パラジウム価格が下がってプラチナとの差が縮まったことで、この二つのメタルは2018年以来初めて、ほぼ同水準の価格になった。以前よりパラジウムは2025年以降の供給余剰が予測されており、価格の下落を見越して投資家はネットショートを維持、市場ではショートカバーラリーが起こりやすくなっている。対照的にプラチナのファンダメンタルズは少なくとも2028年までは供給不足予測でパラジウムよりも良好だ。自動車メーカーのプラチナ在庫が少なくなるにつれて価格にもそれが反映されるだろう。 

 パラジウムの価格は、それまで数年にわたる供給不足を背景に2018年からプラチナを上回り、その後3年ほどプラチナに対するプレミアムは1,000ドル/オンスを超え、このため自動車業界では触媒装置でパラジウムと1:1で代替が可能なプラチナを使う動きが進んだ(2023年の代替は18.7トン以上)。パラジウム価格は2022年3月に3,012ドル/オンス(図1)で過去最高に達し、またロシアによるウクライナ侵攻もあってプラチナとのプレミアムも1,883ドル/オンスと、同じく過去最大となり(図3)、代替はさらに進んだ。しかしその後のプラチナとパラジウムの展望は大きく異なる。パラジウムにはプラチナの代替需要(図5)、エンジン車の自動車触媒需要への依存、今後増える予測のリサイクル供給などがのしかかる。逆にプラチナには代替だけでなく、パラジウムよりもより広い分野からの需要がある(自動車需要はプラチナ需要の約4割だが、パラジウムでは約8割を占める)。WPICは、プラチナは2023年から少なくとも2028年まで供給不足(図2)、パラジウムは2025年からは供給過剰(図4)になると予測している。ファンドマネジャーのパラジウムポジションはネットショート(図6)だが、プラチナポジションは平均でロング、ショートどちらにも傾いていない(図7)。

図1:パラジウムとプラチナの価格は同水準に

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ  注:ロンドン取引時間中の価格

図2:プラチナ市場は供給不足の予測

資料:2013年~2018年はSFA(オックスフォード)、2019年~2024年予測はメタルズフォーカス、それ以降はWPICリサーチ

 パラジウム価格は投資家のショートポジションカバーが続くため短期的には大きな動きになるだろう。実際昨年12月以来、ショートスクイーズは既に2度起こっている。またパラジウムが供給過剰にならない可能性もある。パラジウムのリサイクルは年間約31.1トン増える予測だが、リサイクル産業は様々な問題に直面しており、増加が実現しなければ市場は過剰には転じず、あるいは供給不足が続くかもしれない。しかしファンダメンタルズがより良好なプラチナの価格がもっと上がらないのは一体なぜだろうか。2022年から2023年にかけて各国中央銀行がインフレを抑制するために実施した金融引き締めで、金利を生まないプラチナに対する投資家心理は悪化。一方で自動車メーカーはコロナ禍と半導体問題で減産を余儀なくされた時期にプラチナの在庫が増えていたため、現物プラチナの購入を減らしていたのだが、既にメーカーの購入が平常に戻った兆しはある。さらにプラチナ市場は2年連続で供給不足と予測されており、今後の価格上昇も期待でき、投資家が戻ってくる環境は整ったように見える。

プラチナとパラジウムの価格差は縮まり、2018年来初めてほぼ同水準に

パラジウムの先物ポジションはショートカバーラリーが起こりやすいパターンに

プラチナは価格が供給不足予測を反映しておらず、過小評価が続く 

投資資産としてのプラチナ

-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-プラチナ供給は鉱山生産、リサイクル共に問題が多い
-自動車のプラチナ需要は2024年もガソリン車の代替需要を主に成長が期待できる
-プラチナは世界の水素経済を支えるエネルギー転換に不可欠な重要鉱物
-プラチナ価格はゴールドとパラジウムに比べて大幅に低いまま

図3:プラチナとパラジウムの価格差は2018年以来、初めて縮小

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図4:パラジウムの供給余剰予測は、リサイクル供給が増加する想定に基づく

資料:2022年まではメタルズフォーカス、それ以降はWPICリサーチ

図5:プラチナによる代替は2019年以来、自動車のプラチナ需要の成長がパラジウムのそれを上回ってきた背景

資料:2024年プラチナ、2022年パラジウムまではメタルズフォーカス、それ以降はWPICリサーチ

図6:パラジウムのファンドマネジャーポジションはネットロングからネットショートに動き、需給見通しの悪化を象徴

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図7:プラチナのファンドポジションは、ファンダメンタルズとマクロ経済的センチメントを反映したレンジに終始

資料:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図8:プラチナ市場は少なくとも2028年まで供給不足の予測

資料:2013年~2018年はSFA(オックスフォード)、2019年~2024年予測はメタルズフォーカス、それ以降はWPICリサーチ

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