中央銀行は分断に金(ゴールド)で対応
2010年ごろに発生した分断は、各国の中央銀行の外貨準備高の内訳を変化させたと考えられます。外貨準備高とは、中央銀行が対外的な非常事態に備えて蓄えている資金です。
図:中央銀行の外貨準備高に占める金(ゴールド)の割合(世界全体)
上図の通り、2010年代の後半より、中央銀行が保有する外貨準備高に占める金(ゴールド)の割合(世界全体)が上昇しています。2013年に低下したのは、米国の金融政策が引き締め方向に修正されることが示唆されたことを受け、米ドルを保有する妙味が増したことが主な要因と考えられます。
しかし低下が一巡すると、再び上昇に転じました。西側と非西側の分断深化がもたらす懸念(有事ムード)は、個人のみならず中央銀行にとっても、金(ゴールド)の保有量を積み増す大きな動機になっていると考えられます。
実際に、中央銀行全体の金(ゴールド)の買い越し(購入-売却)状況を確認すると、以下の通り、2010年ごろ以降、買い越しが続いていることが分かります。買い越しの規模は、2022年が統計市場最高、翌2023年がそれに次ぐ高水準でした。
2010年ごろから強まっている西側と非西側の分断をきっかけとした懸念が買いを続ける動機となり、戦争勃発が買いに拍車をかけたと言えそうです。
図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移 単位:トン
西側・非西側の分断が解消するまでは、中央銀行の金(ゴールド)の買い越しは続く可能性があると筆者はみています。分断を解消するためには、分断のきっかけとなった「環境問題」と「人権問題」において、西側と非西側が歩み寄ることが必要です。
ですが、西側はすでに、環境問題や人権問題を改善するための策を止めることができなくなっています。なぜなら、すでに莫大なお金を動かしてしまったからです。関連企業の株価や関連金融商品の価格を下落させないためにも、西側は脱炭素を引っ込めることは容易でありません。
つまり分断を解消することは大変に難しいのです(その意味で、アップルのEV撤退は英断だった)。分断がもたらす不安やリスクは長期化し、それをきっかけとした中央銀行の金(ゴールド)の買い越しも長期化する可能性があります。