予想されます。また、AIサーバー、AIパソコン(AI処理機能強化型CPU搭載パソコン)、AIスマートフォンともにメインメモリ(DRAM)の容量が従来型よりも大きくなっています。

 この2つの理由から、DRAM価格が今よりも上昇するのを待ってからになると思われますが、2024年後半から2025年にかけてDRAM投資が増加に転じると思われます。特に2025年は過去最大規模のDRAM投資が実現する可能性があります。

 また、AIサーバー、AIパソコン、AIスマートフォンのSSD(NAND型フラッシュメモリを使った記録媒体)の容量も拡大する傾向にあります。2025年はNAND投資も再開される可能性があります。

 HBM3eの生産が増えれば、足元で出荷が始まっている「H200」、2024年後半から出荷が始まる「Blackwell GPU」、具体的には「B200」「GB200」などの出荷も増やすことができます。特に「Blackwell GPU」はダイサイズが大きいため、これがエヌビディアの計画以上に売れる場合は、TSMCの4ナノライン増強に結びつく可能性があります。

 この分野での注目企業は、東京エレクトロン、アプライド・マテリアルズ、ASMLホールディングです。

 東京エレクトロン:ロジック、メモリ向けのバランスが取れている前工程装置の大手です。HBM向けボンディング装置の最大手でもあります。

 アプライド・マテリアルズ:もともとロジックに強い会社ですが、DRAMの微細化が進むにしたがってDRAM向けを強化しています。HBM向けボンディング装置(東京エレクトロンとは違うタイプ)も強化しています。

 東京エレクトロン、アプライド・マテリアルズともに、過去1年間で中国向けが増加しており、これの今後の動向がリスク要因ですが、中国は半導体の内製化を進めているため、半導体設備投資が急減するリスクは当面は小さいと思われます。また、メモリ投資が今後上向くと思われます。東京エレクトロン、アプライド・マテリアルズなど前工程の各社は、今後業績拡大が予想されます。

 ASMLホールディング:2023年12月期4QにEUV露光装置の受注が急回復しました。2024年12月期1Q(2024年1-3月期)は受注のトレンドがどうなっているのかが注目点です。DRAM向けにEUV露光装置が少しづつ増加しています。2024年後半からDRAMの大型投資が始まる場合、EUV露光装置、1世代前のArF液浸露光装置の受注、出荷動向が注目されます。

2)ディスコの「中工程」に注目したい

 HBM3eは、DDR5ベースのウェハを8層重ねて、その上にロジック制御回路を描いたウェハ1枚を重ねて作ります。ウェハが分厚いと積層したときに嵩張って小型化できませんので、メモリウェハもロジックウェハも割れる限界までグラインダ(ウェハ底面を削って薄くする切削装置)で薄くし、縁を割れにくくするためにダイサで加工します。これらの加工は、前工程に近いクリーン度の高い工程で行われますが、クリーン度が高いため、特にグラインダは後工程の仕様に比べて価格が約2倍になります。

 ディスコでは、このように前工程に近いところで従来であれば後工程で行う作業をする場所を「中工程」といって積極的な研究開発を行っています。今後3~5年で売上高の20~30%が中工程向けになるとディスコは考えている模様ですが、AI半導体とHBMの伸びを考えるとより短い期間で売上高の20~30%以上が中工程向けになる可能性もあると思われます。

 ディスコでは顧客からの引き合いが強く、今後2年間で売り上げ倍増が有り得ると考えている模様です。HBM向け切削装置はディスコが市場シェアの大半を獲得している模様であり、HBMのディスコの業績への貢献度合いは四半期ごとに大きくなっていると思われます。

3)引き続き検査が重要

 AI用GPU、HBMともにダイサイズが大きく、いずれも通常の半導体よりも高額です。そのため、露光装置でウェハ上に回路を描くときに使うフォトマスク(ウェハ上に描く回路図を描きつけたもの)の検査、完成したAI半導体とHBMの検査が重要になります。注目企業は、レーザーテック、アドバンテストです。

 レーザーテック:EUV露光装置で使うEUV光を使ったフォトマスク欠陥検査装置で市場シェア100%の会社です。AI用GPUの生産に使う4ナノラインでも、最先端のフォトマスク欠陥検査装置「Actis A150」が使われている模様です。次世代型の「Actis A300」も受注、出荷を始めています。一方、受注高が低迷しており、今後の受注回復が期待されます。

 アドバンテスト:GPUテスタで過半数の市場シェアを持っています。ダイサイズが大きくなるにしたがって少量のGPUしか一度にテストできなくなるため、GPUテスタの台数が多く必要になります。2023年3月までにGPUテスタをOSAT等に大量に出荷したため、2023年10-12月期までは、GPUテスタ等のSoCテスタの回復は鈍くなりました。ただし、「H200」の出荷開始と今年後半からの「Blackwell GPU」の出荷開始によって、2024年1-3月期または4-6月期にGPUテスタとSoCテスタの出荷が回復すると予想されます。

 また、HBMの生産増加に伴い、メモリ・テスタの売上高が増加中であり、今後の伸びが期待されます。

3.半導体デバイス市場、半導体製造装置市場の動向

 グラフ1は、世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)を示したもの、表2は世界半導体出荷金額(単月)を示したものです。世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)は2023年2月、世界半導体出荷金額(単月)は2023年1月に大底を付けて現在は順調に回復中です。これは、パソコン向け、スマートフォン向けCPU、サーバー向けCPUで2023年前半に思い切った在庫調整を行ったこと、DRAM、NANDもCPU以上に思い切った在庫調整を行ったことによります。

