2年から5年先のプラチナ市場の展望に関する我々のレポート(『プラチナ投資のエッセンス』9月26日付)で発表した通り、2025年から2028年の間のプラチナ市場の供給不足は年間平均23.9トンになる予測だ。需要を満たすには地上在庫が使われるだろうが、それも2028年には底をつく可能性がある。プラチナが数年にわたって供給不足になってもプラチナ価格は反応しないという見方が多いのは、ETFの売却で現物の不足分を補えるとされているからだ。ETFを売れば確かに現物が市場に供給されるが、ETFを保有する投資家の行動は価格に影響されないわけではない。パラジウムを見てもわかる通り、ETFの多くは、スポット価格がETF保有にかかる加重平均コストを大きく超えて初めて売られた。つまり、プラチナ価格がプラチナETFを保有する加重平均コストとなる1,100ドル/オンスを超えれば、ETFが売られる可能性はあるが、大量の売りを誘うには価格がさらに大きく上昇する必要があることになる。
プラチナETFは2007年から始まり、原資となっている現物は約99.5トンに上る(図5)。これがプラチナ需要を支えた面もあるが、逆に言えばETFが売られればその原資が供給に回ることになる。しかし、プラチナETFはプラチナ価格が上がることで利益を期待する投資家が買っている点を忘れてはならず、従って価格に関係なくETFが売られるわけではない。投資家がETFを売る分岐点となる価格は、原資となっている現物の加重平均コストから推測できる。ETF保有にかかるコストは、毎月のETF保有高と平均価格を掛け、最後にETF保有高全体で割って算出される1オンスごとの加重平均コストで、これは今の時点のプラチナETF保有高だと、1,100ドル/オンスとなる(図1)。
図1:現在保有されているプラチナETFの加重平均コストは推定1,100ドル/オンス
図2:パラジウムETFの大半はスポット価格が加重平均コストを上回った時に売られた
パラジウムを見てもわかるように、数年に及ぶ供給不足が生じる市場ではETF保有にかかる加重平均コストとスポット価格が交錯する点が売りを誘う分岐点となる(図7)。2015年から2020年の間にパラジウム価格は3倍に上がり、その間にETF残高は93.3トンから18.7トンに減ったが、ほとんどの売却はスポット価格がETF保有にかかる加重平均コストを超えた後に起こっている (図2)。従ってプラチナ価格が1,100ドル/オンスを上回る期間が続かない限り、プラチナETFの大量売却は起きず、供給の不足は地上在庫で補うしかない。これからの利下げサイクルは、コモディティーETFなど金利がつかない商品の競争力には追い風だ。
一方、ゴールドETFは、スポット価格はほとんど常にETF保有の加重平均コストを上回っている (図8)が、ゴールド価格が下落局面に入るとETFの売却が増え、ゴールド価格が上がると逆に ETFの売却は減っている。高価であるほど需要が高まるというヴェブレン効果から言えば、プラチナ価格が上がればプラチナETFの保有がさらに増え、我々が少なくとも2028年まで続くと予測している現物不足をさらに悪化させる可能性もある。
プラチナ市場の供給不足が数年にわたって続き、地上在庫は2028年になくなる可能性
地上在庫、あるいはETFの原資として存在するプラチナは価格の動きに無関係ではなく、条件が合わなければ供給不足を補う現物として市場に現れない
投資資産としてのプラチナ
-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-プラチナ供給は南アの鉱山供給とリサイクル率の低下で逆風強まる
-自動車のプラチナ需要はガソリン車でパラジウムの代替としてのプラチナ利用で2024年も成長続く
-プラチナは世界のエネルギー転換に必要な水素経済に重要な役割を果たす重要鉱物
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅な割安
図3:プラチナ市場は2023年から、少なくとも2028年まで連続で供給不足の予測
図4:プラチナの供給不足が続き地上在庫は2028年に完全に消滅する予測
図5:プラチナ価格が動けば、ETFで保管されているメタルの価値は、ETFを買って保有する間のコストとは違うものになる
図6:2015年以降にプラチナ価格が下がり低い価格でETFの原資として使われたことで、ETF保有の加重平均コストも少しずつ下がった。
図7:2010年から数年間、パラジウム市場は供給不足となり*その後の価格の大きな上昇につながった。プラチナも同様の道を辿る可能性がある
図8:ゴールドETFは価格と比例関係にあり、価格上昇局面ではETFの購入も増える
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WPICのリサーチと第2次金融商品市場指令(MiFID II)
ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(以下WPIC)は第2次金融商品市場指令に対応するために出版物と提供するサービスに関して内部及び外部による再調査を行った。その結果として、我々のリサーチサービスの利用者とそのコンプライアンス部及び法務部に対して以下の報告を行う
WPICのリサーチは明確にMinor Non-Monetary Benefit Categoryに分類され、全ての資産運用マネジャーに、引き続き無料で提供することができる。またWPICリサーチは全ての投資組織で共有することができる。
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当和訳は英語原文を翻訳したもので、和訳はあくまでも便宜的なものとして提供されている。英語原文と和訳に矛盾がある場合、英語原文が優先する。