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著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
セクターレポート:アメリカの住宅セクター(利下げの効果とアメリカ新政権の住宅政策に注目したい。D.R.ホートン、トール・ブラザーズ)

毎週月曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄:D.R.ホートン(DHI、NYSE)トール・ブラザーズ(TOL、NYSE)

1.回復、再成長に向かうアメリカ住宅セクター

 今回はアメリカの住宅セクターを取り上げます。

 アメリカには様々な成長セクターがありますが、住宅セクターもその一つです。アメリカはOECD加盟国の中で例外的に人口が増えている国です。2020年のアメリカの人口は3.097億人、2024年10月推計は3.372億人です。この間、日本は減少しており、EU(欧州連合)は増えてはいますがアメリカほどではありません。

 アメリカの人口が増えているのは移民が多く、移民の出生数が多いためです。このため、手頃な価格の優良な住宅が常に不足している状態にあります。

 手頃な価格の優良な住宅が不足している状態は、2022年3月からのアメリカの利上げ局面とその原因である2021年前半からの物価上昇によってさらにひどくなりました。高金利によって住宅ローン金利が上昇し、資材価格上昇と賃金上昇によって住宅価格も上昇しました。

 また、低金利時代に低利の住宅ローンで家を購入した人たちが高金利の住宅ローンで借り換えるのを嫌ってそのまま住み続けているため、中古住宅の供給が減少し、売りに出た中古住宅も以前に比べ古いものが多くなっています。

 そのため、新築住宅への需要が増えています。アメリカの株高によって、頭金を多めに準備できる人や、手持ち資金で住宅を買うことができる人たちも多くなっています。そういった人たちが高金利、高価格の中で新築住宅を買っています。そのため、住宅メーカーの業績は売上高の伸びは鈍化し、減益にはなっていますが、意外に堅調な業績になっています。

 また、グラフ1以降のグラフでアメリカの住宅市場の動向を見ると、アメリカの住宅市場はこの夏で底打ちしたと考えられます。

 このような状況下で、2024年9月にFRB(米連邦準備制度理事会)は利下げ、それも0.5%ポイントという大幅利下げを行いました。2022年2月からのFRBの利上げによって、アメリカの物価上昇率が抑えられた結果、住宅価格の上昇率も抑えられるようになりました。年内にもう1回の利下げがあると予想されていますが、すでに住宅ローン金利のベースになるモーゲージローン金利は大きく下落しています。今後は、利下げと新築住宅価格のピークアウトが、住宅市場の回復と再成長に結びつくと思われます。ただし、新築住宅価格が今後下がるのか、当面は横ばいで推移するのか、あるいは再び上昇する可能性があるのかを見極めるには、金利、住宅需要とアメリカ大統領選挙後の新政権の住宅政策を観察する必要があります。

グラフ1 アメリカ住宅着工件数

単位:1,000件、月次、季節調整済み、年率換算、出所:U.S. Census Bureau and U.S. Department of Housing and Urban Development, Survey of Constructionより楽天証券作成

グラフ2 アメリカ住宅着工件数:前年比

単位:1,000件、月次、季節調整済み、年率換算、出所:U.S. Census Bureau and U.S. Department of Housing and Urban Development, Survey of Constructionより楽天証券作成

グラフ3 アメリカ住宅着工許可件数

単位:1,000件、季節調整済み、年率換算、出所:U.S. Census Bureau and U.S. Department of Housing and Urban Development, Survey of Constructionより楽天証券作成

グラフ4 アメリカ:新築住宅販売件数(季節調整済み、年率換算)

単位:1,000件、季節調整済み、年率換算、出所:U.S. Census Bureau and U.S. Department of Housing and Urban Development, Survey of Constructionより楽天証券作成

グラフ5 アメリカ:新築住宅販売件数(季節調整済み、年率換算)前年比

単位:1,000件、季節調整済み、年率換算、出所:U.S. Census Bureau and U.S. Department of Housing and Urban Development, Survey of Constructionより楽天証券作成

グラフ6 アメリカ:新築住宅販売件数(季節調整前、単月)

単位:1,000件、季節調整前、単月、出所:U.S. Census Bureau and U.S. Department of Housing and Urban Development, Survey of Constructionより楽天証券作成

