EUのグリーン水素産業は、ここ数ヶ月間で100MWを超える大規模水電解装置プロジェクト4つの最終的な投資資金配分(FID)が決定されるなど、政府援助の増加とともに政策環境が明らかになってきたおかげで弾みがついている。2023年の水素関連のプラチナ需要は約1.2トンだが、グリーン水素生産が産業として確かなものになるに伴い、2028年には14.8トンに増えると我々は予測している。水素経済は、今後のプラチナ投資の成長を支えていく、プラチナの新しい重要市場だ。

 我々は2028年までに、燃料電池自動車(FCEV)が水素関連のプラチナ需要の大半を占めると予測している(図2)。水素経済の上流で水電解装置を使ったグリーン水素が大量に生産できるようになれば、FCEVの普及が加速するだろう(プラチナ投資のエッセンス4月30日参照)。グリーン水素生産が量産されるようになれば、2022年から2030年の間に水素の均等化コスト(LCOH)は65%下がり(図3)、大型輸送車の燃料電池車(HDFCEV)はディーゼルトラックと総所有コスト(TCO)においても価格で対抗できるようになる。水素コストが下がればFCEV需要が促進され、今後たとえバッテリー電気自動車(BEV)が徐々に増えても自動車のプラチナ需要を支えることができる。従って2028年までの年平均の需要減少率は1.4%に抑えられるだろう(図4)。

 欧州では全体で55GWの水電解装置プロジェクトが計画されているが、最近新たにFIDの承認が発表されるまでは、FID承認を終えていたのはその中の約5%にすぎなかった(図5)。コスト高、様々なインフラの問題、そして不透明な政策環境などがネックとなって、グリーン水素に対する投資の妨げとなっていたのだ。年間およそ100Mtとされる2023年の世界の水素市場の中で、グリーン水素の割合は約1%。

図1.EUでは2024年7月中にFIDが承認された水電解装置プロジェクトがいくつかある

出典:各社発表、WPICリサーチ

図2.水素のプラチナ需要は急成長している

出典:国際エネルギー機関(IEA)、各社データー、WPICリサーチ

 欧州では過去2年で水素政策が本格的に導入され始め、国の補助も増えている。ドイツで50億ユーロ、スペインで12億ユーロの支援が決定されるや否や、業界が直ちに動き始めた。2024年7月だけでも、電解能力の合計が930MWとなる4つのプロジェクト(図1)のFIDが発表されるなど、水電解装置計画の承認数は33%増え、5番目のプロジェクトもFID承認が近いとされる。計画を進める民間セクターにBP、Iberdrola、Shell、TotalEnergiesなど世界有数のエネルギーやユーティリティ企業が参加していることは心強いことだ。

 FIDの段階に進んでいる水電解装置プロジェクトが増えれば、2030年までに欧州で稼働中の水電解能力は約22GWに達するという我々の予測を支えることになる(図6)。欧州企業の多くは、PGMを使う固体高分子型(PEM)水電解装置を使うのが一般的になると我々は予測している(図7)。水素関連のプラチナ需要の目玉はFCEVではあるというのが我々の立場だが、それでも水電解装置によるプラチナ需要は2028年までに3.6トン(図8)になるだろう。したがって、水電解装置への投資が順調に増えれば、それはFCEVに対してもポジティブな流れとなり、プラチナ投資の増加につながることになる。  

政策面の支援を背景にグリーン水素への投資が増えている

水素関連のプラチナ需要は、2023年の1.2トンから、2028年までに14.8トンに増える予測

投資資産としてのプラチナ

-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-プラチナ供給は南アの鉱山供給とリサイクル率の低下で逆風強まる
-自動車のプラチナ需要はガソリン車でパラジウムの代替としてのプラチナ利用で2024年も成長続く
-プラチナは世界のエネルギー転換に必要な水素経済に重要な役割を果たす重要鉱物
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅な割安

図3:水素産業が拡大するにつれ、水素の均等化コストが下がり、電力がコストを左右する主な要因となる

出典:IEA「2023年世界エネルギー見通し」、電力価格46ドル/MWh、WPICリサーチ

図4:燃料電池のプラチナ需要は、BEVの普及で減る自動車触媒のプラチナ需要の減少を補う

出典:メタルズフォーカス(2022年~2024年のプラチナ)、それ以降はWPICリサーチ

図5:欧州の水電解装置プロジェクトは、コスト高、インフラ、政策などの問題で、最終投資資金配分に至るまで時間がかかっている

出典:IEA,水素協議会、WPICリサーチ *FIDには合計930MWの新規プロジェクトを含む

図6:2030年までに欧州で稼働するPEM型水電解装置の電解能力は22GWになるだろう

出典:IEA,水素協議会、WPICリサーチ

図7:PGMを使うPEM型水電解装置は世界で約35%、欧州ではさらに高いシェアとなる予測

出典:IEA,水素協議会、The Orange Group, WPIC リサーチ

図8:グリーン水素生産が本格化すれば水電解装置のプラチナ需要は急増するだろう

出典:IEA,水素協議会、The Orange Group,各社データ、WPICリサーチ

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