 半導体デバイスの動きを分野別に見ると、iPhoneの売れ行きが鈍いことが懸念材料ですが、スマートフォンの分野でサムスンやアルファベットなどが積極的にAIスマートフォン(AI処理機能強化型チップセットを搭載したもの)を発売していること、パソコンでもAIパソコン(AI処理機能強化型CPUを搭載したパソコン)の売れ行きが良い模様であることから、スマートフォン、パソコンの両分野で早期に3ナノチップセットを搭載しようとする動きがある模様です。3ナノについては順調に増産が進むと思われます。

 サーバーではAIサーバーの伸びが大きくなっており、半導体市場に対するインパクトが大きくなっていると思われます。

 またDRAM、NANDともに市況がすでに底打ちしていること、HBMがプラス要因になっていることから、これも世界半導体出荷金額にプラスの影響を与えていると思われます。

 TSMCの月次売上高を見ると(グラフ2)、2024年1-3月期は営業日数が少なく、季節性が出やすい時期なので、勢いよく売上高が増えているわけではありませんが、前年を上回っています。

 設備投資について見ると、日本製半導体製造装置販売高(3カ月移動平均、グラフ3)は2023年6月を底にして回復中です。

 このように、業界データを見ると、半導体デバイス、半導体製造装置ともに、現在は回復、再成長の過程にあると言えます。

グラフ1 世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)

単位:1,000ドル、出所:WSTSより楽天証券作成

表2 世界半導体出荷金額(単月)

単位:100万ドル、%
出所:WSTSより楽天証券作成。

グラフ2 TSMCの月次売上高

単位:100万台湾ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ3 日本製半導体製造装置販売高(3カ月移動平均)

出所:日本半導体製造装置協会、単位:100万円、%

4.半導体製造装置各社の業績予想と目標株価

1)ディスコ以外の業績予想と目標株価は変更しない

 今回は、東京エレクトロン、アプライド・マテリアルズ、ASMLホールディング、アドバンテスト、レーザーテックについては、業績予想と今後6~12カ月間の目標株価は変更しません。各社とも引き続き中長期で投資妙味を感じます。

 なお、この中でレーザーテックの目標株価と現在の株価が接近していますが、レーザーテックについては2024年6月期3Q(2024年1-3月期)の受注高が回復しているのか、まだ回復を待たなければならないのかを確認してから再評価したいと思います。

現在の今後6~12カ月間の目標株価

東京エレクトロン 4万6,000円
アドバンテスト 8,600円 
レーザーテック 4万6,000円
ASMLホールディング 1,100ドル
アプライド・マテリアルズ 270ドル

2)ディスコの2025年3月期楽天証券業績予想を上方修正し、目標株価を引き上げる

 ディスコについては、2025年3月期の楽天証券業績予想を上方修正します。2025年3月期の前回予想、売上高3,700億円(前年比27.6%増)、営業利益1,580億円(同43.6%増)を、売上高4,000億円(同37.9%増)、営業利益1,760億円(同60.0%増)へ上方修正します。2024年3月に開催された社長ミーティングの中で、製品の引き合いが活発で、経営者の肌感覚としてですが、今後2年間で売上倍増が可能ではないかという発言があったこと、この背景としてHBM向けの好調と、新型パワー半導体であるSiCウェハ向けダイサ、グラインダの好調があることを重視しました。

 楽天証券の業績予想上方修正に伴い、今後6~12カ月間のディスコの目標株価を前回の5万円から7万1,000円に引き上げます。楽天証券の2025年3月期予想EPS(1株当たり利益)1,197.1円にPEGを1倍前後として想定PER(株価収益率)を60倍前後として当てはめました。

 引き続き中長期の投資妙味を感じます。

3)各社の業績表は以下の通りです。

表3 ディスコの業績

株価 55,190円(2024/3/28)
発行済み株数 108,342千株
時価総額 5,979,395百万円(2024/3/28)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注3:2023年4月1日付けで1対3の株式分割を実施。これに対応して過去の配当額を遡及修正している。

表4 東京エレクトロンの業績

株価 39,260円(2024/3/28)
発行済み株数 462,905千株
時価総額 18,173,650百万円(2024/3/28)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表5 アドバンテストの業績

株価 6,695円(2024/3/28)
発行済み株数 738,176千株
時価総額 4,942,088百万円(2024/3/28)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期利益は親会社の所有者に帰属する当期利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注3:2023年10月1日付けで1対4の株式分割を行った。表中の配当額は分割にあわせて遡及修正している。

表6 レーザーテックの業績

株価 42,930円(2024/3/28)
発行済み株数 90,187千株
時価総額 3,871,728百万円(2024/3/28)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社の所有者に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表7 ASMLホールディングの業績

株価(アムステルダム) 892.20ユーロ(2024年3月28日)
株価(NASDAQ) 970.47USドル(2024年3月28日)
時価総額 381,783百万USドル(2024年3月28日)
発行済株数 393.8百万株(完全希薄化後、Dilluted)
発行済株数 393.4百万株(完全希薄化前、Basic)
1ユーロ 1.0787USドル(2024年3月29日)
単位:百万ユーロ、ユーロ、米ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:ASMLホールディングはアムステルダム、NASDAQに上場しているが、ここではNASDAQの株価でPERと時価総額を計算した。

表8 アプライド・マテリアルズの業績

株価(NASDAQ) 206.23ドル(2024年3月28日)
時価総額 171,377百万ドル(2024年3月28日)
発行済株数 837百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数 831百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。

本レポートに掲載した銘柄東京エレクトロン(8035、東証プライム)ディスコ(6146、東証プライム)アドバンテスト(6857、東証プライム)レーザーテック(6920、東証プライム)アプライド・マテリアルズ(AMAT、NASDAQ)ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)エヌビディア(NVDA、NASDAQ)