アップルは脱炭素が分断の一因だと察知?

 この分断は、リーマンショック後の西側の対応がきっかけで発生したと筆者は考えています。西側は同ショック後、経済回復・株価上昇を企図し、「環境問題」を提唱して石油を否定し、「人権問題」を提唱して問題を抱えた国、地域、企業との取引を止めることを推奨し始めました。

図:リーマンショックを起点とした世界的なリスク拡大と金、原油、株高の背景(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 確かにこうした行動は、西側の経済を立て直すことや、株価を上昇させることに大きな貢献をしました。

 ESG投資が推奨され、環境問題改善の取り組みを進めればE(環境)が、人権問題改善の取り組みを進めればS(社会)が順守されているとの評価が下り、こうした国や企業、そして関連金融商品に莫大(ばくだい)な資金が流入しました。このことは、2010年ごろからの株価急騰を支えた要因の一つだと言えます。

 しかし、西側のこうした行動が、非西側との分断を深めてしまったことも事実であると、考えられます。

 2010年ごろ以降の西側の行動を振り返れば、西側は燃焼時に二酸化炭素を排出する石油や石炭を生産したり消費したりする国を悪と見なし、脱炭素を制裁の手段(正義の鉄槌)として使用して、非西側の産油国や石炭火力を重用する新興国をたたいてきた、と言われてもおかしくはありません。

 それでいて脱炭素を自分たちのビジネス拡大の柱としていたとなれば、分断が深まるのも無理はありません。

 およそ10年間進めてきたEV(電気自動車)事業から撤退を表明したアップルは、開発を進めてきた中で、西側にとって脱炭素が武器という意味を持ってしまったことに気が付いたのではないでしょうか。EV撤退決定は、生成AIに注力すること以外に、西側と非西側の分断を修復するための一歩という意味もあると、筆者は感じています。