グラフ7 アメリカ:中古住宅販売件数

単位:1,000件、季節調整済み年率換算、出所:全米不動産協会より楽天証券作成

グラフ8 アメリカ:新築住宅販売価格

単位:ドル、出所:U.S. Census Bureau and U.S. Department of Housing and Urban Development, Survey of Constructionより楽天証券作成

グラフ9 アメリカ中古住宅販売価格:中央値

単位:ドル、月次、出所:全米不動産協会(NATIONAL ASSOCIATION OF REALTORS)資料より楽天証券作成

グラフ10 アメリカの住宅ローン金利(モーゲージ金利)

単位:%、出所:Freddie Mac資料より楽天証券作成

グラフ11 アメリカの政策金利

単位:%、出所:FRBより楽天証券作成

グラフ12 アメリカの消費者物価指数:前年比

単位:%、出所:U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICSより楽天証券作成

2.アメリカの次期政権の住宅政策は?

 今後のアメリカの住宅市場を見る上で重要なのが、アメリカ大統領選挙です。

 8月に選挙戦からの撤退を表明したバイデン大統領に代わって民主党の大統領候補になったカマラ・ハリス氏は、8月16日にノースカロライナ州で行われた選挙集会で積極的な住宅政策を表明しました。内容は以下の通りです。

  1. 初めての購入者向けの住宅を建設する業者に対する新たな税額控除。
  2. 初めての住宅購入者を対象とした2万5,000ドルの頭金補助。
  3. この2つの支援を通じ、任期の4年間で300万戸の住宅を新たに建設する。
  4. 地方政府による手頃な価格の住宅建設を奨励するため400億ドルの基金を提案。
  5. 規制簡素化や家賃補助拡大。

 これに対して、共和党のトランプ候補は、頭金支援で住宅の供給不足が加速し、価格が上がる恐れがあるとしています。頭金の確保に苦労している人には別の支援策を講じる可能性を示唆しましたが、明確な住宅政策を示していません。ただし、共和党の綱領では、税額控除や規制撤廃を通じて住宅所有率を高めるとしています。

 ハリス氏の住宅政策には大きな予算が必要になると思われるため、ハリス氏が次の大統領になったとしても、全て政策が実現するわけではないと思われます。ただし、アメリカの住宅着工件数は2021年160.1万戸、2022年155.3万戸、2023年141.3万戸です。4年間300万戸の新築住宅建設は、一般向けの普及価格帯の住宅になると思われますが、住宅市場にとってもアメリカ経済にとっても十分に大きいものです。

 仮に次の大統領がトランプ氏になっても、選挙戦で住宅政策がテーマになったことはトランプ政権の政策にも影響すると思われます。アメリカの住宅政策に注目したいと思います。

3.アメリカの金余りと利下げで、投資対象としての住宅にも注目したい

 住宅を購入する人は自分が住むためにのみ購入するわけではありません。多くの国で住宅は賃貸、転売するための重要な投資対象です。

 アメリカでも住宅への投資は盛んです。FRBの利下げとともに、アメリカでMMFの残高が6.4兆ドル(1ドル=146円換算で934兆円)という巨額の待機資金があることが注目されます。FRBの大幅利下げは、これらの資金にとって、株式市場、住宅・不動産市場に資金を振り向ける重要な契機になると思われます。

グラフ13 アメリカのマネーマーケットファンド(MMF)残高

単位:100万ドル、出所:アメリカ投資信託協会(ICI)、注:2024年5月31日までは月次、それ以降は週次

4.アメリカの住宅メーカーランキング

 アメリカには沢山の住宅メーカーがあります。売上高ランキング上位5社を表1に示しました。この5社はアメリカ全国で活動しているメーカーでもあります。今回は、この5社の中でトップ企業のD.R.ホートンと、高級住宅専門メーカーであるトール・ブラザーズを取り上げます。

 アメリカの住宅関連企業には、住宅メーカーのほかに、DIYのホームセンターがあります。住宅関連が注目されるときに注目されるDIY銘柄は、ホームセンタートップのホームデポと2位のロウズです。アメリカはDIYが盛んで、新築、中古を問わず、住宅を買った人がDIYで自分の家に手を入れます。これについては、別の機会に取り上げます。

表1 アメリカの大手住宅メーカー

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成